2006年(平成18年)の台風に関する情報のまとめ

2006年12月29日

2006年(平成18年)の台風は23個と2005年と同数。相変わらず平年よりも少ない発生個数で推移しています。日本本土への上陸数も2個と少なかった年ではありますが、台風を吸収した低気圧が大きな災害を引き起こすなど、こうした数字には現れてこない事件もありました。まず日本に直接的な影響を与えた台風の中では、以下の台風が最大のものだったと言えるでしょう。 台風200613号 (SHANSHAN) まず先島諸島に接近して猛烈な風を観測したあと、勢力があまり衰えないまま九州に上陸しました。九州北部へ上陸する台風としてはかなり勢力が強かったことから、長崎や佐賀・福岡で家屋や農業などに甚大な被害が発生しました。また中心から離れた宮崎県では複数の竜巻が発生し、延岡市での列車脱線事故が象徴的に取り上げられました。
また、日本に直接的な影響を与えたわけではありませんが、今年は以下の台風も特徴的でした。 台風200612号 (IOKE) ハワイ諸島近海で発生したハリケーンが日付変更線を越えて西へとはるばる進み、数日にわたって猛烈な勢力を維持しました。ウェーク島や南鳥島では台風の直撃に備えて全島避難をおこないましたが、低地の島は高潮に水没して大きな被害を受けました。またこのようにハワイ諸島近海で強いハリケーンが発生するのは、エルニーニョ現象と関連があるのではないかという説がありますが、気象庁の観測によると実際に今秋からエルニーニョが発生しているようです。 台風200616号 (BEBINCA) + 台風200617号 (RUMBIA) 今年の一つの特徴は双子台風や三つ子台風が多かったということですが、中でも最大の問題台風となったのが台風200616号(BEBINCA)と台風200617号(RUMBIA)の双子台風でした。両者とも台風としては大した勢力ではありませんでしたが、台風200616号は形状と動きが不規則で予測がなかなか難しく、さらにこれらの台風が消滅してからその暖気を吸収した温帯低気圧が本州東海上で急速に発達するという展開になったため、強風による船舶事故や山岳事故などが多発して全国の死者・行方不明者は40人余りにも達しました。このように急速に発達する温帯低気圧に対する注意をどのように喚起すればよいのかという問題が改めて話題となり、これが契機となったのか(?)、一部の報道機関からは「爆弾低気圧」という言葉がよく聞かれるようになりました。

その他の地域の台風

東アジア・東南アジア地域では、今年の前半は中国に、後半はフィリピンに台風被害が集中しました。 まず中国では、台風200604号(BILIS)の巨大な雨雲によって中国内陸部が大雨となり、約1000人の死者を出す災害となりました。続いてこの50年間で中国本土に上陸した最も強い台風と認定された台風200608号(SAOMAI)が浙江省に上陸し、強風と大雨によって沿岸地域に死者約450名という大きな災害が発生しました。これらの台風では中国地方政府による情報隠しが問題となり、政府から公表された被害規模に関する疑念が残りました。 後半はフィリピン東海上で台風が猛発達するパターンが連続し、中でも台風200621号(DURIAN)によるマヨン山麓の泥流災害が最大の災害となりました。台風が接近する数か月前に再開した火山噴火で積もった噴出物が、台風による記録的な大雨で泥流になって山麓を襲うという、いくつもの不運が重なった災害ではありましたが、防災対策が遅れがちなフィリピンの状況が被害を拡大したという面もあるかもしれません。死者・行方不明者は約1500人。約11万人が避難生活を送る中、現在も復旧活動はあまり進んでいません。

ハリケーン

これに対して北大西洋のハリケーンは、2004年と2005年の活発さから一転して落ち着いた年となりました。特に2005年はハリケーンの活動が史上最高に活発な年であり、ハリケーンKatrina等の猛烈なハリケーンの連発や史上初のギリシャ文字熱帯低気圧の命名などが記憶に新しいところですが、今年は米国に上陸した主要なハリケーンはErnestoぐらいであり、名前もIssacまでしか進んでいません。昨年の命名熱帯低気圧が27個に達したのに対し、今年はたった9個にとどまっています。

地球温暖化と台風・ハリケーンの関係

さて、このように活動が鎮静化したとすると、昨年に議論が沸騰した地球温暖化と熱帯低気圧との関係については、どのように考えればよいのでしょうか。こうした疑問に対する科学者側からの見解として、2006年11月末に一つの文書が発表されました。熱帯低気圧と気候変動に関する声明と題されたこの文書は、熱帯低気圧を専門とする世界の研究者が集まった会議で合意した内容をまとめたもので、この問題に関する科学的に妥当な最新の見解として、最も信頼できる情報源と言ってよいのではないかと思います。その概要から「統一見解に関する声明」を抜き出して、英語を試訳してみました(誤訳があるかもしれませんので、正確な内容につきましては必ず元の文書を参照してください)。

熱帯低気圧に関する国際ワークショップVI (IWTC-VI)参加者による統一見解に関する声明

  1. 今日までの熱帯低気圧の気候記録に、検出可能な人為起源の信号が存在するのかに関しては肯定的な証拠と否定的な証拠とがあるが、この点に関して確固たる結論を出すことはできない。
  2. 個々の熱帯低気圧については、気候変動に直接的な原因を帰することができるようなものはない。
  3. 近年になって熱帯低気圧による社会への影響が増大しているのは、沿岸地域に人口と社会基盤が集積しつつあることに大きな原因がある。
  4. 熱帯低気圧の風速観測方法はここ数十年にわたって劇的に変化してきたため、傾向を正確に決定することには困難が生じる。
  5. いくつかの地域では、自然起源の要因、人為起源の要因、あるいはそれらの組み合わせなど、その原因が現在議論の対象になっている数十年周期の熱帯低気圧の変動が認められる。こうした変動があるために、熱帯低気圧の活動の長期間にわたる傾向を検出することは難しくなっている。
  6. もし気候が継続して温暖になれば、熱帯低気圧の最大風速や降雨量はいくらか増加することだろう。モデル研究や理論は、熱帯域海面水温の摂氏1度上昇あたり風速が3-5%増加すると見通している。
  7. 理論やモデルによって見積られた風速の微小な変化と、いくつかの観測研究によって報告された大きな変化の間には不一致がある。
  8. 最近の気候モデルシミュレーションは、温暖な気候における全球的な熱帯低気圧の数は減少するか変化しないと見積っているが、この見積りの信頼度は低い。それに加えて、将来において熱帯低気圧の経路と影響地域がどのように変化するかはわかっていない。
  9. 熱帯低気圧を監視するのに用いられる方法は地域ごとに大きな違いがある。また、ほとんどの地域では機器を塔載した飛行機による観測記録がない。これらの顕著な限界により、傾向の検出は今後も困難であり続けるだろう。
  10. もしも地球温暖化による海面上昇が予測しているように発生するならば、熱帯低気圧による高潮洪水に対する脆弱性は増大するだろう。
気候変動(地球温暖化)と熱帯低気圧の関係については、これまでもいくつかの事実と仮説が提示されていますが、2005年のまとめでも述べた記録の不正確さの問題などが存在するため、どれが正しいかを科学の立場から判定するには証拠が不足しています。地球が温暖化した時に熱帯低気圧が強くなったとしても別に不思議ではありませんが、それ以上の詳細については未知の部分が大きく残っているのが現状です。 また近年に熱帯低気圧による災害が増大しつつあるとすれば、それは熱帯低気圧の変化というよりも社会の変化が原因である、という指摘も重要です。米国では、沿岸部に人が住むようになったという要因が大きいようですし、日本でも以前なら(洪水などに脆弱で)危険と思われていた土地に家屋や工場ができることによって新たな危険が生じることがあります。また、災害の犠牲者に高齢者が多いのではないかという近年の大きな問題も、まさに自然の変化というよりは社会の変化というべきものでしょう。したがって熱帯低気圧と災害の関係を考える場合には、地球温暖化による影響を調べることも重要ですが、それと同時に社会の変化も見ておく必要があります。 このように台風(熱帯低気圧)については、まだまだ未知のことがたくさんあります。しかし、解明に向けて研究を進める機運も高まっています。一つの方向は、過去の長期間にわたる高品質なデータベースを整備して解明しようというもの、もうひとつの方向は、より強力なコンピュータを用いた高解像度のシミュレーションによって解明しようというもの。これらの二つの方向性を統合するように研究が進展していけば、今後は熱帯低気圧に関するもっと詳細な知識が得られることでしょう。

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