ご質問ありがとうございます。どの高さの雲から雨が降っているのか、大変難しい問題です。雲には雲頂(一番上)と雲底(一番下)という二つの高さがあり、その間のどこかで水蒸気が雨粒に成長しているわけですが、正確にどの高さで雨粒になっているかを特定するのはなかなか困難です(一つの雲の中でも気流の動きは大変複雑です)。そのため、降水予測のように雨量だけが重要な場合には、どの高さから降る雨かという点までは計算・シミュレーションしていないと思われます。したがって、降水ナウキャストや降水短時間予報の情報だけから雨雲の高さを知ることはできないでしょう。
ただし降水予報ではなく、降水の実測値であれば、雨雲の高さに対応するデータは存在します。それが気象レーダー画像(雨雲・雪雲)の「レーダーエコー頂高度」です。このページの凡例にしたがって、観測データを地図化したものが最新気象レーダー画像です。レーダーエコー頂高度は、雨粒によって反射してきた電磁波のうち、最も高い場所の雨粒から反射してきたものを示しています。これが便利なのは、雷雲(積乱雲)のようにモクモクと高いところまで上昇する雲と、乱層雲のように低い高度で広がる雲とを大まかに区別することができるという点にあります。ただし、富士山の山頂で雨が降っているかどうかについては、目安にはなるかもしれませんが、精度的には不十分ではないかと思います。また、雨を降らせない雲はレーダーでは検出できませんので、たとえレーダーで雨雲が見えなくても、山頂に雲がないことにはなりません。
さらに気象庁の数値予報GPVというデータには、降水量だけではなく雲量の予測をしたデータもあります。例えば降水量の予測の例は福島第一原発周辺の雨量マップに示しています。また雲量の予測については、全雲量、上層雲量、中層雲量、下層雲量を予測したデータがあり、これは地上と山頂での雲量の違いの目安として使えるかもしれません(本サイトでは雲量データは公開していませんが、別のサイトでは公開しているところもあります)。ただしこれも、例えば登山において山頂が晴れているかどうかを把握するのに十分かというと、かなり不確定要因が大きいように思います。
最後に「雨がどこから降っているのか、降水を3次元的に観測する」というテーマですが、これは気象予測では非常に重要な課題だと考えられており、これを衛星から観測して明らかにしようという試みが以前から続いています。例えば日本では、米国との共同プロジェクトとして、熱帯降雨観測衛星TRMM(トリム)という衛星を使い、主に熱帯地方の降雨の3次元構造を観測しています。またこれの後継プロジェクトである全球降水観測計画GPMでは、降雨の3次元構造の観測を地球全体に広げようとしています。この衛星さえあれば日本付近の雨の高さがいつでも精度よくわかる、というわけにはいかないのですが、「雨がどこから降っているのかを明らかにする」というテーマの重要性を示す例として紹介してみました。