1. 台風災害データベースの基本要因

台風災害は自然災害の中でも最も大規模なものの一つです。台風の移動に伴って、多くの場所で多くの災害が同時多発的に発生しますが、その状況を的確に把握するためには、台風による災害をいくつかの要因に分類して記録することが必要です。そこで「デジタル台風」では、台風災害を以下の3つの基本要因に分類して表現することにします。

災害 基本要因 具体例
1. 誘因(trigger) 災害が発生するきっかけとなる可能性を有する自然現象。例えば気象現象としての大雨や強風などが誘因に含まれます。
2. 変動(change) 自然現象を誘因として発生する短期的かつ大規模な変動。例えば、河川の変動としての洪水、海面の変動としての高潮、地表の変動としてのがけ崩れや土石流などが変動に含まれます。
3. 被害(damage) 短期的かつ大規模な変動を原因とする、人間の生命や財産の損失。例えば、洪水による浸水被害、がけ崩れによる家屋被害、倒木による林業被害など、人間・建物・農業・社会資本などの社会のさまざまな面において被害が発生します。

つまり、このような基本要因のさまざまな組み合わせによって、台風による災害が発生するということになります。以下ではそれぞれの基本要因について、もうすこし詳しく議論していきます。

1. 誘因

誘因とは、災害が発生するきっかけとなるような自然現象を指します。台風による災害の誘因として代表的なものは「大雨」と「強風」です。これらは一般的に台風の接近とともに強まる気象現象ですが、時には台風が遠く離れた場所にあっても強まることがあります。例えば台風によって引き起こされる暖かく湿った空気の流れが継続的に流入する場合、台風がはるか南方にあっても大雨が発生する場合があります。このように誘因が発生しても、それだけで変動が発生するわけではありません。例えば海上に降る大雨は、大きな海面変動を引き起こしませんが、海上を吹く強風は、高波や高潮という大きな海面変動を引き起こします。時には日本のはるか南方に存在する台風の強風が高波を引き起こし、「土用波」と呼ばれる海面変動として日本に影響を与えることもあるのです。

2. 変動

変動とは、自然現象を誘因として発生する短期的かつ大規模な変動を指します。例えば大雨によって川の水位が上昇すると、堤防を越えて水が溢れてきたり、堤防が破壊されて水が流出したりといった河川の変動が発生します。また、降雨によって土砂が大量の水分を含むと、土砂が不安定となってがけ崩れなどの地表の変動が発生します。このように短期的に大きな変動が起こっても、それだけで被害が発生するわけではありません。例えば無人島で発生するがけ崩れは、地表の変動ではありますが被害は生じません。こうした変動が人間の生活圏で発生し、生命や財産に悪影響を及ぼした段階で初めて被害が発生するのです。

3. 被害

被害とは、短期的かつ大規模な変動が人間の生命や財産の損失に結び付くことを指します。例えば、死傷者などの人的被害ばかりでなく、住家などの建築物への被害、農業への被害、社会資本の破壊など、台風による被害は人間の社会生活のさまざまな面にわたります。過去には、伊勢湾台風のように死者・不明者が約5000人に達するような巨大な人的被害もありました。現在では防災対策の充実により、気象災害によって死者・不明者が1000人を越えるような人的被害が起こることは稀になりましたが、なかなかゼロに接近しないのも確かです。また社会の高度化や脆弱性の増加に伴って、被害額についてはむしろ増加する可能性も指摘されています。