1. 前線と台風

前線とは、異なる性質の寒気団と暖気団の境界が地表面または特定の気圧面と交差するところ、つまり暖かい空気と冷たい空気が接するところが前線になります。またもう少し広い意味では、性質の異なる2つの空気の塊(例えば湿った空気と乾いた空気)が接するところも前線となります。

前線付近では温度差が大きいことから、暖かい空気が寒い空気の上に上昇しやすくなり、この上昇気流が雲を発生させることになります。したがって、前線付近では一般に天気が悪く、雲が発生しやすく雨が降りやすいことになります。また、こうした前線が停滞する場合(停滞前線)、例えば梅雨前線や秋雨前線などでは、同じ場所で長い時間にわたって雨が降りやすい状況が続くため、大雨による災害が起きやすい状況となります。

このように前線が停滞して大雨となっているところに、さらに台風が近付いてくるとどうなるでしょうか。台風が南の海上にある場合、台風の周囲を吹く強い風によって、暖かく湿った空気が北に運ばれてきます。いわば台風が南から北へ空気を送風しているような状態となります。すると、前線に到達してそこで上昇する空気も、より暖かく湿った空気となりますので、雲もより多くの水分を含み雨の量も増加することになります。これが「台風が前線を刺激して大雨になる」という状況を引き起こすことになります。

台風と前線の関係で注意しなければならないことは、台風から遠く離れていても大雨になる場合があるということです。これは、台風本体の雲が雨を降らせるのではなく、台風はむしろ遠くで送風機の役割を果しているだけで、そうして送り出された空気が前線に到達したところで大雨になっているためです。台風中心から1000km以上離れていても、台風の影響で大雨になることがあります。

前線に台風が影響を及ぼすケースは、大雨となる一つの典型的なパターンです。特に、前線が活発で既に大雨になっているところにさらに台風がゆっくりと近付いてくるというのは、最も警戒すべきケースと言えるでしょう。そのいくつかの例については、台風災害記録などで確かめてみて下さい。

なお、紛らわしいことですが、台風本体は一般的に前線を持ちません。台風は温帯低気圧に変わりましたで説明しているように、台風は熱帯低気圧の一種であって暖かい空気のみで成り立ち発達しますが、温帯低気圧は暖かい空気と冷たい空気が接するところに発生して発達します。ゆえに、熱帯低気圧は前線を持ちませんが、温帯低気圧は前線を持つということになります(*1)。

では、台風から温帯低気圧に変化する途中はどうなのかという疑問が湧いてきますが、この場合は台風の周囲にしだいに前線らしきものが形成されつつ、台風の周囲からどんどん冷たい空気が流れ込んできて、最終的に台風の中心にまで冷たい空気が入り込んできた時に、台風は温帯低気圧に変わるということになります。

(*1) したがって、当サイトの姉妹サイトである台風前線は、一見すると気象学用語のようですが,実際には気象学的に意味のない言葉です.