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2024年の台風に関する情報のまとめ

2024年12月30日

2024年の台風の発生個数は26個と平均並となりました。日本に上陸した台風は、岩手県に上陸した台風5号と、鹿児島県に上陸した台風10号の2個でした。特に台風10号は進路予測が難しい台風で、動きも遅かったことから、今年もっとも影響を与えた台風となりました。また、5日予報を中心に予報誤差が前例がないほど大きくなったため、気象庁の進路予報の年間成績を大きく下げる原因ともなりました。 このように台風10号は経路予測がたいへん難しいケースでしたが、そこで話題となったのがAI予測です。従来のシミュレーションが経路予測を大きく外したのに対し、AIの経路予測の中にはそれよりもよいケースが見られました。こうした結果をきっかけに、AI予測はすでに実用レベルに達しているのではないか、という認識が専門家の間にも生まれてきたのです。この状況は、AIモデルが登場し始めた昨年に比べると様変わりといえます。 AIは過去のデータを学習しているだけで、気象の物理学的メカニズムやその他の理論に基づいて計算しているわけではないため、原理的にはAIがシミュレーションを上回ることはないように思えます。しかし、現実のシミュレーションは完璧ではありません。原理的に正しい計算をするつもりであっても、入力データの精度や様々な近似のために、シミュレーション結果には様々なバイアスが生じることが知られています。この問題は以前から認識はされていますが、未だに解決には至っていません。それに対して、AIの学習はそうしたバイアスの影響を受けにくく、それがよい結果につながったのかもしれません。シミュレーションとAIの関係はどうなるのか。これは今後の大きな研究テーマです。 すでにECMWFは、Products from various AI Modelsにて、以下のAIモデルのリアルタイム運用結果を図示しています。
  1. Aurora, Microsoft
  2. FourCastNet, NVIDIA
  3. GraphCast, Google Deepmind
  4. Pangu-Weather, Huawei
  5. AIFS, ECMWF
これらは、現状ではExperimentalという扱いになっていますが、正式に業務に取り入れることを念頭に置いた実験であることは明らかです。
それにしても、世界の大手IT企業がAI気象予測でしのぎを削っている状況は壮観ですが、計算機の歴史を踏まえるとこうなることは必然でもあります。ごく初期の計算機ENIACでは、重要なアプリケーションの一つが気象予測でした(数値予報の歴史(気象庁))。気象予測は理論に基づく大規模計算が必須なアプリケーションとして典型的であるだけでなく、日々の生活に必要な天気予報や、将来の社会を占う気候変動予測など、社会的にもインパクトが大きい技術です。そのため、シミュレーション技術の重要アプリケーションとしてここまで発展してきましたが、その事情はAIでも同様です。 AI予測の最大の利点は高速性です。従来のシミュレーションよりも数十倍高速な場合もあり、従来と同様の品質の結果がより短い時間で得らるという大きな利点があります。また、AIモデルの学習には大きな計算資源が必要ですが、AIモデルの運用にはそれほど大きな計算資源は必要ではないという点も、利点になりうるかもしれません。そして、従来のシミュレーションの基盤となるスーパーコンピュータと比べると、AIの基盤となるスーパーコンピュータはGPUを主体としたものとなります。ゆえに計算資源についても、従来とは異なる資源配分を考える必要が出てきます。さらに、従来は気象学コミュニティ内で開発がほぼ完結していたシミュレーションモデルに対し、AIモデルの場合は機械学習コミュニティなど外のコミュニティとの連携が必須になってきます。このように、AIモデルの登場によって、気象予報の世界は根本的な変革を迫られることになります。この大きな変革を日本の気象業界がリードできるかは、来年以降の大きな課題となります。 ただし注意すべきことは、AIモデルが従来のシミュレーションモデルを完全に置き換えるものではないという点です。まず現状のAIモデルは、全球の再解析データを学習したものが中心になっていますが、これらはデータが揃っており不規則性も少ないため、AIが学習しやすいデータといえます。そのため、台風の進路予測ではよい成績を出す場合もありました。一方、台風の強度予測のように、より小さなスケールの予測を対象とする場合には、AIモデルはまだ発展途上です。またAIの学習データは、シミュレーションで生成するか、あるいは観測データとシミュレーションデータを融合させるデータ同化という方法で生成することになり、ここでもシミュレーション技術は必要です。さらに、シミュレーションは各種のパラメータを変更して挙動を見ることができますが、AIの挙動は学習データを通して間接的にしか制御できません。このように、シミュレーションとAIにはそれぞれ長所と短所がありますので、それぞれのよい点を融合させることが今後の課題となるでしょう。 なお、2023年のまとめでも紹介したデジタル台風データセットについては、11月にバージョン2を公開しました。今後も、継続的にバージョンアップを重ね、台風に関するAIモデルの構築に利用していく予定です。

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