1. 昭和の三大台風

日本は昔から台風災害を受けてきましたが、昭和以降の台風の中で特に被害の大きかった3個の台風を、「昭和の三大台風」と呼ぶことがあります。これらの台風によって生じた被害は、以下のように甚大なものでした(「理科年表」による)。

死者 不明 負傷 住家 浸水 船舶 耕地 被害地域
室戸台風 2702 334 14994 92740 401157 27594 -- 九州〜東北(特に大阪)
枕崎台風 2473 1283 2452 89839 273888 -- 128403 西日本(特に広島)
伊勢湾台風 4697 401 38921 833965 363611 7576 210859 全国(九州を除く)

室戸台風

1934年9月21日に高知県室戸岬付近に上陸。室戸岬で911.6hPaを観測しましたが、これは当時の記録としてもっとも低い海面気圧でした。上陸後は関西を縦断して北陸地方へと達し、各地に被害が発生しました。特に強風による建造物被害と大雨や高潮による浸水被害のすべてが発生した大阪府では、校舎の倒壊によって死亡した学校の先生や生徒が多数にのぼるなどの甚大な被害となりました。

枕崎台風(194516号)

1945年9月17日に鹿児島県枕崎付近に上陸し、枕崎で最低海面気圧916.3hPaを記録しました。当時の気象観測記録によると、宮崎県細島で最大瞬間風速75.5m/sを記録するなど、雨の多さよりも風の強さが顕著な「風台風」タイプのように見えます。しかし、第二次世界大戦の終戦後わずか1ヶ月で襲来した台風であったこともあり、戦争時の伐採で大雨に弱くなった山々では土砂災害が多発し、特に原爆被災直後の広島県での被害が最大となりました。

伊勢湾台風(195915号)

1959年9月26日に和歌山県潮岬付近に上陸。本州南海上で急速に発達し、衰えることなく本州を直撃して縦断しました(経路と勢力)。特に伊勢湾では、台風の中心気圧の低さによって海面が吸い上げられ、さらに海水が強風で吹き寄せられる方向に湾が開いていたことが重なり、記録的な高さの高潮が発生しました。愛知県の伊勢湾沿岸での被害は特に大きく、大規模な浸水によって3000名以上の死者が発生する大惨事となりました。

2. 過去の台風災害

昭和の三大台風以降にも、日本は繰り返し台風による災害を受けています。こうした過去の台風における被害の情報や状況などについては、過去の顕著な台風 - 協働型データベースに顕著な台風に関する簡単な説明をまとめており、台風に関するリンク集の台風災害記録にも、他のサイトへのリンクがあります。

ここではもう少し網羅的な調査として、台風被害データベース(1951年〜)を使って、災害の規模が大きかった台風を取り上げてみましょう。

死者・行方不明者が多い台風

第1位に登場する伊勢湾台風は、紀伊半島沿岸と伊勢湾沿岸の高潮被害による死者が多くを占めています。第2位の洞爺丸台風は、青函連絡船などの船舶の沈没による死者が多くを占めています。第3位の狩野川台風は、伊豆地方を中心とした大雨による浸水や土砂災害による死者が多くなっています。1970年代の最大は197617号の169人、1980年代の最大は198210号の95人、1990年代の最大は199119号の62人と順調に減少していましたが、200423号による死者が98人に達したことで、長期的な減少傾向には疑問符がつき始めました。

負傷者が多い台風

ここでも伊勢湾台風が非常に多い数字を記録しています。第2位は第二室戸台風、また上位に199119号200418号のような、最近では代表的な風台風が入ってきていることから、負傷者を増加させる一つの要因は強風であると考えられます。

住家被害が大きい台風

ここでも伊勢湾台風が断トツの1位で、第2位に第二室戸台風が続きます。また上位に洞爺丸台風だけでなく、199119号200418号のような、最近では代表的な風台風が入っているという点で、負傷者と同じような傾向を示しています。ゆえに、こちらの主要な要因も強風であり、例えば強風で屋根が飛ばされたり飛んできた物体が衝突したり、といった種類の被害が大きいのではないかと推測できます。

浸水被害が大きい台風

浸水という災害の性質から、こちらは大雨の要因が支配的となります。第1位となったのは狩野川台風で、静岡県を中心に関東全域に豪雨による浸水被害が拡大したことが影響しています。また第3位の197617号は、大雨インパクト指数で1位となっている台風で、その降雨量に比例して大きな浸水被害となっていることがわかります。第4位と第5位には、ここにも伊勢湾台風第二室戸台風が登場しています。

3. 日本は本当に台風災害に強くなったのか?

最近の日本では、「昭和の三大台風」ほどの大規模な災害が、台風によって引き起こされることはなくなりました。その大きな理由は、日本全国で積み重ねられてきた防災対策にあると言えるでしょう。現代において、これら過去の大災害に匹敵するほど多数の人命が台風災害によって失われるとは、確かに考えにくい状況です。とはいえ、日本は本当に台風災害に強くなったと、どこまで信じてよいものでしょうか?

実は、「昭和の三大台風」に匹敵するほど強大な台風は、1961年の第二室戸台風を最後に40年以上の間、沖縄などの離島を除けば日本列島には接近していません。つまり、以前の台風によって引き起こされていた大災害は、防災対策が未整備であったことが最大の理由であるとしても、そもそもこれらの台風自体が強大だったことも原因の一つに考えられるのです。最近の台風は弱くなったのかという問題は別にしても、最近の日本には非常に強大な台風が接近していない、あるいは逆に1930年代の半ば〜1960年初頭は、現在と比べても日本に接近する非常に強大な台風が多かったという可能性があります。

例えば三大台風の比較によると、日本(本土)上陸時では室戸台風が史上最大の勢力をもった台風となっています。それに続くのが枕崎台風、死傷者最大の伊勢湾台風はそれに次ぐ勢力で、第二室戸台風は伊勢湾台風をやや上回るものと推定されています。つまり最近百年弱の間で最も強力な台風は、いずれも1934年から1961年までの期間に続々と日本に接近していたことになります。最近は地球温暖化によって台風が強大化しているのではないかという議論が盛んですけれども、実はデータを見る限りでは、過去の強大な台風に匹敵する勢力の台風は近年の日本(本土)には上陸していないのです。

すでに地震災害に関しては、「日本は地震に強くなった」という漠然とした安心感を、1995年の阪神・淡路大震災が打ち砕いてしまいました。米国でも2005年のハリケーン「カトリーナ」が、防災社会基盤が意外にも脆かったことを明らかにしました。近年は確かに台風災害の規模も小さくなりつつありますが、それは単に強大な台風が接近していないからなのかもしれません。「日本は台風に強くなった」と果たしてどこまで言えるのか、過去の強大な台風に匹敵するような台風が日本にやってきた時、その真価が試されることになります。