ディジタル・シルクロード・アーカイブス構想 -現状と課題―

ディジタル・シルクロード・プロジェクトは、情報学と人文学の協働に基づき文化遺産のデジタルアーカイブを構築する、人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)の研究プロジェクトである。2001年4月に国立情報学研究所とユネスコとの国際共同研究がスタートしたことに端を発するプロジェクトであり、2001年12月に開催した東京シンポジウムは国内外から330人の参加者、2003年12月に開催した奈良シンポジウムも240人の参加者を集めて、人文学研究と情報学研究の接点に関する活発な議論を進めてきた。しかし、その後はユネスコとの国際共同研究も終了し、プロジェクトの目標は大きく変わることとなった。現在のプロジェクトは研究データに基づく人文学研究にシフトしている。特にデジタル化された人文学データを使ってどんな新しい研究を開拓できるかについて、これまでの成果を本発表では紹介したい。

これまでの研究の中心的な興味は、非文字史料の解析、より具体的に言えば「空間画像史料を対象としたデジタル史料批判」にある。空間画像史料とは、空間的かつ視覚的な性格を持つ史料を指す言葉であり、古地図や古写真などがこれに該当する。歴史学におけるそうした空間画像史料の活用は、文字史料に比べると大きく立ち遅れているのが現状であるが、そうなった一因は活用方法が確立していない点にもある。そこで我々は、デジタル技術を活用した「デジタル史料批判(digital critique)」という新しい史料批判法を提唱し、これをシルクロードの古地図や古写真に適用することで新しい発見を行ってきた。シルクロード探検隊史料に関する研究では、古地図の誤差推定ツールを開発することで当時に発見された「行方不明遺跡」が現在も残っていることを突き止めたり、歪んだ地図の解釈法を仮定することで従来は読めなかった古地図を活用できるようになったりするなど、従来の歴史研究とは異なる視点から新しい成果を生み出してきた。

こうした成果も踏まえ、2016年4月には情報・システム研究機構に人文学オープンデータ共同利用センター準備室が誕生し、来年からは正式にセンターとして発足する見込みとなった。このセンターでは、オープンサイエンスの潮流を踏まえてデータ駆動型の人文学や超学際的な人文学の開拓を目標とする。このセンターにおける現在の中心的な連携先は、人間文化研究機構 国文学研究資料館が中心となって推進する歴史的典籍NW事業である。このプロジェクトが示すように、日本においてもようやく、古典籍30万件といった大規模なオープンデータが生み出される時代に入った。このような動向を踏まえると、今後はデータ活用が不可欠な研究が増加し、それを支えるデータ基盤の重要性も増加すると予想できる。ディジタル・シルクロード・アーカイブスとは、シルクロードに関する多数の研究成果をリンクし、それをより高い概念に抽象化しながら、新しい知識を積み上げていくための情報基盤を指すことになるだろう。そうした観点から、構想に関するいくつかのアイデアを示してみたいと考えている。

文献情報

北本 朝展, "ディジタル・シルクロード・アーカイブス構想 -現状と課題―", 第19回文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「シルクロード -世界遺産登録後の問題と日本の課題―」, 2016年11月 (招待)

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