エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)は、電力供給(発電所マップ)と電力消費(夜景マップ)の「見える化」とシミュレーションを通して、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるためのサイトです。
エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)(以下本サイト)で構築した「発電所データベース」について、以下に具体的な構築方法や利用の注意点などをまとめます。なお「夜景マップ」については夜の地球:World Stable Lightsをご覧下さい。
福島第一原子力発電所事故が発生して以来、日本の電力問題に関する議論が非常に活発化しました。しかし、中には感情論や十分な検討を経ていない議論もあって、なかなか発展的に議論が展開していかないことにもどかしさを感じていました。また地球の夜のあかりと電気エネルギー問題にも書いたように、電力問題では特定の立場を有利にするための言説(ポジショントーク)が多いようで、そうした偏りに影響されないためには、まず基本的なデータをもとに考えることが必要だと感じました。そうした基本的なデータの一つとして着目したのは、日本にどんな発電所がどのくらいあるのか、という「発電所データベース」でした。
そこで日本全国の発電所データベースを構築しようと思い立ち、予備的な作業に着手しました。発電所データを集めるために最初に注目したのは、おそらく誰もが思い付くアイデアだと思いますが、Wikipediaです。例えば以下のページが参考になります。
Wikipediaを使うだけで簡単に発電所を網羅できる発電方式もあります。例えば原子力発電所は全国的に数が限られているので、Wikipediaを使えば簡単に「全国の原子力発電所リスト」は作成できますし、実際にインターネット上にはそうしたサイトが大量に存在します。本サイトでも日本の原子力関連施設におけるSPEEDI環境放射線モニタリングと気象情報で、日本の原子力発電所マップを見ることができます。
同様に地熱発電所も、数が限られていますので、網羅することは難しくありません。一方、火力発電所は少し難易度が上がります。そしてさらに難しいのが、新エネルギー発電所や水力発電所です。分散型電源として注目を集めていることでもわかるように、これらの発電方式では小さな発電所が大量に誕生しますので、全国を網羅することは決して簡単ではありません。主要な発電所が対象、あるいは地域を対象とした部分的なデータベースはいくつか存在しますが、小規模なものまで含めて全国に存在する全発電方式の発電所を網羅したデータベースは、少なくともネット上では発見できませんでした。
とすると、自分で調査してデータを作らなければなりません。他にどんな情報源が考えられるでしょうか。おそらく最初に思い付くのが電力会社のウェブサイトでしょう。電力会社のウェブサイトにも発電所のリストはいちおう掲載されています。九州電力や沖縄電力などの情報が比較的充実しており、小さな発電所に関する情報も多少は見付けることができました。しかし電力会社のウェブサイトで提供される情報は、基本的には著名な発電所や電力会社自身がPRしたい発電所(特に原子力発電所)が中心となってしまい、網羅的な調査に役立つ情報とは言えません。さらに大規模水力を除く再生可能エネルギーとなると、電力会社はもはや全く主役ではなく、それ以外の民間企業が中心となって発電事業を行っています。電力会社の情報だけでは、ほとんど意味がありません。
Wikipediaはけっこう頑張ってデータを集めている、だからWikipediaをちょっと整理すればデータベースが作れるのではないか、というのが私の最初の見通しでした。確かにWikipediaの中にも、データの網羅性が十分なレベルに達しているテーマがあります(例えば日本の鉄道)。しかし発電所はそのような分野ではありませんでした。そうした網羅性をチェックせずにWikipediaを当てにしたのは、今から振り返れば大変に楽観的な甘い考えでしたが、逆に言えばそれだけ楽観的だったから、その後の泥沼的な(?)作業でも前進できたのかもしれません。
Wikipediaでは確かにある種のリストが得られるのですが、それが全体の中でどのような位置づけなのかという全体像が見えない問題点があります。そこでこの分野の公的な文書を読んでみることにしました。選んだのは電源開発の概要 平成22年度版 - 経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部編という本です。東日本大震災直後の発刊であるため、当然ながら福島第一原発事故に関する記述はありませんが、マニアックな意味で大変に面白い内容で、これを読むことで少し全体像が見えてきました。
この本には、以下の発電所の一覧があります(2010年3月末現在)。なお「一般電気事業者」とは東京電力等の全国10電力会社、また「卸電気事業者」(「卸供給事業者」も含む)は大規模な発電設備をもつ民間会社です(電気事業に関する用語解説)。
さて、この本を読むことによって、主要な発電所が全国にどのくらいあるのかはわかりました。しかし主要ではない小さな発電所は掲載されていません。また発電所名とその出力に関する記載はあっても、正確な位置情報(緯度経度)が記載されていません。つまり、この本のリストだけでは、発電所を地図にマッピングすることはできないのです。
そこで発電所の位置情報を入手するために、国土交通省の国土数値情報ダウンロードサービスを使うことにしました。国土数値情報には発電所というカテゴリがあり、全国の発電所(水力発電所、火力発電所、原子力発電所、地熱発電所)について、位置(点)、発電所名、事業者名、所在地、号機、認可出力等をまとめています。このデータによって、大きな発電所については位置情報を得ることができました。ただし作成時点が2007年なので、その後の新規発電所は含まれておらず、また発電所が建設中かどうかを再判定する必要はあります。
次に使えるものとして、国土地理院のウォッちず 地図閲覧サービスがあります。これは電子国土基本図(地図情報)を公開したもので、平成22年12月時点の2万5千分の1の地形図原データを利用した公共施設名の検索が可能です。ここでも一部の発電所を検索して位置を確認することができます。ただしあくまで地図なので、発電所名と位置がわかるのみで、発電所の出力などは他のデータベースと照合する必要があります。また、この地図自体には発電所が書き込んでない場合でも、後述するように地図中の人工水路に関する情報が、水力発電所の位置を特定するのに大変役立ちました。
ここまでで、大規模な発電所についてはある程度の情報を得ることができました。しかし、各種のデータを調べていくうちに、これだけでは網羅的なデータベースには程遠い状態であることがわかりました。発電方式別に、もっと深く掘り下げていかなければなりません。以下、発電方式別に、どのような作業をおこなったかをまとめます。
結論からいえば、水力発電所が最も難易度の高いタイプでした。日本全国には1000箇所以上の水力発電所が散在しており、多くのリストに登場する大規模な水力発電所などは、全体のごく一部に過ぎません。網羅的なデータベースを構築するには、小規模な水力発電所のデータをどうやって入手するかが鍵となってきます。
もう一つ、水力発電所に特有の問題点があります。それは発電に関係する設備が広域にわたるという点です。発電所の位置とは、狭義に考えれば「発電機が設置された場所」ということになるでしょう。ところが水力発電所の場合、発電に必要な水の落差を生み出すためのすべての設備が発電に関係する設備となり、それが他の発電方式と異なるややこしさを生み出します。例えば水力発電所の種類を以下のように分けてみましょう。
ダム式発電所は貯水池の近くに発電所がありますので、ダムの位置を調べれば発電所の位置もわかります。ところが水路式やダム水路式では、取水する場所と発電する場所が異なります。○○ダムの水を利用する水力発電所が○○ダムの近くにあるわけではなく、場合によっては水路のトンネルを掘って山の向こう側に水を導くなど、取水する川(水系)と放流する川(水系)が異なることもあります。したがって、ダムを基準として水力発電所のデータをまとめた資料では、ダムと水力発電所の位置関係に注意しなければなりません。例えばダムについて充実した情報を誇るダム便覧を使うと水力発電用のダムに関する情報は得られますが、これは水力発電所に関する情報とは異なります。またWikipediaも、ページ名からわかるように基準はダムです。たとえダムの位置がわかっても、水力発電所の位置はわからない場合があるのです。
ようやく事情が飲み込めてきました。発電所データベースを構築するためには、ダム基準のデータではなく、水力発電所基準のデータが必要なのです。いろいろ検索しているうちに、以下の4つの情報源が非常に有用であることがわかりました。
上記のような問題点があるため、位置情報については信頼できる単一の情報源があるわけではなく、他の情報源の位置情報をそのままコピペするわけにはいきません。結局すべての水力発電所について、以下の手順で1件ずつ場所を確認していくことにしました(ただし住所からジオコーディングした場所は除きます)。
ここで問題となるのがGoogle Maps衛星画像の精度です。Google Maps衛星画像上で緯度経度を拾った場合、衛星画像の位置合わせ誤差が影響して正確な緯度経度を取得できないことがあります。ただし本データベースはそこまで高い精度を保証するものではありませんので、これらは許容できる誤差として扱うことにしています。
このように1件ずつ確認する方法には大変な手間がかかります。簡単な場合には20-30秒で確認ができますが、最も困難な場合には1件につき10-30分も時間を要することもありました。自分は何をやっているんだろう(苦笑)という疑問もありましたが、苦労が実って徐々に水力発電所のデータも充実してきました。その後、以下のような資料も活用して、データベースを更新しています。
火力発電所については、これまでの作業で大規模な発電所に関するデータはおおむね揃っています。しかしほとんど丸ごと欠落している火力発電所の種類があります。それが「内燃力発電所」と呼ばれるものです。その状況を以下に説明します。
火力発電所の分類方法には2つの方法があります。一つは燃料による分類で、主に利用する化石燃料は以下の4種類となります。
また後述するように、新エネルギーに分類されるバイオマス燃料も一部の火力発電所で用いられています。
もう一つの方法は発電機構による分類です。
電力会社における「内燃力発電」は「ディーゼル発電」のことを指します。機構としては車のエンジンと同様にピストンの上下動を回転に変えるもので、ほとんどの場合は石油を燃料に使いますが、「石油火力発電所」とは呼ばず「内燃力発電所」と呼びます。というのも、電力会社においては内燃力発電所は特殊な用途に使うことが多いからです。それが離島における小規模火力発電所です。
内燃力発電所を多く保有しているのは、離島が多い東京電力、九州電力、沖縄電力です。離島には本土から送電するすべがありませんので、島ごとに発電所を設置して、その中で完結する電力ネットワークを維持しなければなりません。そこで活用されるのがディーゼルエンジンを用いた内燃力発電所ですが、この発電方式は効率が悪いため、各電力会社は内燃力発電所で毎年多額の赤字を出しているのが実情です。ちなみにこの問題が理由となり、離島では再生可能エネルギーの実証実験が盛んに行われています。内燃力発電のコストが高過ぎるため、たとえコストが割高な再生可能エネルギーでも元が取れる可能性があるのです。
火力発電所で難しいのはこの内燃力発電所に関する情報でした。九州電力や沖縄電力ではリストを公開していますが、詳しい位置情報はわかりません。東京電力ではリストさえわかりません。そこでいくつかの情報源を組み合せて位置を特定していきましたが、意外なページが役立つことになりました。それが、NPO法人有害化学物質削減ネットワークが運営する温室効果ガス特定排出者データベースです。これは温室効果ガスを排出する事業者に関する情報をまとめたデータベースですが、火力発電所は温室効果ガスを大量に排出することから、このデータベースの対象となるのです。つまりこの場合は、排出物から追跡すれば良かったということになります。
再生可能エネルギー発電所の種類としては、太陽光発電所、地熱発電所、水力発電所、風力発電所、バイオマス発電所があります。これらの発電所は一般電気事業者も設置していますが、数が圧倒的に多いのは特定規模電気事業者や自治体等です。したがって再生可能エネルギー発電所の場合は、一般電気事業者が運営する発電所のリストは役に立ちません。Wikipediaも多少は発電所を列挙していますが、網羅性に欠けているのが現状です。
そこでまず風力発電所に調査に着手しました。最初に着目したのが、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が提供するNEDO新エネルギー部:[日本における風力発電設備・導入実績] | 都道府県別導入事例です。ここには風力発電所のリストが網羅的に揃っていますが、市町村レベルでの所在地しか情報がないため、ここから位置情報を正確に得るのは困難です。
次に着目したのが、資源エネルギー庁のRPS法ホームページ(新エネ等電子管理システム)です。RPSとはRenewable Portfolio Standardの略で、「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」(RPS法)のもとでは、電気事業者は自ら「新エネルギー等電気」を発電するか、もしくは他から「新エネルギー等電気」を購入するまたは「新エネルギー等電気相当量」を取得しなければなりません。その対象は風力、太陽光、地熱、水力(1MW以下)、バイオマスですが、このサイトにはその認定設備に関する情報(2011年3月31日現在)が集約されています。このリストは網羅的なもので、住所情報も細かく記載されています。また風力発電所だけではなく、他の新エネルギー発電所に関する情報もまとめて得られるという点でもありがたいリストです。さらに小水力発電所については、上記の水力発電所に関するデータの欠落を補うという利点もあります。
なお水力発電は出力の規模によって、以下のように区分されることが多いです。RPSが対象とする水力(1MW以下)は、下記の区分では「ミニ水力」および「マイクロ水力」となります。ただし、全国の水力発電所一覧地図にはすべての水力発電所が、出力による区別なしに登録されています。
また一部の発電所の情報に関しては日本自然エネルギー株式会社がグリーン電力として認定する発電所の情報を加えています。これらの中には外部に売電しない自家消費のみの発電所も含まれていますが、社会的にはグリーン電力証書として流通していることを踏まえて、データベースに加えることにしました。
風力発電所について注意すべき点はその位置です。風力発電所の位置は風車の位置とするのが妥当ですが、複数の風車をもつ風力発電所の場合に問題が生じます。本データベースでは風力発電所の位置を点で表しているため、複数の風車点をどの位置で代表させるかを決めなくてはなりません。例えば複数の風車点の重心で代表させるという方法も考えられますが、「ウィンドファーム」などとも呼ばれる大規模な風力発電所では、複数の地域に風車が分散している場合もあるため(資料によっては別の発電所という扱いの場合もあります)、重心が常に代表点になるわけではありません。そこで本データベースでは完璧な方法を考えることはあきらめ、ある一つの風車の位置で風力発電所の位置を代表させることにしました。どの風車を選ぶかについては、できるだけ風力発電所の真中付近を選ぶようにしましたが、場合によっては異なる基準を適用している場合もあります。
なお風力発電所の位置については、風力発電所事業者のサイトの他、各種のウェブ上の資料を参照しました。地域ごとには情報がよくまとまっているサイトがいくつかありました。また以下のサイトも、他に情報がない場合に利用しました。
上記のサイトなどで風力発電所の名称が不正確になってしまう大きな原因は、複数の風力発電所が隣り合って立地している場合があるためです。日本全国を見ても風力発電の適地は限られているため、そうした適地には多くの事業者が風車を集中立地することになります。すると、どの風車がどこの事業者のどの風力発電所に属するのか、極端な場合は1本ずつ見極めないと風力発電所の位置を決められません。その地域の風車に関する全体的な図面があればこの作業も可能ですが、通常はそのような図面は存在しません。やむをえず、各種の資料を比較検討しながら個々の風車の所属を見極め、その推定にしたがって風力発電所の位置を確定させていきましたが、非常にわかりにくい地域では確定できなかった場合もあります。
太陽光発電所について注意すべき点は、特定太陽光発電が含まれていない点です。
特定太陽光発電とは、電気事業者に買取義務のある電気を発電する設備で、主に住宅などの小規模な太陽光発電に対応します。RPS法認定設備の状況(2012年2月29日現在)によると、太陽光発電が149ヶ所(99.827MW)であるのに対して、特定太陽光発電は926,578ヶ所(3635.520MW)となっており、特定太陽光発電の方が件数は6219倍、出力は36倍と圧倒的に大きな数字となります。
本データベースに登録されている太陽光発電所だけでは、日本における太陽光発電の実績を過小評価してしまうことにご注意下さい。
また、2012年7月の固定価格買取制度(FIT)の開始に伴って、太陽光発電所の数は急増しています。その状況については、資源エネルギー庁の再エネ設備認定状況がまとめています。これによると、2013年2月末時点で運転開始しているFIT対象の太陽光発電所は、10kW未満が182,355ヶ所(836.548MW)、10kW以上が11,988ヶ所(419.864MW)、うちメガソーラー(1000kW以上)が69ヶ所(110.201MW)となっています。この中で本データベースが対象とするのは、10kW以上の中でも特に大きなものとなります。比較のため、本データベース上で2012年7月から2013年2月の間に運転開始した太陽光発電所の数は123ヶ所です(ただし自家消費も含む)。
このように運転開始が続く多くの太陽光発電所に関する情報は、ウェブサイトなどで一般に公表された公開情報を参照しています。例えばプレスリリース、メディアによる紹介記事、ブログやソーシャルメディア上での言及などを参照するという、いわゆるメディアモニタリング的な手法を用いています。さらに、太陽光発電所に関する情報源としては、以下のリストなども参照しました。
こうした太陽光発電所リストの問題は2つあります。第一は、計画段階の発電所と運転開始した発電所とが混在しているという問題です。太陽光発電所は、計画が発表された後に中止や縮小されたり、建設が始まったとしても完成時期が計画より大幅に遅延したりすることがあります。計画発表の段階で用地や資金、施工者、送電線などが確保できていないと、これらの要因の変動によって計画通りに完成しないことになります。本データベースではこうした建設遅延状態にある発電所を除外するため、運転開始を確認できたものをリストに登録しています。ただし、運転を開始していることが状況より明らかと思われる場合には、情報源が明らかに確認できなくても登録する場合があります。
第二は、太陽光発電所の網羅性の問題です。家庭用の小規模なものまで含めると太陽光発電所は日本国内に約100万ヶ所も存在するため、そのすべてをカバーするというのは現実的な方針とは言えません。そのため、登録する発電所の線引きをどうするかという問題が生じますが、本データベースではおおむね以下の条件を満たす太陽光発電所を登録することにしました。
これらの条件により、詳細情報が公開されていない家庭用太陽光発電所は除外されることになります。またメガソーラー級であっても、事業者の情報がぼかされているもの(「某社」あるいは「A社」等)は登録していません。理由はいろいろあると思いますが、積極的にメガソーラーを公表する事業者がある一方で、公表に無関心あるいは消極的な事業者もあり、中にはそもそも公表したくない事業者もあるようです。また運転開始の事実は確認できているものの、具体的な所在地を確定するにはあまりに情報が少ない発電所も、登録を延期している場合があります。これだけ多数の太陽光発電所の情報がプレスリリースされている今となっては、今後プレスリリースする事業者は、他社の過去のフォーマットを参考にして漏れなく重要な情報をまとめて欲しいと思います。
ただし、本来は登録すべきなのに登録できていないケースとして、瞬時値である出力(MW)ではなく、累積値である年間発電量(MWh)のみを明記している発電所があります。実際には後者の方が発電所の真の実力を表す数値であることを考えれば、あえて前者を明記しないという立場も十分に理解できます。ただし発電量には、計画段階の予想値は真の実力を表す実績値とは言えないこと、年ごとに変動する実績値は比較対象として利用しづらいこと、などの欠点があります。本データベースとしては登録項目を揃える必要もあるため、出力に関する情報がないと登録しづらいというのが実情です。そこで、出力情報の欠損を理由に登録を延期している発電所は、数字を確定できたら速やかに登録を進めることとしています。
なお、1) ある地域に設置したパネル全体、2) 多地域の施設(屋根など)にある組織が設置したパネル全体、を一つの「仮想的な発電所」とみなしてメガソーラーと呼ぶ場合もありますが、本サイトでは原則としてこれらをメガソーラーとはみなさず、データベースにも登録していません。ただし、その中に特に大きな発電所がある場合、あるいは特徴的な発電所がある場合については、仮想的なメガソーラー単位ではなく、個々の発電所単位で登録する場合があります。
ちなみに、「メガソーラー」を正確に定義することは、簡単ではありません。まず、「メガソーラー」とは出力が1MW以上の発電所を指すというのが一般的な定義ですが、「出力」に大きく異なる二つの定義がある点が問題となります。第一に発電端出力があります。これは太陽電池パネルの容量(モジュール容量などとも呼ばれます)で、これは直流電流なので直流出力とも呼ばれます。第二に送電端出力があります。これは発電所の容量で、インバータ/パワーコンディショナー(パワコン)を通して交流電流に変換した後の出力なので交流出力と呼ばれます。このように、太陽光発電所では直流を交流に変換する必要があるため、そこで多少の電力損失が発生することは避けられません。
どの発電方式においても、送電端出力は発電端出力よりも小さくなります。特に太陽光発電所の場合は、送電端出力が発電端出力よりも数割も小さいなど、差が大きい場合があることに注意が必要です。その理由は、太陽光発電所の1日の出力特性にあります。昼間は出力が大きく朝夕は出力が小さいため、どの時間帯で最大出力に達するようにするかは、設計の考えかたによります。例えば、太陽光パネルを意図的に多く設置(過積載)すると、快晴の昼間は売電できずに無駄になる発電量が生じますが、朝夕や曇りなど発電量が小さい時間帯もパワーコンディショナーを有効活用できるようになります。太陽光発電所で最も高価な機器はパワーコンディショナーであるため、パワーコンディショナーを有効活用できるならば、多少のパネルが無駄になってもそれを上回るメリットがあるのです。日本の日照条件を考えると、パワーコンディショナー出力に対してパネル出力を1.3倍、または1.4倍にするのがよいという説があります。つまり1MW送電端出力のメガソーラーは、1.3MWまたは1.4MWのパネル発電端出力を持つべきということになります。一方、パワーコンディショナーの出力は切りのよい数字となるため、切りのよい数字は送電端出力、切りの悪い数字は発電端出力を意味すると考えて下さい。
これに加えて、法律上の理由(例えば電気事業法上の電気主任技術者の問題)等もあり、電気主任技術者を専任でなく外部委託するために、出力を意図的に1MW未満(例えば0.999MW)に抑える発電所もあります(この規制は現在は2MW以上に緩和されたため、1MWの区切りはなくなりました)。こうした人工的な要因に影響を受けるため、ある定義ではメガソーラーなのに、別の定義ではメガソーラーではない、といった曖昧さが避けられません。以上の理由により、1MWは必ずしも合理的なしきい値とは言えないと考えました。
そこで本サイトでは、大規模太陽光発電所を指す言葉として、「メガソーラー」ではなく「メガソーラー級」発電所(例えばメガソーラー級大規模太陽光発電所数の推移)という言葉を使うことにし、そのしきい値を0.9MWとしました。つまり、一般的な定義では「メガソーラー」は出力が1MW以上の発電所を指しますが、本サイトの「メガソーラー級」は出力が0.9MW以上の発電所を指します。また発電所の出力として、発電端出力(直流)と送電端出力(交流)とを混在して登録しています。最初は交流出力を優先して登録していましたが、これだと直流出力しか公表しないメガソーラーの方が実態以上に大きく見えてしまい、交流出力を正直に(?)公表しているメガソーラーがランキング上不利となるため、直流出力を優先的に登録するように途中から方針変更しました。この問題があるため、太陽光発電所のランキングを正確に算出することは難しいのが実情で、あくまで参考としてご利用下さい。
なお固定価格買取制度における設備認定申請では、発電出力とは「太陽光パネルの合計出力とパワーコンディショナーの出力のいずれか小さい方の値」と定義されています。ほとんどの場合、パワーコンディショナー出力の方が小さいため、太陽光発電所に関する出力の統計には「交流出力」が使われることになります。本サイトでは直流出力を優先して登録することにしたため、固定価格買取制度の統計との出力比較において、本サイトの値が大きめに出てしまう点にご注意下さい。
ちなみにメガソーラーの出力には、2MWにもしきい値があります。出力が2MW以上だと「特別高圧」の契約が必要となり、特別高圧送電線に連系するための受変電設備が必要となるのに比べ、2MW以下だと「高圧」の契約となって設備コストが小さくなります。そこで、出力が2MW以下になるよう、発電所を「第一発電所・第二発電所…」のように形式的に分割する方法が多く使われています。同様に、50kWにもしきい値があります。出力が50kW以上だと「高圧」の契約となって受変電設備(キュービクル)の設置が必要となるのに比べ、50kW以下だと「低圧」の契約となってキュービクルが不要となるだけでなく、電力会社との契約でも事前協議が不要となります。そこで、出力が50kW以下になるよう、小規模発電所に小分け(低圧分割)する方法も多く使われています。なおこれは、電力会社側に連系コストを不当にしわ寄せする方法とみなされており、2014年4月以降は固定価格買取制度の対象として認定されないことになりました。
一般にこうした低圧分割は、ミドルソーラーとも呼ばれる数百kW程度の中規模太陽光発電所に使われることが多い方法です。というのも、同一敷地内のメガソーラーを低圧敷地分割で作る場合、20個以上の発電所に分割しなければならないからです。しかし保留の背景に「低圧敷地分割」。「接続上限を超えても新条件で受け入れも」の記事によると、現実はそんな甘いものではないようで、以下のようなひどい事例があるようです。
個人的な意見をあえて言うならば、これは制度の悪用をたくらむ図々しい業者としか言いようがなく、こんな悪質な業者は公表した上で認定を取り消しても一向に構わないと思いますが、あくまでこの行為は合法であって、法律がそんな抜け道を許してしまっているのも事実です。このような状況を踏まえて、「一つの太陽光発電所」とは何かを改めて考えてみましょう。もし上記の60MWメガソーラーが稼働した場合、公式統計上メガソーラーは存在せず、その代わりに1200個の低圧太陽光発電所が存在することになります。果してこれは適切な数え方なのでしょうか。
要するに発電所数とは、客観的な基準で決まる数字ではなく、連系コスト次第で名目的に操作されうる数字なのです。そうした人為的な影響を排して発電所数を適切にカウントするには、「単一の発電所」を認定するための統一基準をデータベース側で決めておかねばなりません。ここで問題となるのが以下の2つのパターンです。まず、事業者側が一つの名前で命名している発電所が、実際には地理的に分散している場合です。この場合、基本的には事業者側の命名を尊重しますが、地理的に隣接していない場所の集合体である場合は、場所ごとに別々の発電所として登録する場合があります。次に、事業者側が別々の名前で命名している発電所が、実際には同じ場所にある場合です。特に、第一、第二などの名称をもつ発電所は一つの場所に立地していることがあるため、地理的な位置関係を確認する必要があります。そして、発電所が相互に近接している場合は、人為的な分割とみなして単一の発電所として登録しますが、相互に近接していない場合は、事業者側の命名を尊重して別々の発電所として登録することにします。
このように、本サイトでは実質的な発電所のまとまりを登録単位としましたが、この取り扱いが太陽光発電所の統計に差異を生じさせる可能性には注意して下さい。例えば、太陽光発電所の運転開始数として、メガソーラー級大規模太陽光発電所の推移 - 発電所データベース+再エネ設備認定状況では、本サイトの統計(独自集計)であるメガソーラー級大規模太陽光発電所の推移を、資源エネルギー庁の統計(公式集計)である再生可能エネルギー設備認定状況と比較しています。このグラフを見ると、2013年夏以降に独自集計と公式集計の乖離が拡大していますが、なぜ両者の統計が異なるのか、その原因を考えてみましょう。
まず全体的な問題として、空間的および時間的な分割の影響を考える必要があります。第一に空間的な分割の影響です。独自集計では実態としての発電所のまとまりを考慮していますが、公式集計では発電所の登録情報を形式的に集計しています。これにより、例えば2MW単位で分割された発電所の場合は、公式集計は独自集計に比べ、4MWだと2倍、6MWだと3倍多くの発電所が登録されることになります。大規模発電所が増えれば増えるほど、独自集計は過小評価となります。第二に時間的な分割の影響です。発電所の運転開始が段階的に進む場合でも、独自集計は最初期の運転開始時のみの登録となるため、各期ごとに登録する公式集計に比べて過小評価となります。
次に独自集計によるカバー率の低下があります。当初は珍しかった太陽光発電所は、メディアも大々的に取り上げました。しかし最近は、太陽光発電所の運転開始だけではニュースバリューが低下しており、その地方で初のメガソーラーだったり、、何かユニークな取組だったりしないと、メディアには取り上げられません。また、事業者側も最初は宣伝にも積極的でしたが、現在は情報提供も減少する傾向にあります。今でもきちんとプレスリリースを流してくれる事業者もありますが、情報更新が止まっている事業者も増えています。さらに事業者の多様化に伴って、情報公開に積極的ではない事業者や、むしろ情報公開をしない事業者も増えています。例えば、純粋に投資目的のメガソーラーの場合、社会貢献やCSR等の面から発電所をアピールする必要は全くありません。また転売目的や分譲目的の場合も、投資家だけに情報を公表すれば十分のため、積極的に詳細な情報を公表する動機がありません。このような変化によって、インターネットの公開情報だけでは捕捉できない太陽光発電所が増加しています。それに対し、公式集計はほぼすべての太陽光発電所を網羅的に登録することが可能です。したがって長期的なトレンドとしては、独自集計でカバーできる割合が低下することは避けられないでしょう。
ただし上記2点は、特定の時期を境に急激に変化する要因ではなく長期的に緩やかに変化する要因ですので、2013年夏という特定の時期を境に生じた大きな乖離を説明する要因としては不十分です。そこで着目するのが、人為的なしきい値の影響です。すでに述べたように、専任の電気主任技術者を置くことを避けるため意図的に1MW未満の出力を設定する太陽光発電所が、以前は少なからず存在しました。ところが2013年6月28日に規制が緩和され、2MW未満の出力であれば専任の電気主任技術者を置かなくてもよくなりました。この規制緩和により、以前なら意図的に1MW未満に抑えていたようなケースでも、素直に1MW以上で届出するようになって、2013年夏以降は統計から人為的な歪みが消えたことが考えられます。つまり、0.99MW等のメガソーラーが表に出てきたため、発電所件数として妥当な数字となった。逆に言えば、2013年夏以前の公式統計は過小評価である、という結論になります。
また運転開始出力については、以上の点に加えて、時間的な分割の影響に注意する必要があります。独自集計では、運転開始出力を発電所が最初に運転開始した時期に計上しています。そのため、第一期に小さな発電所を運転開始し、第二期にそれをスケールアップした場合でも、すべての出力が最初の時期に計上されることになります。これは時間的な分割の影響により、運転開始出力が実態よりも前倒しになるという誤差を生み出します。この点については日本の発電所の歴史についてでも注意を促しましたが、同様の問題はあらゆる種類の発電方式にも存在する問題で、より正確なデータがないと改善することは難しいと考えています。
太陽熱発電は太陽光をエネルギーとして利用するという点で太陽光発電と共通しますが、発電のメカニズムは両者で全く異なります。太陽熱発電は最終的に熱を電気に変えるという点では、むしろ火力発電や原子力発電と共通する点が大きいとも言えます。大規模な太陽熱発電所は、タワー式のものとトラフ式のものがあります。タワー式では、高い塔の周囲に同心円上に鏡を並べ、反射光をタワーという一点に集めることで高温を作り出します。一方トラフ式では、線状に延びる曲面鏡で局所的に反射光を集めることで、ある程度の高温を作り出すとともに、光を一点に集中させるという精密な制御を不要とします。
日本では太陽熱発電所は試験的な例があるだけで普及していませんが、世界では大規模な太陽熱発電所がいくつも存在します。List of solar thermal power stationsによると、米国やスペインでは100MW級の大規模発電所がいくつも存在し、最大は392MWのIvanpah Solar Power Facilityとなっています。Electrical USAの米国の太陽光発電所では、太陽光発電所と太陽熱発電所が混在してしまっていますが、メガソーラー作品集(Electrical USA版) - 空撮全景で見るメガソーラーのかたちによる空撮写真を使うと、両者の違いを視覚的に確認できます。すなわち、線状の構造物が東西に延びている場合は太陽光発電所、線状の構造物が南北に延びているか、円形の構造物が1点を取り巻いている場合は太陽熱発電所と区別できます。ただし、南北と東西の方角については例外もありますので、正確にはモジュールの形を見て区別する必要があります。
バイオマス発電所について注意すべき点は、発電所の出力に非バイオマス燃料による出力も含まれている点です。
バイオマス発電所の中には、木質バイオマスなど生物由来の燃料のみを燃やす(専焼)発電所と、それらを石炭などの化石燃料に混ぜて燃やす(混焼)発電所があり、後者の場合はバイオマスから発生する熱量はごく一部となります。太陽光発電所と同様にRPS法認定設備の状況(2011年8月31日現在)を参照すると、バイオマス発電の出力19713.699MWに対して、使用燃料のバイオマス熱量比率を乗じた出力は2246.402MWです。つまりバイオマス燃料由来の熱量は、平均して全体の11%程度です。
本データベースに登録されているバイオマス発電所の出力をすべてバイオマス由来と考えると、日本におけるバイオマス発電の実績を過大評価してしまうことにご注意下さい。
またバイオマス発電所に関する情報は、その多くがRPS法認定設備の状況を参考にしたものですが、一部の廃棄物処理発電(清掃工場におけるごみ発電など)に関する情報は、環境省の一般廃棄物処理実態調査結果[環境省廃棄物処理技術情報](平成24年版)を参考にしています。
以上のように、さまざまなデータを統合することで、発電所データベースを構築しました。現時点のインターネット上で閲覧できるものとしては、かなり大規模なものと言ってよいと思います。
ただし、今になって思うことですが、実は政府にはもっと完全なデータベースが存在するのではないでしょうか(特に経済産業省?)。もし政府がこうした公共的なデータをもっとオープンに公開してくれれば、個人がこんな苦労をしなくても済むことになります。東日本大震災後には、政府のデータをもっとオープンにすべきというオープンガバメントに向けての動きが見られましたが、そうした動きを一層推進してほしいと思います。東京電力のデータ隠しが厳しく問われているように、きちんとしたデータ公開のもとでより的確な政策決定をしていくことが、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるうえでのキーポイントだと考えています。
電力統計「見える化」で利用しているデータについては、電力統計「見える化」についてをご覧下さい。
電力使用状況については、初期にはYahoo! Japanデベロッパーネットワークが提供する電力使用状況APIを利用していましたが、現在はこのAPIを利用せず、各電力会社が提供するCSVファイルを解析して利用しています。CSVファイルは各社が微妙に異なるフォーマットを利用しており、データ提供方法も微妙に異なっています。それらの違いを吸収するプログラムを独自に制作して自動更新しています。
電力使用状況の可視化は様々な機関が試みています。電力会社自身が提供するいわゆる「でんき予報」については、電力使用状況から各会社のページにリンクしています。また電気事業連合会が提供するでんき予報や、内閣官房と経済産業省が提供する政府の節電ポータルサイト節電.go.jpには、各社の情報がビジュアルな形でまとまっています。さらにヤフー・ジャパンが提供する節電・停電は、よりコンパクトな形で各社の情報を一覧できます。
これらのサイトと本サイトとの違いは、本サイトは当日の状況だけではなく過去の状況も可視化することで、当日の状況を把握するための背景情報を提供している点にあります。例えば電力使用状況グラフでは、過去30日間の電力使用量を描きこむことで、最近のデータと比較して当日の電力使用量がどのくらい多いのかを直観的に把握できます。こうした可視化を提供するサイトは他にありません。他のサイトによく見られる電力使用率のグラフは、確かに逼迫状況だけを知りたいならよいかもしれませんが、分母となるピーク時供給力が刻々と変動するため、当日の電力使用量が多いか少ないかを把握するには役立ちません。また予測値と実績との比較は、電力網を管理する電力会社にとっては重要な情報でしょうが、一般の人々にとって重要な情報なのかはやや疑問です。データそのものの意味を解釈するための背景情報として、他のデータと比較しやすい可視化を実現するというのが、本サイトの基本的なポリシーです。
なお、ピーク時供給力の定義には、いくつかの曖昧さがありますので注意が必要です。まず、情報の発表時刻が明記されているのに対し、情報の有効期間が明記されていないという問題があります。これにより、例えば前日の夕方に発表された供給力は、いつからいつまで有効なのかが曖昧です。これは特に電力需要のピークが夕方に来る冬場に問題となります。例えば翌日のピーク時供給力として発表される情報は、普通に考えれば翌朝から有効な情報として解釈するべきでしょうが、情報にはその点が明記されていないため、発表時刻=有効開始時刻と解釈するしかないというのが実情です。ところがこのように解釈すると、特に休前日のように翌日のピーク時供給力が低い場合には、現実とは異なる値が適用されてしまうという問題が生じます。そこでこの問題への対策として、ある時刻以降に発表された供給力の変更は、翌日に対する情報であると解釈する方法を用います。
ピーク時供給力に関するもう一つの曖昧さは、ピーク時供給力の定義、特にどの電源がピーク時供給力に含まれるのかという点にあります。中でも影響が大きいのは試運転中の大型火力発電所です。試運転というのは営業運転前に設備をチェックするために行うもので、当然ながら初期不良による頻繁な停止を想定する必要があるため、安定した供給力にカウントすることはできません。とはいえ、問題なく試運転している間は電力を供給できますし、電力会社側も短期の運用においてはこれを当てにすることができるわけです。もし、こうした試運転発電所の供給力が発表に含まれていないのだとしたら、ピーク時供給力に出てこない予備力が外側から見えない「余裕」につながっている可能性もあります。そこで、電力会社の需給状況の本当の危機度を知るために参考になるのが、電力会社が他社に「応援融通」を依頼しているかどうかを確認する方法です。もし応援融通を依頼していたら、(卸業者からの買電を含め)自社内での電力確保はほぼ万策つきたことを意味するため、電力会社の需給はかなり危ない状況にあると考えてください。
ちなみに誤解を避けるため付け加えますが、上で述べたように試運転中の発電所からの供給力は、1時間のような短期の運用においては当てにできる場合もあると思いますが、夏冬の需給計画のような長期の運用においては当てにすべきではありません。たとえ数字に出てこない予備力があったとしても、それは電力会社が「情報を意図的に隠している」わけではなく、むしろそれらが動いてくれたら余裕が増えてラッキー!というのが実情ではないでしょうか。
全国の発電所は約5000箇所あると言われていますが、その中で本サイトで重要な存在となるのが、一般電気事業者および卸電気事業者が運営する発電所です。それら事業者の発電所数については、上記の資源エネルギー庁 インフォメーション 統計情報_電力調査統計_調査の結果の「発電所認可出力表」にデータがあります。そこで電力調査統計と本サイトの発電書数を、以下の表で比較してみました(電力調査統計は2012年1月現在、本サイトは2012年4月現在)。
事業者 | 全体 | 水力 | 火力 | 原子力 | 風力 | 太陽光 | 地熱 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道電力株式会社 | 69/67 | 53/53 | 11/11 | 1/1 | 2/0 | 1/1 | 1/1 |
東北電力株式会社 | 231/230 | 211/210 | 13/13 | 2/2 | 0/0 | 1/1 | 4/4 |
東京電力株式会社 | 196/196 | 163/163 | 25/25 | 3/3 | 1/1 | 3/3 | 1/1 |
中部電力株式会社 | 201/198 | 185/183 | 11/11 | 1/1 | 1/1 | 2/2 | 0/0 |
北陸電力株式会社 | 139/140 | 127/128 | 6/6 | 1/1 | 3/3 | 2/2 | 0/0 |
関西電力株式会社 | 166/166 | 150/150 | 12/12 | 3/3 | 0/0 | 1/1 | 0/0 |
中国電力株式会社 | 112/111 | 97/97 | 12/12 | 1/1 | 0/0 | 2/1 | 0/0 |
四国電力株式会社 | 65/65 | 58/58 | 4/4 | 1/1 | 1/1 | 1/1 | 0/0 |
九州電力株式会社 | 197/195 | 141/140 | 44/45 | 2/2 | 2/2 | 3/1 | 5/5 |
沖縄電力株式会社 | 38/22 | 1/0 | 21/21 | 0/0 | 7/1 | 9/0 | 0/0 |
電源開発株式会社 | 68/67 | 59/59 | 7/7 | 0/0 | 0/0 | 1/0 | 1/1 |
日本原子力発電株式会社 | 2/2 | 0/0 | 0/0 | 2/2 | 0/0 | 0/0 | 0/0 |
上記は「本サイトの登録数/電力調査統計の発電所数」という形式でまとめたものです。大まかに見れば本サイトは一般電気事業者(全国10電力会社)の発電所をほぼ網羅していると言えます。ただし細かく見ればいくつかの問題点があります。例えば、本来であれば登録数≦発電所数となるはずですが、そうはなっていない箇所もあり、その原因として以下のような理由が考えられます。
次に、一般電気事業者等に限らず全国に存在する発電所の内訳を、資源エネルギー庁 インフォメーション 統計情報_電力調査統計_調査の結果の「発電所認可出力表」と「自家用発電所認可出力表」を参考に整理したのが以下の表です(2012年3月末現在)。なお自家用発電所の統計は、一発電所の最大出力が1000kW以上を対象としています。
事業者分類 | 発電所数 | 認可最大出力 (MW) |
---|---|---|
一般電気事業者 | 1,377 | 206,575 |
卸電気事業者 | 69 | 19,610 |
特定電気事業者 | 7 | 283 |
特定規模電気事業者 (PPS) | 11 | 2,011 |
自家用発電 | 3,199 | 55,820 |
なお、電力需給検証委員会による需給検証委員会報告書(2012年5月14日)によると、自家発電には、電気事業法に基づく届け出がなされている常用の自家発電設備と、消防法・建築基準法上設置が義務づけられている非常用の自家発電設備があり、常用自家発電の容量53,730MW(3141箇所)に対して、非常用自家発電の容量は23,000MWとなっています。後者は売電ができない発電設備です。また前者の常用設備の容量については、経済産業省によるアンケート調査の結果、以下のような分析が得られています。
電力消費 | 容量 (MW) | パーセント |
---|---|---|
卸供給 | 12,030 | 22.4% |
一般電気事業者へ売電 | 3,240 | 6.0% |
新電力(PPS)へ売電 | 4,870 | 9.1% |
余剰 | 2,880 | 5.4% |
自家消費 | 20,010 | 37.2% |
設備容量と実質出力との差 | 4,570 | 8.5% |
未回答 | 6,130 | 11.4% |
発電所の位置は、詳細な住所や地図上の位置が公表されているものも一部ありますが、地方自治体レベルでしか位置が公表されていないものも数多くあります。このように曖昧な位置情報しか得られない場合でも、写真やその他の情報を組み合わせてピンポイントで位置を特定する作業を進めてきました。しかし過去には以下の理由で、発電所の位置を不正確に入力してしまった場合がありました。
しかしその後の数回にわたる修正作業を経て、現在はこれらの問題はほぼ解消しています(参考:更新情報)。
例えばメガソーラー作品集 - 空撮全景で見るメガソーラーのかたちでは、位置を修正ずみのメガソーラーの空撮全景をGoogle Mapsの衛星画像を使って表示しています。これを使えば、一部の発電所については位置情報の精度を確かめることができます。
発電所の出力の単位はメガワット(MW)で統一しています。他の資料では「万kW」という単位もよく使われていますが、より表記しやすく、国際的にも使われている「メガワット」を使うことにしました(参考:太陽光発電の単位に「デノミ」を - 日経エレクトロニクス - Tech-On!)。
発電所の出力としては、「定格出力」「最大出力」「認可出力」等の値を登録しています。これは「最大でこのくらいなら発電できる」という値であって、「いつでもこの出力で発電できる」という値ではありません。例えば各発電所の出力を単純に合計して「頑張ればこれだけ発電可能だ」とする議論がありますが、それは再生可能エネルギー系の場合には特に非現実的な仮定です。年間を平均すると最大出力の何パーセントで発電できるのかという利用率を加味しないと、本当の発電能力(真の実力)を割り出すことはできないことに注意してください。
また卸供給事業者(IPP)の発電所に関しては、発電所そのものの出力を記載している場合と、自家発電を除く卸供給部分の出力のみを記載している場合とがあり、両者の統一は取れていません。
発電所の出力は資料によって異なることも多いですが、その原因の一つに「どこで出力を測るか」という問題があります。大別すると、発電機の出力そのもの(発電端)を測る場合と、発電所内で消費する(損失する)分を差し引いて実際に電力系統に送り出す出力(送電端)を測る場合とがあり、後者の方が出力としては小さくなります。この点についても統一は取れていませんが、原則として事業者自身が公表する数字を優先して記載しています。
なお、発電所の廃止や設備更新などによって発電所の出力がゼロとなった場合、原則として発電所データベースからは情報を消します。そして設備更新の場合、新たな設備が運転を開始した時点で復活させます。ただし福島第一原子力発電所に関しては、その歴史的な重要性は明らかですし、そもそも本サイトが誕生した原点でもありますので、発電所廃止後も例外として福島第一原発事故前の情報を残し、廃止を意味するバツのマークをアイコンに重ねて現況を象徴することとします。
ほとんどの場合は上記の資料のいずれかに記載のある運転開始日を登録していますが、一部については「電力発電所設備総覧 平成17年新版」(日刊電気通信社)や発電所事業者のウェブサイト等を参考にしています。電力発電所設備総覧には、一般電気事業者と卸供給事業者(当時は公営電気事業者やその他電気事業者)の一部に関する詳細な発電所情報がまとめられています。また運転開始日に関するその他の問題点については日本の発電所の歴史についてをご覧下さい。
水力発電所については上述のようにひとまず典拠として使える情報源がありますが、その他については正確な名称を確認できない場合があります。例えば火力発電所や原子力発電所では、「火力」や「内燃力」、「原子力」という発電方式が発電所名に入る事業者と入らない事業者があり、その区別についてはすべてを確認できたわけではありません(一部はWikipediaを典拠としています)。またRPS法認定設備の発電所名については、発電所名に事業者名が重複して含まれて冗長な一部の発電所では事業者名を削除しています。さらにウェブサイト上に発電所のわかりやすい名前(通称等)が明示されている場合には、そちらに置き換えています。IPP等については、そもそも発電所の正式名称が明確ではないため、工場名+「発電所」といった形で発電所名を設定している場合もあります。本データベースの発電所名は、あくまで目安としてご利用下さい。
本サイトは複数のデータを統合しているため、統一した基準のもとで発電所を取捨選択しているわけではありません。基本的には「一般電気事業者」および「卸電気事業者」を中心とし、それ以外の事業者については「たまたまデータが見つかった」場合に登録している、というのが実情です。また再生可能エネルギー発電所についてはRPS法認定設備を網羅しており、その意味で基準は明確ですが、全体としては複数の基準が混在してしまっているという面もあります。本サイトの目的は日本全国の発電所の分布から電力問題を考えることにありますので、できれば売電を目的としない自家発電所は除いて、系統に接続している発電所を中心にする予定ですが、あまり厳密な定義や基準を設けることは考えていません。
また事業者名については、基本的に各種資料にある名称を用いていますが、複数の事業者が関係する発電所の場合に混乱が生じることがあります。発電所のような巨額の投資を必要とする事業の場合、複数の事業者が出資して特別目的会社(SPC)を設立することがあります。また太陽光発電所では、土地の所有者と事業者が異なる場合も増えています。このような場合、事業者名が資料によって異なったり曖昧だったりすることがあり、そのどれを選ぶかについては全体として統一が取れていない面もあります。また事業の譲渡なども不定期に発生するため、そうした情報の反映がきちんとできていない場合もありますので、ご注意下さい。
以上にまとめてきたように、本データベースはまだ完全なものとは言えず、種々の問題が残っています。もしデータベースの改善に協力したいという方がいらっしゃればフィードバックまでお知らせ下さい。
複数の情報源から得られた情報が一致しない場合、原則として以下の順番で優先する情報を定めます。
日付が明確な情報を第一に優先するのは、最も新しい情報を優先するためです。ある時点では正確な情報も、時が経つにつれて不正確な情報となることがあります。次に事業者や関係者が発信する情報を優先するのは、これらがより詳細な情報を含むためです。例えばマスメディア等は、一般向けには詳細過ぎると思われる情報を省略することがあります(例えば太陽光発電所の直流/交流出力の区別や正確な発電所の名称)が、そうした情報は事業者が提供する情報から得られるかもしれません。次に、公的機関や各種団体等がまとめるデータベースを参照するのは、データベース化する際の基準が見えやすく、品質が評価しやすいためです。また、公的機関は情報を収集する権限または権威があるため、情報をより信頼しやすいという点もあります。その次にマスメディア(ネットメディア)の記事は取材に基づくものである場合が多いため、情報を探索する出発点としては確実に有用です。
それ以下は補足的な情報であり、これら単体では登録しないという情報源です。まずネット上に掲載された写真です。写真はより確実に現場の状況を伝えることができ、テキストにはない情報を読み取ることができる場合があります。衛星画像はそこに発電所が存在する有力な証拠ですし、Googleストリートビューからはさらに詳細な情報を読み取れる場合があります。ブログやソーシャルメディア等でも、まず注目するのは画像/写真です。それがなければ、最後にブログやソーシャルメディアのテキストを参考にします。ただし、一般の人々が記述する発電所情報は伝聞に基づくものや古い情報などがあるため、これら以外の情報源が示す証拠と必ず組合せた上で、どうしても他の情報源では補えない情報のみを、こうした情報源から得ることにしています。
事業者分類 | 英語名 | 例 |
---|---|---|
一般電気事業者 | General Electricity Utility | 東京電力等の十大電力会社 |
卸電気事業者 | Wholesale Electricity Utility | 電源開発、日本原子力発電 |
特定電気事業者 | Specified Electricity Utility | 東日本旅客鉄道、六本木エネルギーサービス等 |
特定規模電気事業者 | Specified-Scale Electricity Utility | エネット、丸紅、エフパワー等 |
卸供給事業者 | Wholesale Supplier | 公営発電所、共同発電所、大規模工場等 |
なお特定規模電気事業者(PPS)については、2012年3月9日以来、経済産業省は「新電力」という名称を使うようになっています。そのリストは特定規模電気事業者連絡先一覧にあります。
電力供給(発電所マップ):日本全国の発電所データベースを独自に構築しました。登録した発電所数は1万件以上、インターネット上では日本最大規模のデータベースです。
電力消費(夜景マップ):DMSP衛星による地球の夜景データを用いて、宇宙から見た地球の夜景(夜間光)を可視化しました。2010年のデータ(F182010)を表示しています。Dark Zoneもご覧下さい。
電力供給・需要に関する最新のデータおよび過去のアーカイブは電力使用状況や太陽光発電実績、風力発電実績、電力需給実績、日本全国の再生可能エネルギー電力供給/割合実績(毎年の最大記録・比率一覧)、季節ごとの最大電力一覧などをご覧下さい(注意点)。
電力需要に影響を与える最新の気象状況は電力関連気象情報をご覧下さい(例えば気温前日比マップ)。
電力供給・需要に関する過去の統計データは電力統計「見える化」をご覧下さい(注意点)。
空撮で見たメガソーラーのかたちについてはメガソーラーギャラリー(作品集)日本版をご覧下さい。
世界の電力マップはElectrical Planetをご覧下さい(注意点)。
更新情報(発電所数19331件 /最終更新2024年12月14日)
地球の夜のあかりと電気エネルギー問題- Researchmap (2011-07-09)
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