1. はじめに
デジタル台風:プロジェクト10年のあゆみでも紹介したように、デジタル台風プロジェクトは1999年4月22日に生まれ、2019年4月22日に20歳の誕生日を迎えました。この誕生日に合わせて20年を振り返るつもりでしたが、多忙のため遅れてしまい、2019年の終わり(2010年代の終わり)に振り返ることにしました。
2. 10年から20年にかけて
10年から20年にかけての重要なテーマは以下のようなものでした。
- 災害対象の拡大
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2011年3月の東日本大震災の影響を受け、デジタル台風と同様の考え方を他の災害にも広げたいという考え方が生まれました。その結果として地震や火山などへと対象が広がりました。
- サービスの拡大と縮小
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長年にわたってシステムを運用していると、新しいデータが使えるようになるだけでなく、これまでのデータが使えなくなる事態も生じます。例えば、この10年で新たに拡大したものとして、ひまわり8号や気象庁防災情報XMLなどがあります。一方リアルタイムアメダスやふってきったーなどは、サービス運用環境の変化により運用休止が続いています。さらに伊勢湾台風メモリーズ2009は、外部サービスの廃止により運用継続が不可能になりました。そして今後は、Flashの相次ぐサポート切れにより、デジタル台風きっず、台風前線、台風空想の維持が困難となる見通しです。現在のウェブサービスは様々な外部サービスに依存しているため、システムの長期的な持続可能性を自身の努力だけでコントロールすることは困難です。そうした環境でのサービス継続をどうすればよいか、まことに悩ましい問題です。
- モバイルへの展開
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ウェブサイトへのアクセス手段にも大きな変化がありました。PCからスマホへの移行です。デジタル台風サイトはもともとリキッドデザインを用いており画面解像度の変化には対応できていますが、スマホファーストとしてのレスポンシブデザインには対応できていません。とはいえ、サイトをスマホ対応させる、あるいは別にスマホアプリを作るのは、手間がかかり過ぎて現実的とは思えません。そもそもデジタル台風の役割は、膨大なデータの提供とその活用インフラの提供にあるため、スマホの狭い画面に収めるには限界があります。そこでTwitterやFacebookなどのSNSに情報をプッシュし、そこからユーザの訪問を促すことで、スマホが引き起す人々の情報探索行動の変化に対応しました。
- 機械学習の適用
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デジタル台風は本来、機械学習用のデータセット構築から始まりました(参考:プロジェクト10年のあゆみ)。しかしデータセットで実験を行っていた2000年から2002年頃は、まだディープラーニング(深層学習)の技術も登場しておらず、機械学習で精度よく結果を出すことは困難でした。そこでこの目標をひとまず脇において、災害情報システムに向けたデータ統合へと進んできたのがこれまでの流れです。そこに2012年ごろからディープラーニングが登場し、実用的な技術となるにつれて、本来の目標へと戻ることも可能な状況となりました。しかし外部環境が整ってきたのと逆に、自分自身が多忙となって時間が十分に取れなくなったため、本来やりたかったはずの機械学習については十分に進展していません。いつかこのテーマに時間をかけて新しい成果を出したいと思っています。
3. 今後に向けて
プロジェクトを20年続けてきましたが、このプロジェクトが社会にどんなインパクトを与えたのかという点は、残念ながらきちんと整理できていません。2010年代後半から注目を浴びたオープンサイエンスの考え方を参照すると、デジタル台風はこれまでアクセスしづらかったデータを多くの人々に届けたという点で、研究のオープン化に大きく貢献したと考えています(参考:「デジタル台風」におけるキュレーションとオープンサイエンス:持続可能なデータプラットフォームに向けた課題)。ただ、デジタル台風は多面的なプロジェクトであるため、その学術的価値や社会的価値の全体像を一言で表現することは今後の課題です。
そして次の10年の最大の問題は、上の論文でも言及した「持続可能性(サステナビリティ)」の問題だと考えています。現在、デジタル台風は、「個人プロジェクト」の状態にあります。ここから組織に基づく「集団プロジェクト」に移行しないと、このプロジェクトは私の引退とともに消滅します。このプロジェクトをどのように引き継げるのか、そして環境を整備し人を育成するにはどうすればいいか。そこで重要となるのが評価の問題です。このプロジェクトに関われば楽しくなれる、幸せになれる、という見通しがなければ、プロジェクトを持続させることは困難です。
デジタル台風がやっていることは、本来なら気象庁やその他のデータアーカイブ組織が、業務としてやるべきことかもしれません。業務の一環としてアーカイブを継続するなら、どこかの組織の業務計画に入れることが目標となります。しかし、デジタル台風の目的は単なるデータの長期保存にとどまらず、データの利活用を促進する情報技術の研究開発にも及んでいます。後者がなければ、本当に活用できる研究データにはなりません。そうした研究テーマをどのように位置づけ、どのように評価するかを考えることが次の大きな課題と言えます。プロジェクトの持続可能性は組織論として考えるべきことが多々あるというのがここ数年の問題意識です。
一方、組織ではなくやれるべきこともあります。例えば、オープンデータやオープンソースは、持続可能性を高める一つのソリューションです。デジタル台風をサービスとして動態保存することが難しくなっても、データやソースとして静態保存できれば、サービスを移転して誰かが復活させる可能性が生まれます。とはいえ、オープンデータやオープンソースは、それに向けた努力も必要になってきます。簡単なことではありませんが、学術サービスの永続性に向けた一つのモデルを提示することも自分の役割ではないかと考えています。
4. 主要年表
これより以前は、デジタル台風:プロジェクト10年のあゆみをご覧下さい。
- 2009年9月9日
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伊勢湾台風から50周年となるのを記念して伊勢湾台風高潮データベースなどをオープンした。また2009年9月26日の50周年の前後に台風メモリーズのイベントなどを開催した。
- 2009年10月7日
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2008年から開始していたTwitterの利用をさらに拡大するためにツイフーンを開始。ツイッターからの情報収集を試みた。さらにソーシャル台風でもツイッターを活用したサービスをリリースしたが、ツイッターを情報収集に活用するという方向での研究は結果的に成功しなかった。災害情報収集へのツイッター活用には大きな期待があるが、SNSにおける情報発信をこちら側からコントロールすることはできないため、デマへの対応も含めて自動的な仕組みだけでは活用しづらい面がある。今も研究が続いているテーマである。
- 2010年8月30日
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台風予想進路図をオープンした。それまでのデジタル台風は、他の気象情報サービスとの棲み分けを意識して過去データのみを扱い、予測データは意図的に除外していた。しかユーザのニーズは、予測データにあることも明らかであったため、気象庁の台風予報データの提供に踏み切った。これはデジタル台風としては大きな一歩であり、まもなく予想進路図はデジタル台風の中で最も人気のあるコンテンツの一つとなった。
- 2011年1月27日
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2011年霧島山(新燃岳)噴火と気象レーダー・気象衛星画像をオープンした。このころから、気象衛星で捉えることのできる他の災害情報を提供することを考えており、気象レーダーと気象衛星画像、そして気象庁の火山観測報などを組み合わせた災害情報ページを開設した。この動きは1ヶ月半後に発生した東日本大震災で、さらに大きく加速することになる。
- 2011年3月22日
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2011年3月 東北地方太平洋沖地震関連情報を公開した。この10年で最大の出来事と言っても過言ではないこの大震災の発生は、ある意味ではデジタル台風が停滞する遠因を作ったとも言える。当日から東日本大震災関連データに取り組みはじめたものの、台風で開発した基盤をそのまま地震に適用することは難しかった。また同じ気象データであっても、福島第一原発事故で高まった気象データへのニーズはこれまでと異なっていた。2010年10月に開始した「さきがけ」プロジェクトでは、当初は台風を中心とした災害情報を扱う計画であったが、この時点から地震や火山噴火へと対象を一般化するように方針を変更した。これは視野を広げる面では価値があったが、エフォートの分散を招いてデジタル台風としては進歩が停滞することにもなった。
- 2011年11月9日
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GeoNLPのページを公開し、さらに2012年1月20日にはGeoNLPを活用したふってきったーを公開した。これは、テキストから地名を抽出してマッピングするという、災害情報において必要不可欠の機能を実現するソフトウェアである。これは自然言語処理では、固有表現認識あるいはエンティティリンキングと呼ばれる処理であり、地名の場合は技術的に困難な問題がいくつかある。大量の文書を自動的に処理するというAI時代の目標に向けて、今も研究を続けている。
- 2012年6月19日
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Facebook版を開設。Twitterは主に自動投稿のボットとして活用、Facebookは1日に1回ニュース・ウェブログの記事を簡略化して掲載、という使い分けが徐々に確立し、Facebook版も多くの人に使われるようになった。現在はFacebook経由でウェブサイトにアクセスする人もかなり多くなっており、「プッシュ型SNSからプル型ウェブへ」というスマホ時代のアクセス経路の確保に貢献している。
- 2014年1月10日
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100年天気図データベースを公開した。これによりデジタル台風が扱うデータの範囲は、1951年以降から1883年以降へと、過去に大きく延長されることになった。本来、このようなデータは気象庁が公開すべきものであるが、デジタル台風がいわば勝手に代理公開(?)することで、過去の天気図データへのアクセス性を大幅に高めることができた。こうした歴史的なデータを必要とするユーザ層は、リアルタイムデータを必要とするユーザ層とは大きく異なり、気象が仕事と直接関係ない人もいる。そうした人に向けて社会貢献としても価値のあるサービスであると考えている。
- 2014年4月21日
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CPS-IIPリスクウォッチャーを公開。この中でも特に気象庁防災情報XMLを活用した各種のデータベースは、その後多くの人々に活用される人気データベースとなった。リアルタイムで頻繁に更新されるデータは、そのままだとフロー情報として消えていってしまうことが多い。リアルタイム情報をストックに接続し、リアルタイムで検索可能にする、というデジタル台風の方法論をそのまま当てはめることで、他にないユニークなサービスとなった。
- 2015年7月7日
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新しい気象衛星「ひまわり8号」の観測が始まるのを機に、次世代気象衛星「ひまわり8号・9号」画像/動画を公開した。この衛星はこれまでのひまわりに比べて大幅に機能が向上しているため、新しい種類のデータがいろいろ登場した。中でも台風高頻度観測は台風の雲の変化が克明に観察できる画期的なデータであり、特にFacebookでこの動画は100万回も閲覧されるような大人気コンテンツとなっている。この高頻度観測データはまだ十分に活用できておらず、その分析からは今後多くの研究成果が生まれてくることが期待できる。
- 2015年9月24日
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過去の著名な天気図を公開した。これは気象キャスターネットワークとのコラボレーションに基づくページであり、デジタル台風の中に初めて他者が執筆したコンテンツが入ることとなった。その後、協働型データベースには同様のコンテンツをいくつか追加した。現在のところこうしたコラボレーションはまだ限定的な試みにとどまっているが、こうした試みはデジタル台風のプラットフォーム化には不可欠だと考えている。
- 2015年10月27日
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メソ気象研究会でデジタル台風:熱帯低気圧の実感に向けたデータの文脈化と題する招待講演を行った。この時点まで気象系学会での講演を全く行っておらず、これが初めての講演となった。気象データを扱っていながらこれまでなぜか気象系学会と縁遠かったが、これを機に気象学会とも接近し、何回か講演を行うこととなった。
- 2016年4月1日
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科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究「台風等の顕著な気象現象を対象とした深層表現学習に基づくビッグデータ解析」が採択され、デジタル台風データセットに対して機械学習を適用する研究がスタートした。その後、このテーマでは数回の研究発表を行ったり、共同研究に協力したりはしているが、望ましい研究ペースからは大幅に遅れているのが現実である。先述したように、これが本来のデジタル台風プロジェクトの目的である。本来やりたかったことに対して、もう少し時間を確保できるようにしたい。
- 2016年4月1日
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しかし時間を確保できなくなる原因が、同じくこの日に生じることとなった。それが人文学オープンデータ共同利用センターの誕生である。この時期を境にして、より多くの時間を人文学データの研究に割り当てるようになり、自然科学分野と人文学分野の知見を相互に接続する研究としての歴史ビッグデータなどのテーマにも取り組むようになった。
- 2016年5月22日
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アクセス解析を公開した。現在はこのページとGoogle Analyticsを併用して利用状況をモニタリングしているが、年間のページビューはおおむね2000万から2500万の間を上下している。
- 2017年5月22日
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気象衛星「ひまわり」ビューアについて発表した。これは主に文化財の分野で発展してきたIIIF (International Image Interoperability Framework)という仕様を活用しており、IIIF Curation Viewerの気象衛星ひまわりへの適用は、IIIFを自然科学分野に適用する例となっている。
- 2019年12月31日
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2010年代の最終日に、本ページを公開。
その他の更新については、更新履歴やデジタル台風:お知らせも参照して下さい。またこれより以前は、デジタル台風:プロジェクト10年のあゆみをご覧ください。
5.
参考文献(全リスト)
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概要
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"「デジタル台風」気象衛星画像データセットと機械学習",
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