エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)は、電力供給(発電所マップ)と電力消費(夜景マップ)の「見える化」とシミュレーションを通して、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるためのサイトです。

発電所データのオープン化

発電所データベースの比較

エレクトリカル・ジャパンでは、以下にまとめたように、3種類の発電所データベースを提供しています。

番号 データセット 地域 情報源
1 Electrical Japan 日本 独自収集(非オープンデータ)
2 国土数値情報版発電所データ 日本 国土交通省国土数値情報(独自ライセンスの公開データ)
3 Electrical USA 米国 米国エネルギー情報局(オープンデータ)

なぜ日本に関して、2つの発電所データベースが存在しているのでしょうか?その理由は、日本には「決定版」データベースがないからです。ではなぜ、米国には決定版データベースが存在するのに、日本には存在しないのでしょうか?この問題をオープンデータの観点から整理してみたいと思います。

まず1のElectrical Japanは、ウェブや書籍という公開データを情報源とし、私自身が各種の情報を丹念に集めて独自にマッピングしたものです。発電所を一件ずつ自力でマッピングする作業にはものすごい手間がかかりますが、これだけの手間をかけられる人が他にいるとも思えませんので、その結果として日本で唯一の量を誇る「プロも利用する」データベースとなりました。

それに対して2の国土数値情報版は、国土交通省国土政策局国土情報課が提供する国土数値情報の発電施設を用いたものです。こちらを使えば、自分で苦労してデータを集める必要はなく、データをダウンロードして処理するだけでお手軽に発電所データベースを構築できます。基盤データは政府が整備し、その活用を個人や民間が行うというのが政府のオープンデータの目標ですから、まさにこれは目標を実現したもののように思えます。発電所数に関しても、1の独自データベースが6000ヶ所程度なのに比べて、2は12000ヶ所以上。数の上でも政府のオープンデータの方が充実しているように思えます。この状況で、あえて独自データベースを作ることに価値はあるのでしょうか?

価値あるオープンデータの条件

政府のオープンデータは確かに価値があるものですが、その利用にあたってはデータの問題点をよくよく見極めなければなりません。データの中身を精査するという批判的精神(リテラシー)なしに、可視化などの利用のみに突っ走ることには危険を感じます。政府が提供するオープンデータは本当に価値あるデータなのでしょうか?そのことを検証するために、政府のオープンデータが価値を備えるためには2つの条件を満たす必要があるという仮説を提示してみましょう。

第一に、データを収集する権限の典型的なケースは、政府に申請する/認可を受けるなどの手続きを通過しないと、権利や特典が受けられないというケースです。この構図が存在するなら、政府はデータの自動収集インフラを手に入れたも同然です。何しろデータが向こうからやってくるのですから、データベースの網羅性を向上させることは難しくなく、場合によっては全数をカバーするデータベースも実現できます。第二に、データを公開する権限として、法律やその他の文書に公開が定められている場合があります。このとき、生データを公開できる権限と、統計情報のみを公開できる権限があり、理想的には生データの公開が理想的ですが、プライバシーの問題などで生データは公開できず、それを集約した統計情報のみが公開できる場合もあります。また予算の裏付けがある制度であれば、長期/安定的なデータ公開が可能になるという長所もあります。

いずれにしろ、上記の2つの条件を満たすデータベースは高品質なものとなる可能性が高く、その公開は社会的にも価値が非常に大きいことになります。だから社会の公共財として利用できるようにオープン化を進めるべきというのが、オープンガバメントにおけるオープンデータの活用の基礎にある発想です。

国土数値情報版発電所データベースの問題点

国土数値情報版発電所データベースは、上記の2条件を満たしていません。欠けているのは「データを収集する権限」です。国土交通省は発電所データを自動的に収集する権限を持っていないので、他者が構築したデータベースを寄せ集めるアプローチしか選べないのですが、そのことがいくつかの問題点を引き起こします。単に数を比較するだけでは見えない問題点を具体的に検証するために、Electrical Japan国土数値情報版の違いを以下にまとめてみました。

まず、国土数値情報版の水力に存在するランキングのギャップについて考えます。なぜ特定の出力の発電所のみリストから抜けているのでしょうか?これには簡単な理由があります。実は国土数値情報版は、2つのデータベース、すなわち30MW以上の水力発電所のデータベースと、1MW以下の水力発電所のデータベースを統合したものなのです。ところが1MWから30MWの中規模の水力発電所については、各種のデータベースを統合するために膨大な手間がかかるため、ひとまず省略したものと考えられます。なぜそのことがわかるかと言えば、実は私自身がElectrical Japanを構築する際に全く同じ道をたどったからで、私自身はこの統合を完了できましたが、この統合がそう簡単でないことは理解できます。とはいえ、国土数値情報版水力発電所データベースはこのままでは、日本の水力発電所の全貌を知るには中途半端な存在のままです。「データ収集権限」に由来しないデータベースであることの欠点は、このような網羅性の欠如に顔を出してしまうのです。

次に、国土数値情報版の太陽光発電所のリストについて考えます。なぜ出力が大きな発電所のみリストから抜けているのでしょうか?こちらも一見すると出力が問題のようですが、実は水力とは理由が全く異なります。水力の場合、リストから抜けたのは複数データベースの統合が原因でした。ところが太陽光の場合、実は出力ではなく運転開始時期がキーポイントなのです。太陽光の場合、出力が大きいことは新しいことを意味します。つまり本当の問題は新しい発電所のデータが抜けている点にあり、それは「2012年7月に始まった固定価格買取制度(FIT)で売電する発電所のデータが抜けている」ということを意味します。大規模な太陽光発電所はほとんどがFITで売電する発電所ですので、それが抜けているデータベースは残念ながら価値が低いものとなってしまいます。

FITに注目すれば、なぜバイオマスや地熱、風力では違いが小さく見えるのかという点も説明できます。その理由は、これらの再生可能エネルギー発電方式は、FITのもとでの新設が遅れているため、新しい発電所がまだ少ないから差異も小さい。FITでは90%以上が太陽光ですので、そこで最初に問題が顕在化したわけですが、今後は他の種類の発電所でも新設が増えていく見通しのため、データベースの鮮度が落ちて価値が低下するという問題はデータベース全体に広がっていくものと考えられます。

なお原子力については、新設が不可能に近い状況で新しい発電所も生まれないため、国土数値情報版がそのまま使えるということになります(ただし発電所の集約の問題は残りますが、これは好みの問題という面もあります)。つまりデータの鮮度が問題でないならば、国土数値情報版にも価値があるとは言えるでしょう。

以上のような状況を踏まえ、以下の2点に留意する必要があるでしょう。まずデータを作る側としては、データの価値判断が重要であるということ。国土数値情報版の発電所数の方が多いのは、重要性の低い発電所のマッピングに膨大なコストをかけた結果とも言え、どのデータを情報源にするかを適切に選択することが重要となります。次にデータを使う側としては、データの性質と品質をよく見極めるべきということ。オープンデータの価値として、マッピングやデータ整理という業務を税金で肩代りし、その成果物を社会でシェアすることの価値は正当に評価すべきです。ただし、このことによるメリットはオープンガバメントによるオープンデータの一部であり、これだけだともう一つのメリット、すなわちデータを吸い上げるマシンとしての政府でしか作れない高品質なデータベースの提供、というメリットは亨受できないことをしっかり認識することが重要となります。

ただし、念のため強調しておくなら、国土数値情報には上記の2つの権限に由来する網羅的な高品質データが多数提供されており、非常に価値の高いサービスとして私自身もよく利用しています。国土数値情報は全体として意義あるサービスであり、データ収集権限に由来する網羅性が期待できないという理由だけで、ある種のデータの整備と公開を遅らせるべきではありません。ここで主張したことは、データの品質に注意しながら作り使いましょうという、ある意味では当たり前のこと。エレクトリカル・ジャパンも数々の問題点を抱えており、完全からは程遠いデータベースですので、国土数値情報版のデータベースもよりよいデータベースに向けて、継続的な更新を続けていってほしいと考えています。

FITの問題点と日米比較

ゆえに、国土数値情報版のデータベースを改善する最良の方法は、国土数値情報版がFITデータを用いて更新を続けていく方法なのです。ところが、それがすんなりできないところに、さらに大きな問題があります。実はFITデータの公開は、現在のところは極めて限定的なレベルにとどまっています。データを収集する権限を持つ経済産業省(資源エネルギー庁)のデータ公開サイトなっとく!再生可能エネルギー 各種データの公開を見ると、ここで公開されているのは、都道府県別、市区町村別の統計情報に限定されています。

しかし統計情報からだけでは、個別の発電所の情報という「生データ」を復元することはできません。公開を求める声は多いにもかかわらず、FIT生データは「個人情報である」「テロの危険がある」などを名目に非公開のままです。このようなオープン化への消極姿勢は、さまざまな混乱を誘発する遠因にもなっています。例えば、太陽光発電所に起因する災害が多発しても、そうした発電所に関わった業者はどこなのか、一般の人々が知ることはできません。鬼怒川での水害で太陽光発電所が問題になったとき、その発電所の事業者などが明らかにされなかったため、別の事業者が濡れ衣をかけられるなどの混乱も起こりました。また、年間1兆円以上の金が流れるほどの大規模な制度であるにもかかわらず、その金がどのように流れているのか、一般の人々が知ることはできません。公共性の高い制度として、もっと透明性を高めることが必要ではないでしょうか。

そのように考える根拠もあります。実はFIT制度の前身となるRPS制度では、RPS制度の適用を受けた発電所の情報がかなり網羅的なレベルで公開されていたのです。RPSによる優遇を受ける以上、それを他者が検証するためにも情報公開は必要です。RPSデータは収集と公開の権限を持つ省庁がデータをオープン化した事例で、2条件を満たす高品質データとして価値の高いものでした。実はこの公開情報があったからこそ、Electrical Japanや国土数値情報版では、バイオマス、地熱、風力、太陽光、そして1MW以下の水力に関するデータが充実しているのです。RPSで可能だったことがなぜFITではできないのか、それに対する答えは明らかにされていません。

もし国土数値情報版が日本の発電所データベースとして決定版になる時が来るとするなら、それはFIT生データがオープン化されたときでしょう。政府という単位で見れば「データを収集する権限」をもつ省庁は存在するのですから、収集権限をもつ経済産業省(資源エネルギー庁)が集めたデータを政府内で共有し、国土交通省がメンテナンスし公開するというアプローチも、政府全体で見れば価値あるオープンデータの姿と言えます。ただし経済産業省はオープンデータにも積極的なのですから、担当省庁が責任をもって収集と公開を行うというアプローチの方がシンプルで望ましいとも考えます。

そのように考えるのは、米国との比較にも理由があります。Electrical USAは、エネルギーの担当省庁である米国エネルギー省のエネルギー情報局が公開する発電所データベースを処理したもので、1年に1回の頻度で更新されています。こちらの発電所データベースの網羅性はきちんと検証できていませんが、全米がまんべんなくカバーされており、新しい発電所も確実に追加されているというエビデンスを参考にするなら、これを米国の発電所データベースの決定版と呼んでも差し支えないとひとまず判断しています。権限をもつ省庁がしっかりとデータを集め、整理して、使いやすい形で公開する。これぞオープンデータの見本と言えるでしょう。米国でできることが、なぜ日本でできないのでしょうか。

電力自由化の進展とともに、FIT生データがオープン化され、定期的にメンテナンスされる時代が到来すれば、Electrical Japanの役割も終わり、政府のオープンデータを可視化するだけのサイトになるかもしれません。しかし、そんな時代が到来するにはまだ時間がかかりそうで、当面は自力でのデータベース構築が必要になりそうです。

電力需給に関する情報

電力供給(発電所マップ):日本全国の発電所データベースを独自に構築しました。インターネット上では日本最大規模のデータベースです。

電力消費(夜景マップ):DMSP衛星による地球の夜景データを用いて、宇宙から見た地球の夜景(夜間光)を可視化しました。2010年のデータ(F182010)を表示しています。Dark Zoneもご覧下さい。

電力供給・需要に関する最新のデータおよび過去のアーカイブは電力使用状況をご覧下さい(注意点)。

電力需要に影響を与える最新の気象状況は電力関連気象情報をご覧下さい。例えば気温前日比マップなどがあります。

電力供給・需要に関する過去の統計データは電力統計「見える化」をご覧下さい(注意点)。

世界の電力マップはElectrical Planetをご覧下さい(注意点)。

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更新情報(登録発電所件数6669 /最終更新2016年12月07日)

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