エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)は、電力供給(発電所マップ)と電力消費(夜景マップ)の「見える化」とシミュレーションを通して、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるためのサイトです。

発電所と災害

災害の影響を受ける発電所

エレクトリカル・ジャパンは、2011年の東日本大震災と、それに伴う福島第一原発事故を契機に始まったものです。

まず東日本大震災では海岸沿いを中心に多くの発電所が被災し、電力不足に対応するための節電が大きな社会的課題となりました。このように「災害の影響を受ける」発電所は、東日本大震災以降にも2018年の北海道胆振東部地震などでも社会に大きな影響を与えています。以下のページでは、災害で生じた大規模停電の状況をまとめています。

災害の原因となる発電所

一方、福島第一原発事故は、発電所のもう一つの側面を象徴しています。すなわち「災害の原因となる発電所」の問題です。津波への対策が十分であれば、周辺の原子力災害もここまで深刻にはならなかったかもしれません。最初から安全な発電所を設計し、長期にわたって安全に運用することは、発電所が社会に受け入れられるために必須の条件と言えます。とはいえ、これは原子力発電に特有の問題なのでしょうか。我々は原子力発電だけに注目していれば十分なのでしょうか?

実は、一般にはクリーンと思われている再生可能エネルギー発電所も、同様の問題を抱えています。固定価格買取制度(FIT)の開始に伴って、利益追求を第一の目的とする発電事業者が多数参入したため、利益拡大のために安全対策やその後の管理に手が拔かれている発電所が増加しています。FITでの発電所への投資は、得られる利益には上限がある一方、(保険などでカバーしない限り)損失は大きく膨らむ可能性があります。発電事業者にはこのような利益と損失の非対称性への自覚を持ち、事前の対策を十分に行うことが求められます。

太陽光発電所

太陽光発電所の増加と不十分な規制

太陽光発電所はFITによって大ブームとなり、全国に太陽光パネルが林立しました。その増加ぶりは、以下の統計で見ることができます。

しかし残念ながら、小規模な発電所に対する安全基準がきちんと定められなかったため、利益追求のみを考えたずさんな発電所があちこちに造られてしまいました。ずさんな発電所とは、いったいどんなものなのでしょうか?以下の2点から考えてみます。

第一に、設計が不適切な太陽光発電所です。まず場所の選定が適切でないパターンです。太陽光発電所に適さない傾斜地などに建設することで土砂災害を誘発してしまう場合や、災害リスクを低く見積って河川のそばなどに建設することで洪水浸水被害に遭遇してしまう場合などがあります。次に周囲の環境に対する配慮に欠けるパターンです。例えば、森を切り開いて太陽光発電所を建設する場合は、植物で覆われていた土地を裸地にするという土地利用の改変を伴うため、大雨時に水を貯める調整池を設けたり、斜面が崩壊しないように施工するなど、周辺地域の災害リスクを高めない対策が必要です。ところがこうした工事はコスト増要因になりますので、コスト重視の業者の中には十分な対応を行わないところも出てきます。

第二に、建設が不適切な太陽光発電所です。パネルを地面に固定する力が不足するなど、強度に問題のある発電所が全国的に増えたため、台風や竜巻などの強風が吹くたびに、太陽光パネルが飛散する事故が発生するようになりました。パネルの飛散で周囲が被害を受けた場合、発電事業者は被害者であると同時に加害者にもなります。こうした事故が連発するれば、太陽光発電所の保険審査も厳しくなるでしょう。

こうした問題は、太陽光発電所の建設業者や事業者の倫理に訴えるだけでは解決にも限界があるため、太陽光発電所の建設を規制する法律を整えたり、太陽光発電所の保険審査を厳格化したりするなど、発電所に対する規制を強めていくことも必要になります。

2015年鬼怒川洪水

太陽光発電所の問題がとりわけ社会の注目を大きく浴びたのが、関東・東北豪雨で発生した鬼怒川洪水でした。茨城県の鬼怒川で溢水した箇所の近くに2つの太陽光発電所が存在していたことから、太陽光発電所の建設が水害の引き金になったのではないかという疑惑が持ち上がりました。この疑惑に関する一連の経緯は、日経テクノロジーオンラインの一連の記事がわかりやすくまとめています。

国土交通省関東地方整備局の公式見解である『平成27年9月関東・東北豪雨』に係る洪水被害及び復旧状況等についてによると、太陽光発電所の建設がなくても水位は自然堤防を越えていたようで、結論としては太陽光発電所の建設は水害の主要な原因ではないというところに落ち着きました。とはいえ、そうした結論になったのはたまたまという面もあります。業者は自然堤防を削った後に何も対策をしなかったため、国土交通省は異例の対応として土のうを積むなどの対策を取りました。この土のうがなければ、もっと低い水位でも水が溢れていたわけですから、事業者には周囲の環境に配慮するという責任感がなかったことは明らかです。違法でなければ何をやってもよいという態度は、太陽光発電バブルの混乱ぶりの一端を示すものと言えるかもしれません。

このような太陽光発電所の立地と洪水浸水リスクとの関係を、地図上で確認できるサービスを公開しました。

2021年熱海伊豆山土砂災害

次に大きな注目を集めたのが、熱海の伊豆山で発生した土砂災害です。災害現場のすぐ横に太陽光発電施設が存在したため、土砂災害と太陽光発電施設との因果関係に注目が集まりました。この施設は、メディア等で「メガソーラー」(1メガワット以上の出力の大規模太陽光発電所)と呼ばれることもありましたが、実際にはそれよりも小さい規模の太陽光発電所です。森林を伐採して作られた発電所ではありますが、大きく地形を改変したわけではなく、太陽光発電所の直下で土砂災害が発生したわけでもないため、今回の土砂災害との直接的な関係は薄いと考えられます。

しかしこのような疑いが広まったのは、これまでも太陽光発電施設を原因とする土砂災害が頻発してきたことに原因があります。急傾斜地に無理に太陽光パネルを設置したり、森林を切り開いたにもかかわらず防災対策を十分に行なわかったりなど、災害リスクを増大させている太陽光発電所は全国にいくつもあります。これらの太陽光発電所の開発をストップさせることは現在の法律だけでは難しい面もありますが、業者の倫理に任せるだけではうまくいかない事例が多数あることを考えると、土地利用に関する法的な規制を強めていくことも有力な対策になるでしょう。

このような太陽光発電所の立地と土砂災害リスクとの関係を、地図上で確認できるサービスを公開しました。

発電所と持続可能性(サステイナビリティ)

本来は持続可能性を高めるための発電方式が、自然環境を破壊し、災害リスクを高め、結果的に持続可能性(サステイナビリティ)を低めるようでは本末転倒です。SDGsで重要なのは持続可能性であり、クリーンな発電所が持続可能性を高めるかどうかを、より批判的な観点からチェックしていく仕組みが今後は重要になると考えられます。第三者認証などもその一つです。

発電所がサステイナビリティの問題を引き起すという事例は、何も福島第一原発だけの問題ではありません。風力発電所による騒音被害、石炭火力発電所による二酸化炭素排出と大気汚染、バイオマス発電所の燃料輸入が引き起す熱帯雨林の破壊など、その他の発電方式も様々な問題を抱えています。こうした状況を認識し、持続可能性を高めるための発電所をきちんと建設し運用していくことが、発電事業者に求められています。

発電所データベース

電力需給に関する情報

電力供給(発電所マップ):日本全国の発電所データベースを独自に構築しました。登録した発電所数は1万件以上、インターネット上では日本最大規模のデータベースです。

電力消費(夜景マップ):DMSP衛星による地球の夜景データを用いて、宇宙から見た地球の夜景(夜間光)を可視化しました。2010年のデータ(F182010)を表示しています。Dark Zoneもご覧下さい。

電力供給・需要に関する最新のデータおよび過去のアーカイブは電力使用状況太陽光発電実績風力発電実績電力需給実績日本全国の再生可能エネルギー電力供給/割合実績(毎年の最大記録・比率一覧)季節ごとの最大電力一覧などをご覧下さい(注意点)。

電力需要に影響を与える最新の気象状況は電力関連気象情報をご覧下さい(例えば気温前日比マップ)。

電力供給・需要に関する過去の統計データは電力統計「見える化」をご覧下さい(注意点)。

空撮で見たメガソーラーのかたちについてはメガソーラーギャラリー(作品集)日本版をご覧下さい。

世界の電力マップはElectrical Planetをご覧下さい(注意点)。

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更新情報(発電所数18911件 /最終更新2024年03月18日)

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