1. 概要
リモートセンシング画像の特徴の一つに、多波長(マルチスペクトル)観測という特徴がある。このような多波長観測が必要な理由とその利用についてまとめる。
2. マルチスペクトル画像
気象衛星ひまわりの例
可視画像 |
赤外画像 |
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上に示すのは、気象衛星「ひまわり」の画像である(1998年10月12日8時JST)。左側は「可視画像」、右側は「赤外画像」と呼ばれるものであるが、同一時刻の観測画像なのにもかかわらず、地球の見え方は大きく違っている。最大の違いは、左側の画像では地球の一部が暗く見えないのに対し、右側では地球の全体が見えているという点だろう。どうしてこのように見え方が違ってしまうのだろうか。その理由は可視画像と赤外画像との違いにある。
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可視画像
人間が目で見ることのできる「可視光」に対応する電磁波の反射を観測したもの。太陽から届いた光が地球上のさまざまな場所で反射、散乱されたものを観測するので、太陽光がない夜は真っ暗になってしまう。
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赤外画像 地球上の物体が発する(熱)赤外光に対応する電磁波の放射を観測したもの。夜は多少は気温が下がるにしても完全に熱がなくなるわけではないので、太陽光がない夜でも観測できる。
「天気予報の気象衛星画像では、なぜ夜でも雲が見えるの?」という疑問がよくあるが、その答えは「赤外画像を使っているから」である。つまり太陽光ではなく熱を測定しているから、昼夜どちらも観測できる、ということになる。この例は、マルチスペクトル観測の利点を示している。すなわち、複数の波長帯(可視光と赤外光など)の電磁波を用いることによって、太陽光の有無といった制約から解放され、1日24時間雲を観測できるようになるのである。
ただし、両者から全く同じ情報が得られるわけではないので、両者の特徴についてはよく理解しておく必要もある。例えば、可視画像では見えている小さな雲の塊が赤外画像では見えなくなっている。また、可視画像では真中右下にぼんやりと明るく光った領 域があるが、赤外画像には対応するものがない。というのもこの部分は、実は太陽光が地球の海面で反射している領域だからである。
リモートセンシングにおけるマルチスペクトル観測
紫外線 |
可視光 |
赤外線 |
サブミリ波 |
マイクロ波 |
ラジオ・テレビ |
10nm - 0.4μm |
0.4μm-0.7μm |
0.7μm - 0.1mm |
0.1mm - 1mm |
1mm - 1m |
1m - 1km |
リモートセンシングによる地球環境観測では、主にマルチスペクトルセンサが用いられる。すなわち、ある特定波長帯(バンド)の電磁波のみを観測する複数のセンサを組み合せることによって、複数の波長帯に関する情報を得るものである。例えば通常の写真撮影では、人間の視覚特性に合わせて可視領域の電磁波をいくつかの波長帯(例えばRGBの3波長帯)で観測するが、リモートセンシングの場合には、可視領域にとどまらず、さらに幅広い帯域の電磁波を活用する。
その違いとは、観測に用いている電磁波の波長の違いである。つまり、可視画像とは、人間が目で見ることのできる可視光に対応する波長帯の電磁波を観測しているのに対し、赤外画像とは、地球上の物体が発する(熱)赤外光に対応する波長帯の電磁波を観測しているのである。このとき、可視光とは太陽から届いた光が地球上のさまざまな場所で反射、散乱された光であるため、太陽から届く光がなければ暗くなる(これが「夜」である)。それに対し、赤外光とは熱(温度)をもつ物体(もちろん人間も含めて)すべてが発する電磁波であるため、太陽光とは無関係に生じる電磁波である。ゆえに、これは地球上の全体でまんべんなく観測できる電磁波である。