(注)本ページは、一部を除き、2011年のゴールデンウィーク中(4月下旬から5月初旬)にまとめたもので、その後に新たに判明した事実などは更新しておりません。現在でも大きな変更は必要ないと考えていますが、ご利用の際にはご注意下さい。

福島第一原発事故タイムライン(議論)

1. 高速道路モニタリングデータとの比較

まず高速道路上の放射線分布測定より得られた福島第一原子力発電所から飛散した放射性物質の挙動論文で述べている高速道路上でのモニタリング結果と仮説の整合性について検証してみよう。

観測データ

3/15午後の福島→いわきへの走行では、15:00前後に郡山付近でピーク線量率を観測している。線量率が高い地域は、北は二本松から安達太良付近、東は三春付近である。また小野〜差塩の間、およびいわき中央〜四倉の間でもやや高い線量率を観測している。

次に3/15夕方のいわき→福島への走行では、差塩付近でやや強い線量率を観測したあと、やはり三春から郡山の間で線量率は大きく上昇し、二本松でピーク線量率を観測したあとも福島まで高い線量率が継続。福島到着は20:41だった。

以上のデータを簡単に分析してみよう。まず盆地において線量率の上昇が見られるが、盆地は吹きだまりになりやすいため、周囲に比べると放射性物質が沈着しやすいからだろう(加えて高速道路が通っている地形の影響もあるだろう)。次に福島県モニタリングデータと比較してみると、郡山では14:05に8.26μSv/hを観測しており、最初の福島→いわきの走行中に郡山付近で遭遇した線量率のピークはこのイベントに対応するのではないかと考えられる。また福島県モニタリングデータでは福島でも17:10に22.30μSv/hを観測しており、いわき→福島の走行で夜に福島に戻ってきた時にはすでに線量率が上昇していたという結果と符合する。

データの解釈

ここで気になるのが二本松〜福島間の変化である。14:00-15:00には低い線量率だったのが19:00-20:00には高い線量率を記録するようになった。この4時間に、放射性物質はどこから移動してきたのかという問題である。最初に南部にしか存在しなかった放射性物質が北部にも存在するようになったという事実だけを見ると、南から北に広がったのではないかと解釈しそうになる。しかしそれは本当だろうか。

まず確認しておきたいのは、この日の午後の風向である。大雑把にいえば、阿武隈山地を越える東南東風と中通りを南下する北北東風が卓越していた。例えば郡山でピークを観測した2011年3月15日15時のGPV風速・風向を見ると、阿武隈山地を越えて中通りに至る風が見える。一方で2011年3月15日15時のアメダス風速・風向を見ると、中通りの風向は北部から南部への風向である。先述したようにこの風向は1日中かなり一貫して続いている。したがって風向だけを見れば、放射性物質は中通りを北から南に広がった可能性が高いのである。

ここで考えてみたいのが、いわき→福島への帰路で観測した二本松付近のピークである。このデータだけでは、これが南から北に進んでいるのか、北から南に進んでいるのかわからない。しかし仮にこのピークが北から南に進んでいると考えてみよう。ちょうど17:00から19:00にかけて、二本松から20kmほど北の福島では線量率が急上昇している。この気塊が1-2時間かけて南下し、ちょうど二本松付近に差し掛かったものと考えられないだろうか。

実はヴィジブル インフォメーション センターの3月15日のシミュレーションもそれを示唆している。3月15日の夜に、飯舘から福島を経由して南下する高濃度の気塊の先端が二本松付近に達しているのである。これは二本松のピークが実は南下してきた気塊のピークであるとの仮説を補強する材料と考えられる。またアメダス二本松も1日を通してほぼ一貫して北風である。モニタリング論文中のグラフをぱっと見る限りでは上記の仮説は直観に反するのだが、他の事実を基にあえて直観に反する仮説を唱えてみたい。

(注)ただしもう少し細かくいえば、二本松は地形的に福島の盆地と郡山の盆地の境目に位置し、谷が狭くなる地形であることから、福島から南下してきた空気がそこに滞留したとか、福島と郡山からやってきた風がぶつかったとか、もっと局地的な要因もあるかもしれない。

2. 福島県小・中学校等放射線モニタリングマップとの比較

さらに福島県小・中学校等放射線モニタリングマップ仮説の整合性について検証してみよう。

観測データ

この図では1μSv/hを境として、青と緑を色分けしている。この区切り自体は人工的なもので本質的な意味はないが、それでも色の境界がどの付近を通っておりどのような形状をしているかを把握することには意味がある。以下ではこの図から読み取れることをまとめてみよう。

データの解釈

まず福島では全体的に線量率が高いが、これは飯舘方面から流入した放射性物質が盆地のほぼ全体に拡散したことを示している。一方で福島〜郡山では福島から南下したものと、浪江や飯舘のホットスポット領域を越えてきた気塊が、山を越えた段階で北風に流されて南下したことにより、幅広く高放射線量率領域が広がったと考えられる。そして、山を越えた気流の動きが、三春付近を北東〜南西に直線状に走る境界線を生み出したと考えられる。

一方、郡山〜白河で、西側の山麓の方が須賀川などの谷底よりも線量率が高くなっているのはなぜだろうか。最初の流入で東風の影響で山麓側により多く降下したのか、または第二の流入において北北東の風が山麓側に吹いていたのか。ただし、境界線が東北新幹線と並行してほぼ直線状に延びていること、そして第二の流入時間帯において郡山の線量率の上昇が低いことを考慮すると、北部から流入した気塊は郡山の西側から山麓を経由して白河に到達したという可能性はある。実は3/15の白河は午後から夜間まで、長時間にわたって断続的に線量率の上昇が見られるのだが、もしかすると北部からの放射性物質の断続的な流入が影響しているのかもしれない。

3. 気象レーダー降水量データとの比較

観測データ

上記の福島県小・中学校等放射線モニタリングでは、気象レーダーから得られた降水量のグラフを掲載している。 放射性物質は、晴天であっても乱流によって地表に降下する(乾性沈着)が、降雨(降雪)があるとさらに多くの放射性物質が降下する(湿性沈着)ことが知られている。こうした雨の影響がデータから見られるのかを検証してみた。

(注 2011-05-17) 以下のグラフのX軸とY軸を入れ替えました。データ自体は変更ありません。

グラフ対象市町村
福島市、伊達市、桑折町、国見町、川俣町
二本松市、本宮市、大玉村
郡山市、須賀川市、田村市、三春町、小野町、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町
白河市、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村
会津若松市、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町、喜多方市、北塩原村、西会津町、下郷町、檜枝岐村、只見町、南会津町
南相馬市、相馬市(山間部を除く)、新地町
飯舘村、浪江町、相馬市(山間部のみ)
葛尾村、広野町、川内村
いわき市

福島県の市町村ごとに観測点を分割し、地域ごとに放射線量率(1メートル観測値)とレーダー雨量との関係をプロットした。ただし相馬市の山間部(玉野地区)については、相馬市中心部よりも飯舘地域との方が近いため、そちらの地区に組入れることにした。また降水量については、気象レーダーデータを用いて各地点に対応するグリッドで観測された降水量を3/15と3/16の2日間について合計し、それを地点ごとの降水量とみなした。

実験室における実験であれば、降水量以外の条件をすべて同一に揃えた上で、降水量のみを変化させて影響を計測するべきであるが、現実にはそうすることは難しい。そこでその近似として、空間線量率がほぼ同じ条件のもとで降水量が与える影響を確かめたいと考えた。上記の地域分割は、このような意図のもとで決めたものである。

データの解釈

データを見る限りでは、放射線量率と降水量との間に明確な関連性を見出すことはできない。ただしこれは両者に関係がないというよりは、さまざまな設定に問題があるために関連性が見えてこないためであろう。

他のデータを見ても、雨によって線量率が向上している事例(例えば3/21の南関東)は報告されているため、雨がきっかけとなって沈着が起こるというのは間違いないだろう。しかしレーダー降水量との関連性については、今回は否定的な結果となった。

ちなみに沈着に関しては、ヨウ素131は主にガス状のため乾性沈着、セシウム137は主に粒子状のため湿性沈着が支配的であり、ヨウ素131とセシウム137では沈着の空間的な分布が異なると考えられている。上記の放射線量は両放射性物質からの放射線量が混ざったものであり、乾性沈着と湿性沈着の両方が重なっていることには注意したい。

なおレーダーの問題点については、福島第一原発における雨量と汚染水の水位上昇の関係も参考にしてほしい。今後は問題設定を見直すことが必要だと考えている。

関連ページ

参考資料



デジタル台風 | Vertical Earth

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