エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)は、電力供給(発電所マップ)と電力消費(夜景マップ)の「見える化」とシミュレーションを通して、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるためのサイトです。
電力自由化は1995年から20年をかけて、段階的に進んできました。そして2016年4月には電力小売も自由化されることで、電力自由化は一つの達成点を迎えることになります。以下ではこれまでの経緯を簡単にまとめます。
2016年3月までの電気事業法では、電気事業者として一般電気事業者、卸電気事業者、特定電気事業者及び特定規模電気事業者が定義されており、その他に卸供給事業者が定義されていました。電気事業制度の概要に言葉の定義がありますので、ここから引用してみましょう。
電気事業者 | 説明 | サイト内ページ |
---|---|---|
一般電気事業者 | 一般(不特定多数)の需要に応じて電気を供給する者。現在は10電力会社が該当する。 |
|
卸電気事業者 | 一般電気事業者に電気を供給する事業者で、200万kW超の設備を有する者。(電源開発(株)、日本原子力発電(株)、200万kW以下であるものの特例で認められている「みなし卸電気事業者」として公営、共同火力がある。) |
|
特定電気事業者 | 限定された区域に対し、自らの発電設備や電線路を用いて、電力供給を行う事業者(六本木エネルギーサービス(株)、諏訪エネルギーサービス(株)が該当)。 |
|
契約電力が50kW以上の需要家に対して、一般電気事業者が有する電線路を通じて電力供給を行う事業者(いわゆる小売自由化部門への新規参入者(PPS))。 |
|
|
卸供給事業者 | 一般電気事業者に電気を供給する卸電気事業者以外の者で、一般電気事業者と10年以上にわたり1000kW超の供給契約、もしくは、5年以上にわたり10万kW超の供給契約を交わしている者(いわゆる独立発電事業者(IPP))。 |
|
2016年4月以降の電気事業法では、電気事業者として小売電気事業者、一般送配電事業者、送電事業者、特定送配電事業者及び発電事業者が定義されています。まだ情報がまとまっていないため、随時加筆します。
電気事業者 | 説明 | サイト内ページ |
---|---|---|
小売電気事業者 | 小売供給を行う事業者。一般送配電事業、特定送配電事業及び発電事業に該当する部分を除く。 | |
一般送配電事業者 | 自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物によりその供給区域において託送供給及び発電量調整供給を行う事業者。小売供給を含むが、発電事業に該当する部分は除く。 | |
送電事業者 | 自らが維持し、及び運用する送電用の電気工作物により一般送配電事業者に振替供給を行う事業(一般送配電事業に該当する部分を除く。)であつて、その事業の用に供する送電用の電気工作物が経済産業省令で定める要件に該当するものをいう。 | |
自らが維持し、及び運用する送電用及び配電用の電気工作物により特定の供給地点において小売供給又は小売電気事業若しくは一般送配電事業を営む他の者にその小売電気事業若しくは一般送配電事業の用に供するための電気に係る託送供給を行う事業(発電事業に該当する部分を除く。)をいう。 | ||
発電事業者 | 自らが維持し、及び運用する発電用の電気工作物を用いて小売電気事業、一般送配電事業又は特定送配電事業の用に供するための電気を発電する事業であつて、その事業の用に供する発電用の電気工作物が経済産業省令で定める要件に該当するものをいう。 |
電力事業は、発電、送配電、小売の3種類の事業に分けて考えることができます。この3種類の事業を、さらに規模などの基準で細分化したうえで段階的に進めてきたというのが、これまでの電力自由化の流れです。小売電力自由化というのは、小売&小規模という部分に関する自由化で、これにより小売部分の自由化は完了することになります。
小売の自由化は、大規模工場やデパート、オフィスビルなどが対象の特別高圧需要が最初の対象となり、2000年3月に始まりました。次に、中小ビルや中小規模工場などを対象とする高圧需要の自由化が2004年4月(500kW以上)と2005年4月(50kW以上)に始まりました。最後に、家庭や商店を含む低圧にまで自由化が進んだのが2016年4月で、これにより小売では完全な自由化が実現しました。
なお、特別高圧、高圧、低圧(電灯)の需要の推移については、用途別需要実績(用途ごと) - 電力統計や、用途別需要実績(一般電気事業者ごと) - 電力統計で確認できます。低圧、高圧、特別高圧については、電気設備に関する技術基準を定める省令で以下のように定義されています。
低圧 | 直流にあっては750V以下、交流にあっては600V以下のもの |
---|---|
高圧 | 直流にあっては750Vを、交流にあっては600Vを超え、7000V以下のもの |
特別高圧 | 7000Vを超えるもの |
発電の自由化は小売の自由化よりもさらに早く、1995年から始まりました。特に2012年7月以降は、再生可能エネルギー固定価格買取制度によって、太陽光発電所が爆発的に増加しています。これにかかわる問題については、発電所データベースについてなどにも情報をまとめています。
最後に送配電の自由化については、発電や小売とは大きく異なる特徴があります。発電や小売の自由化では、多様な事業者が参入し、競争が活発化することで電気事業が発展していきますが、送配電については同じモデルは使えます。もし多くの事業者が自前の送電線を建設して競争を始めたら、土地は送電線だらけになってしまうからです。さらに、送配電施設の建設と維持には膨大な資金が必要となるため、複数の事業者が重複した施設を作ってしまうと無駄な投資になりかねません。そこで送配電の自由化は、それ自体のサービスで競争するのではなく、むしろ既存の電力網をどうやってみんなで公平にシェアできるかということが課題となります。誰でも電力会社の既存の送配電網を利用して自分の電力の送電と配電を委託(託送)できるよう、料金体系や利用手順を明確化することで、発電と小売における平等な競争条件の整備を目指します。
既存の送配電網を利用できるなら、発電と小売の事業者は、送配電網の入口と出口になる接続点までの電線だけを維持すればよいことになります。中にはJR東日本のように、新潟の水力発電所と首都圏をつなぐ長大な送電線を独自に保有する事業者もありますが、通常は大規模な送配電網を自前で維持する必要はありません。これにより、既存の電力ネットワークの上に発電から小売までの仮想的なネットワークを展開することも可能となり、特定規模電気事業者などの新しい事業者が誕生することになりました。また、既存の電力網の上で事業を行うことから、従来の電力会社から新しい電力会社に切り替えたとしても、電力供給の安定性などは既存の電力網と基本的に同じとなります。
最後の重要なテーマとして発送電分離があります。既存の電力会社の下に発電部門と送配電部門がおさまっている状況では、送配電の公平性が十分に保たれないのではないかという懸念が生じます。そのため、送配電部門を発電部門から完全に分離して、送配電を担う透明性の高い組織を作るべきではないかという議論があります。これが発送電分離で、これも電力自由化の一つの重要なテーマですが、この分野の自由化はこれからの課題です。
発電事業者と小売事業者とをつなぐ電力網は多くの事業者が共有するため、様々な発電方式で作られた電気は電力網上で混ざってしまいます。ゆえに、例えば原発で発電された電気を使わないというのは電流のレベルでは不可能ですが、電力網への入口と出口で電力量を計測することによって、どこから仕入れた電気が何パーセントなのかという割合を計算することは可能です。このような発電源証明を行うことで、混ざった電気を数字の上では分離し、電源構成として示すことができます。電力会社の中には電源構成を積極的に開示しているところもありますが、公表は義務とはなっていません。ただしここで注意すべきことは、電源構成が再生可能エネルギー中心だとしても、その電力会社が再生可能エネルギーの普及に貢献しているとは一概に言えないという点です。
新規参入する小売電気事業者に一つ期待されていることは、小売における消費者の選択が発電方式における選択へと影響力が伝播していく動きを作ることです。ただし現状の制度では、こうした動きを作ることは難しいのが実情です。固定価格買取制度発電実績 - 再エネ設備認定状況が示すように、再生可能エネルギーの発電コストへの負担は、毎月1000億円を越えています。このコストを負担しているのは誰かといえば、実は全ての消費者です。毎月徴収される賦課金で、再生可能エネルギーのコスト(環境価値)を全消費者が支える仕組みになっているのです。
逆に言えば、消費者が特定の電力会社を選択することで、より多くの負担を引き受けて再生可能エネルギーの普及に貢献することはできません。消費者の行動が再生可能エネルギーの普及に貢献していると明確に言えるのは、全員で負担する固定価格買取制度ではない仕組みを使って、特定の消費者から特定の発電者へと直接お金が流れるような仕組み(グリーン電力証書など)を使った場合に限られます。つまり現状の制度では、消費者がどの電力会社を選択するかという問題と、選択を通して再生可能エネルギーを普及させるという問題が、つながっていません。消費者が特定の電力会社を選ぶという選択は、再生可能エネルギーの普及にはほとんど貢献しないことになります。
もちろん、仕入れ先にこだわる電力会社が再生可能エネルギーの発電事業者からの仕入れを優先させ、電源構成の割合を明示することで再生可能エネルギーへの支持をアピールすることは可能です。また、再生可能エネルギー中心ではない発電事業者からの仕入れを減らすことは、長期的に見ればそうした発電事業者のビジネスを小さくすることに寄与するかもしれません。ただしこうした影響はあくまで間接的なものです。発電事業者から見れば、既存の電力会社に販売できる電力を新しい電力会社に回しているだけですから、固定価格買取制度のもとでの電力の仕入れは、金銭的に再生可能エネルギーの普及を支えていることにはなりません。今後は小売電気事業者もいろいろと紛らわしい広告宣伝を展開してくることが予想されますので、紛らわしい文言に釣られないよう、慎重に電力会社の比較を進めて下さい。
これまでの電力会社との契約とは異なり、新しい電力会社との契約では電力会社の破綻リスクを考えることも必要です。電力会社が破綻したとしても電力の供給は受けられるため、ただちに電気が止められて困るということはありません。ただし、それまで結んでいた契約は破棄されてしまうため、電気代が安いプランが高いプランに変更させられるなど、思わぬ損失をこうむる危険性があります。また発電事業者が新しい電力会社に電気を売る場合については、高く売れていた電気が安くしか売れなくなったり、すでに売った電気の代金を回収できずに損失をこうむることがあります。
実際にこのリスクが表面化したのが、特定規模電気事業者日本ロジテック協同組合の破産に伴う問題です。この会社では、発電事業者からは相場よりも高く電気を仕入れ、需要家には相場よりも安い電気を売ることで、販売実績としては急成長を遂げていました。しかし資金繰りが苦しくなり、2016年3月には破産申請をする方向で動き始めました。電力会社は調達電力量と供給電力量を常に一致させる必要があり、調達が不足すると高い料金で電気を買わなければなりません(インバランス・ペナルティ)。こうした「罰金」が積み重なって利益が吹き飛んでしまうようでは、儲かるビジネスにはなりません。
基本的に調達価格と販売価格の差額を利益とするビジネスですが、高く調達して安く販売する方向で競争力を維持しようとすると、薄利多売のビジネスモデルに陥ってしまいます。そして同様の構造的な問題は、日本ロジテック協同組合に限らずすべての新電力会社が、多かれ少なかれ抱えています。安定的に発電できる自前の発電設備を持たない事業者は、特にそのリスクが大きいかもしれません。今後も小売電気事業者の経営が行き詰まるケースが出てくることが予想されますが、経営破綻で思わぬ損失をこうむらないためにはどうすればよいでしょうか。経営の安定度に関する透明性を増すために、経営指標の適時開示や、それらのデータに基づく電力会社の比較サイトの開設などが必要だと思います。
電力供給(発電所マップ):日本全国の発電所データベースを独自に構築しました。登録した発電所数は1万件以上、インターネット上では日本最大規模のデータベースです。
電力消費(夜景マップ):DMSP衛星による地球の夜景データを用いて、宇宙から見た地球の夜景(夜間光)を可視化しました。2010年のデータ(F182010)を表示しています。Dark Zoneもご覧下さい。
電力供給・需要に関する最新のデータおよび過去のアーカイブは電力使用状況や太陽光発電実績、風力発電実績、電力需給実績、日本全国の再生可能エネルギー電力供給/割合実績(毎年の最大記録・比率一覧)、季節ごとの最大電力一覧などをご覧下さい(注意点)。
電力需要に影響を与える最新の気象状況は電力関連気象情報をご覧下さい(例えば気温前日比マップ)。
電力供給・需要に関する過去の統計データは電力統計「見える化」をご覧下さい(注意点)。
空撮で見たメガソーラーのかたちについてはメガソーラーギャラリー(作品集)日本版をご覧下さい。
世界の電力マップはElectrical Planetをご覧下さい(注意点)。
更新情報(発電所数19256件 /最終更新2024年10月01日)
地球の夜のあかりと電気エネルギー問題- Researchmap (2011-07-09)
エレクトリカル・ジャパン(発電所マップ+夜景マップ)を公開中です- Researchmap (2011-08-17)
データジャーナリズムで日本の電力問題を可視化する- Researchmap (2013-01-28)