エレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)は、電力供給(発電所マップ)と電力消費(夜景マップ)の「見える化」とシミュレーションを通して、東日本大震災後の日本の電力問題を考えるためのサイトです。
いったい日本にはどんな発電所がいくつあるんだろう?2011年3月の福島第一原発事故の直後、そんな疑問を持ちました。しかしネットで検索してみても、そんな基礎的な情報がなぜか見つかりません。それなら自分で調べよう、と思って作り始めたのが、このエレクトリカル・ジャパン(Electrical Japan)です。2011年7月の公開後も継続的にデータの収集と機能の強化を続けており、現在のところ以下のようなページを見ることができます。
まず、電力供給を表すデータとして日本全国3200か所以上の(再生可能エネルギーを含む)発電所データを整理した「発電所マップ」(説明)、電力消費を表すデータとして衛星画像による「地球の夜景」を作成し(説明)、両者を同一の地図に重ねて電力の供給地と消費地の関係を読み取れるようにしました。また「発電所の歴史」では、日本の電力事業の黎明期である1893年以降の発電所分布をアニメーションで表示し、水力から火力、そして原子力を含む「ベストミックス」への変遷を明らかにしました(説明)。さらに「電力使用状況」のリアルタイム可視化を通して節電を呼びかけ、過去の「電力統計データ」の可視化を通して電力事業の構造を考えられるようにしました(説明)。このように、日本の電力事情を表す多種多様な数値データの「見える化」では、「データ自体に語らせる」表現を追求して余分な装飾はできるだけ省くようにしました。また「発電所マップ」は「日本列島を電飾する」をコンセプトに、全国の発電所を可能な限り網羅した結果、ネット上では日本最大の発電所データベースに発展して多くの人に利用されるようになりました。
とかく難しい議論となりがちな電力問題を実感するにはデータを「見える化」することが重要な課題で、そのためにはデータに基づいて電力問題を議論する根拠(エビデンス)となるようなデータベースが不可欠です。特定の意見に都合のよいデータをまとめるのではなく、種々の意見を比較して自分で考えるための材料を提供することが、本サイトの主な目的です。
福島第一原子力発電所事故以来、原発推進派と原発反対派(脱原発派)の間では激しい議論が巻き起こっていますが、何らかの根拠(エビデンス)に基づかない議論は、結局は徒労に終わってしまうでしょう。過去何十年も続いてきた、不毛とも思える対立を再び繰り返すことになりかねません。また再生可能エネルギーに関しても、様々なデータや異なる立場からの意見があり、データを根拠としない議論は誤った結論に到達することにもなりかねません。今後をよりよい世界にしていくためには、心地よい言葉を散りばめたパフォーマンスではなく、データというエビデンスに基づく実質的な議論が必要であると考えます。
もちろんそのためには、根拠として使えるデータがより多く公表されることが重要です。この点については、政府を中心とする公的機関が、公共的なデータをどこまでオープンにするかが重要な問題となります。その最初の試みが、リアルタイムの電力使用状況データです。節電要請(電力使用制限令)の影響もあって、電力会社はインターネット上に従来は秘密だったデータを公開するようになりました。ただしそれはまだ小さなステップです。市民に開かれた政府(オープンガバメント)として、市民が参加しながら政策決定に関与していく基礎となる公共的なデータが、さらに幅広く提供されることを期待します。
最後に発電所データベースについてでも述べたように、たとえネット上に公開されているデータであっても、それを使いやすく整理して、わかりやすく「見える化」(情報可視化、インフォグラフィックス)することは、そう簡単なことではありません。本サイトとしては、この問題にあまりなじみのない方でも親しめるようにデータを加工することも重要な課題だと考えています。
本サイトの構想の出発点は、東日本大震災後の福島第一原発事故および計画停電です(参考:東日本大震災ニュース分析)。街が暗くなり、電車の本数が減り、そして電力問題が大きくクローズアップされる中で、私にも出せるデータが何かあるのではないかと考えていました。そこで思い付いたのが、以前から公開していた夜の地球:DMSP衛星によるNighttime Lights of the Worldデータでした。これは夜間の明かりの分布(夜景マップ)を示すもので、衛星データの明るさの時間的変化から災害の影響を推測するという目的にも使われています。この夜景マップが電力問題のシンボルに使えるのではないか、というのが最初の発想でした。もちろん、似たようなことは他の人も考えるもので、大震災後に発行された電力問題に関する複数の書籍の表紙デザインに同じデータが使われています。そこで、これを機会にデータを最新のものに更新して地図を作り直し、夜の地球:DMSP衛星によるNighttime Lights Time Seriesデータ(1992年〜2009年:Google Maps版)として公開しました。
これを見せるだけでも、「エネルギーを大切にしよう!」というメッセージは伝えられるかもしれません。しかしそれだけでは物足りないと感じました。大震災後の日本の電力問題は、単にみんなでエコな生活をしましょうという問題ではありません。産業をどうするのか、生活を支えるインフラをどうするのかなど、将来に向けて電力を安定的に供給するための方向性を議論するという、技術から政治までを巻き込む文明的な問題です。電力の消費に着目するだけでは不十分で、電力の供給も一体化した問題として見ていかねばならないのです。そのとき、電力の供給を担う発電所の分布を、電力の消費を表す夜景マップに重ねる、というアイデアを思い付きました。これならば、電力の供給と消費を同時に見ることができるだけでなく、発電所と地形の関係や、供給地と消費地との位置関係なども明らかにすることができます。これでサイトのコンセプトは固まりました。
次にデザインです。上記の衛星画像は暗闇にともる明かりを示すものですので、必然的に「暗闇に浮かぶ明かり」というのがデザインの基本方針となります。そうすると発電所は、暗闇を彩る色々な大きさのカラフルな電球に見立てることができそうです。そして、できるだけたくさんの発電所をデータベース化することで、多数の発電所に彩られたカラフルな日本列島が暗闇に浮かびあがってくるのではないか。これが「エレクトリカル・パレード」ならぬ「エレクトリカル・ジャパン」の発想の原点となりました。
この方針は同時に、日本列島を美しく飾るためには、より多くの発電所を登録する必要が生じることも意味します。本データベースでなぜこれだけ徹底的にたくさんの発電所を登録できたかといえば、まさにこのコンセプトの力が働いたというのが正直な実感です。データベースを構築する過程では多くの困難がありましたが、それにもかかわらずネット上で最大規模の網羅的な発電所データベースにまで到達できたのは、「日本列島を美しく電飾する」作品を作ろうという、メディアアート的な発想が根本にあったからです。もしそれがなければ、ゴールに向けたモチベーションを維持することはできず、類似サイト(例えばGo 節電 プロジェクト - powered by Google)のように「主要な発電所のみ」で打ち切っていたことでしょう。
電力供給(発電所マップ):日本全国の発電所データベースを独自に構築しました。登録した発電所数は1万件以上、インターネット上では日本最大規模のデータベースです。
電力消費(夜景マップ):DMSP衛星による地球の夜景データを用いて、宇宙から見た地球の夜景(夜間光)を可視化しました。2010年のデータ(F182010)を表示しています。Dark Zoneもご覧下さい。
電力供給・需要に関する最新のデータおよび過去のアーカイブは電力使用状況や太陽光発電実績、風力発電実績、電力需給実績、日本全国の再生可能エネルギー電力供給/割合実績(毎年の最大記録・比率一覧)、季節ごとの最大電力一覧などをご覧下さい(注意点)。
電力需要に影響を与える最新の気象状況は電力関連気象情報をご覧下さい(例えば気温前日比マップ)。
電力供給・需要に関する過去の統計データは電力統計「見える化」をご覧下さい(注意点)。
空撮で見たメガソーラーのかたちについてはメガソーラーギャラリー(作品集)日本版をご覧下さい。
世界の電力マップはElectrical Planetをご覧下さい(注意点)。
更新情報(発電所数19331件 /最終更新2024年12月18日)
地球の夜のあかりと電気エネルギー問題- Researchmap (2011-07-09)
エレクトリカル・ジャパン(発電所マップ+夜景マップ)を公開中です- Researchmap (2011-08-17)
データジャーナリズムで日本の電力問題を可視化する- Researchmap (2013-01-28)