福島第一原発周辺の台風情報

福島第一原発に対する台風の影響を考えます。

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福島第一原発付近を通過した台風の検索

デジタル台風:地名(緯度・経度)で検索では各地を通過した台風を検索することができます。これを利用して、福島第一原発の周辺を通過した過去の台風を検索することができます。例えば150km以内を通過した過去の台風を以下のリンク先で確認できます。

台風による災害状況の検索

最近の台風の中では、台風200221号が比較的強い台風でした。この台風によって各地のアメダスではどのような風速を観測したかという点については、台風ごとの災害情報ページにある最大風速サマリーで確認することができます。

一方、福島第一原発周辺のアメダス観測所がいろいろな台風でどのような影響を受けたかについては、アメダス観測所ごとの「アメダス統計」ページで「最接近点が800km以内の台風のリスト(表形式)」を選べば確認することができます。例えば福島第一原発から約10kmに位置する浪江の場合、アメダス統計ページから最接近点が800km以内の台風のリスト(表形式)に進むと、浪江に過去に接近した台風による降水量や最大風速の比較、そして個々の接近における1時間ごとの気象観測値のグラフ表示などが可能です。

最後に台風による災害の状況に関しては、台風ごとの災害情報ページ下部の「異常気象・気象災害データ」の中から、福島県に関する情報を探して下さい。例えば台風200221号の場合は気象災害報告(2002-595-12)が福島県の災害状況をまとめています。この情報は気象災害データベースからも検索することができます。

アメダス浪江の観測データを用いた想定

福島第一原発周辺のアメダス観測所のうち、福島第一原発から約8kmと最も近い富岡では降水量しか観測しておりませんので(現在は停止中)、福島第一原発から約10kmと次に近い浪江に注目し、アメダスの過去の観測データでどのような大雨や強風が記録されているかを分析してみましょう。

大雨・集中豪雨

福島第一原発構内においては、大雨による土砂崩れなどよりも、大雨による汚染水の水位上昇や建屋へのダメージ、機器の故障などが懸念材料になりそうです。となると、短時間にざっと降る雷雨のような雨(ゲリラ豪雨)よりは、長時間にわたって続き総雨量が増えるような大雨(台風や梅雨など)の方が、より大きな影響が出るかもしれません。

そうした長時間の大雨については、浪江の72時間降水量ランキングのページで確認することができます。アメダスの記録が残る1976年以降、大雨ランキング上位10位の大雨がどのように起こったのかを簡単にまとめてみましょう。

順位 年月 72時間降水量 (mm) 気象状況 気象災害報告
1 1998年8月 376 南海上の1998年台風4号から吹き込む湿った風による大雨。8月26日から8月31日の6日間に浪江で476mm、県内の長沼では688mmの降水量を記録。 1998-595-10
2 2006年10月 371 2006年台風16号から変化した低気圧による大雨。10月5日から6日の2日間に浪江で371mmの降水量、また最大瞬間風速は小名浜で32.7m/sを記録。 2006-595-12
3 1991年10月 318 1991年台風21号の北上に伴って活発化した前線による大雨。10月6日から13日までの8日間に浪江で443mmの降水量を記録。 1991-595-08
4 2008年4月 317 低気圧による大雨。 2008-595-02
5 1986年8月 298 1986年台風10号から変化した低気圧による大雨。県内では八木沢で412mmの降水量を記録。 1986-595-10
6 1996年9月 290 1996年台風17号の接近による大雨。小名浜で最大瞬間風速33m/sを記録。 1996-595-03
7 2009年10月 283 2009年台風18号が愛知県に上陸し福島県内を縦断したことによる大雨。 2009-595-12
8 1992年6月 273 発達する低気圧による大雨。 1992-595-05
9 1994年8月 267 停滞する低気圧による大雨。 -
10 1977年9月 261 1977年台風11号が福島県沖を進んだことによる大雨。 1977-595-23

以上の記録をまとめると、福島第一原発での降水量は、3日間で400mm弱程度、1週間で500mm弱程度は想定しておいた方が良さそうです。

強風・暴風

浪江における過去の最大風速は14m/sです。ただしアメダス観測所は市街地よりも西側の内陸にありますので、海に面する福島第一原発とは周囲の環境がだいぶ違います。当然ながら海沿いに立地する福島第一原発の方が風速は大きくなるはずです。その意味では、海に近い小名浜などの観測所における風速の方が参考になるかもしれません。小名浜での最大風速は19m/sです。また両者の中間にある広野での最大風速は17m/sです。

一方、上記のアメダスデータベースで扱っている風速は、毎時の風速(50分〜00分)になっていることに注意する必要があります。例えば台風200221号の場合の気象災害報告(2002-595-12)を見てみると、毎時風速に限れば小名浜における2002年10月1日22時00分の18m/s(南東)が最大ですが、その他の時間帯も含めれば、同じ小名浜で2002年10月1日22時20分に28.8m/s(南南東)を記録しています。また最大瞬間風速についても、小名浜で10月1日22時10分に48.1m/s(南東)を記録しています。つまり、毎時の風速に比べると、任意の時間の最大風速はさらに大きくなるわけです。

さらに台風200221号の経路を見ると、台風は福島浜通りの西側を速いスピードで通過しています。一般的に台風の進行方向右側では風が強くなる傾向があるため(危険半円とも呼ばれます)、福島浜通りではこれほどの強風が吹いたものと考えられます。ただし、小名浜は地形的に南風が入りやすい場所にある一方で、福島第一原発の場所は南風も多少はさえぎられると考えられるため、小名浜での記録を多少は割り引いて扱わなければなりません。

以上の分析より、福島第一原発での風速は、最大風速で25m/s程度、最大瞬間風速で45m/s程度は想定しておいた方が良さそうです(風速の定義の違いにより、最大瞬間風速は最大風速の1.5倍から2倍程度になります)。

なお、強風と大雨による福島県の気象災害については、福島県の気象災害報告リストでも検索できますので、過去の災害をさらに深く調べたい方はこちらをお使いください。

また、上記の大雨と強風の数字は、過去データに基づく「想定内」の数字ですので、「今回の津波のように想定外の現象が発生したらどうするんだ?」という疑問が出てくると思います。想定外のことをどこまで想定するのか(これ自体が矛盾した言い方ですが)。まだ観測データに出現したことがない100年に1度や1000年に1度の大雨や強風を確率的に推定する方法もあることはあり、こうした方法を使えば「想定外のことを想定する」こともある程度は可能かもしれません。本ページでもそうしたものが将来的に提供できればと思います。

高潮・高波

海面では台風による高潮や高波が発生します。

まず高潮の原因には、1) 低い気圧による吸い上げ効果と 2) 強い風による吹き寄せ効果があります。吸い上げ効果については、福島に接近する台風は気圧がそれほど低くはありませんので、浪江に接近した台風の中で比較的強かった2002年の台風21号1981年の台風15号の場合でも、福島接近時の中心気圧は965hPa程度ですので、吸い上げ効果の大きさは高々30cm程度にとどまります。一方の吹き寄せ効果については、海岸線の地形が湾のようになっている場所では効果が大きくなりますが、福島第一原発の周囲は湾のような地形ではありませんので、その効果もあまり大きくないと考えられます。

高波については、津波とは異なり短い周期で水面が上下する波ですし、その高さは高々数メートル程度ですので、原発敷地にざぶんと一時的に水しぶきがかかることはあるかもしれませんが、津波の時のように大きく浸水する可能性はまずないと言ってよいでしょう。ただし、津波によって防波堤も破壊されていますので、海岸沿いの低い場所にある施設は、高潮や高波で損傷しやすくなっている可能性はあります。

竜巻

日本においては、台風は竜巻の主要な発生原因の一つです(参考:気象庁 | 発生時の気象条件等)。そこで過去の竜巻データベースを検索してみましょう。気象庁 | 竜巻分布図によると福島浜通りでは1961年以降に竜巻が発生した記録がなく、いわば「竜巻の空白地帯」になっています。このようなデータを見る限り、竜巻の発生はまず心配ないと思います。

福島県への台風上陸

福島県への台風上陸という記録は、実は1951年以来1回もありません。福島県付近における台風のコースから考えても、太平洋を西に進んで福島県の海岸に台風が上陸するという意味での「福島直撃」が起こる可能性はかなり低いです。もちろん千葉県に南東から北西に進みつつ上陸した台風198913号のようなケースもあるので、福島県に太平洋側から上陸する可能性もゼロではありませんが、このような経路がかなり例外的なことは確かです。

むしろ福島県に接近する台風は、陸地から接近する場合がほとんどです。なぜでしょうか。福島県ぐらいの緯度では偏西風の影響が強まってくるため、台風は西から東に動くことが多くなります。したがって、太平洋側から福島に接近してきた台風は、どんどん陸地から遠ざかる方向に進む傾向があるのです。ゆえに福島県に到達する台風は、東海地方から関東地方に上陸したあと、本州を縦断するコースを通る場合が多くなります。この場合、台風は福島県に到達するまでにずっと陸上を進むことになりますので、陸地の影響をうけて一般的に勢力は弱まります。ただし温帯低気圧化が進む場合には、たとえ上陸しても「弱まる」わけではなく、風速はむしろ強まることもあるのですが。

また上記の大雨事例を見ても、台風が本州の南方でゆっくり進みつつ、南からの湿った空気が福島県に入りこんできたときに、大雨になっている場合があることがわかります。つまり、台風が近づいたら危険、遠かったら安全というわけではないのです。さらに言えば、台風が強ければ大雨になり、台風が弱ければ大雨にならない、というわけではありません。弱い台風で大雨になることも多いのです。

以上により、福島第一原発付近に台風が上陸するかどうか、あるいは直撃するかどうかを気にするよりは、とにかく大雨や強風に関して事前の備えをしておくこと、特に雨水の流入によって汚染水が溢れて海洋汚染が進まないように、汚染水の水位を事前に下げておくことが重要ではないでしょうか。東京電力も、廃棄物処理施設の建設やメガフロートの導入などで汚染水の処理に努めているようです。これに加えて、建屋を覆うカバーで雨水の流入を防ぐことができればよいですが、外部から、あるいは地下水として雨水が流入してしまうとその制御はより難しくなるかもしれません。福島第一原発周辺の雨量マップで雨量を確認してください。また雨量マップに関する検討については福島第一原発における雨量と汚染水の水位上昇の関係もご参考に。

なお台風による放射性物質(放射能)の拡散については、その時点で福島第一原発から放出されている放射性物質の量に依存する部分が大きくなります。2011年4月以降はそれほど大量の放射性物質は放出されていないようですので、たとえ強風で拡散したとしても2011年3月までの量に比べれば影響は少ないとみてよいでしょう。一方、既に沈着した放射性物質の大気中への再拡散についても心配はあり、完全にゼロとは言えないので内部被曝は避けた方がよいと思いますが、外部被曝については現況が変化する要因としてはあまり大きくないと考えています。放射性物質の移動については、風による移動よりは、雨による移動(水で流れて低いところに集まる)の効果の方が大きいのではないでしょうか。

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