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毎年台風が来るたんびに情報が、過敏になりすぎじゃないですか?
確かに、マスメディア、特にテレビが取り上げる台風情報は、年々充実してきているように思います。この「充実」を「過敏」と捉える人がいてもおかしくないとは私も思います。NHKなどは、最近は台風が接近してくるとすぐにL字画面で警報を出し、その後に特別番組編成に入ります。テレビをつけても一日中台風情報ばかり。。これに不満を覚える人もいるだろうなとは思います。
そうなった理由はいくつかあると思います。第一に、メディアを通して伝えられる情報が充実してきたという理由です。気象情報は年々種類が増えており、もはやテレビですべてを伝えられる状況ではありません。そして最近だと、伝統的な電話取材だけではなく、ソーシャルメディアなどを活用した情報収集も当たり前になってきました。これほど情報が多くなると、全部伝えるためにはL字だけでなく特番も必要になってきます。
第二に、東日本大震災をもっとも顕著な例とする、過去の災害報道への反省という理由です。メディアによる報道や警告は、災害による被害、例えば死者を軽減するための大きな力となりうるのに、その力を十分に活かせなかったのではないか。そのようにいくら災害の後に悔やんだとしても、すでに起こった損失は取り戻せません。事前の報道にもっと力を入れれば、過去の悔しい思いを繰り返さなくてすむのではないか。東日本大震災を境として、災害報道の充実ぶりは別次元に入ったような印象がありますが、それはまさに東日本大震災の記憶が痛みとして残っているからではないでしょうか。
第三に、メディアの存在意義としての公共性をより強くアピールするという理由です。NHKはまさに公共放送事業体ですが、そうした公共放送としての存在意義を最も端的に示すのが災害報道であると私は思います。ということは逆に言えば、NHKは公共放送として充実した災害報道をすることで自らの存在意義をアピールする必要がありますので、それが行き過ぎると充実しすぎ(?)の方向に進んでしまう傾向も否定できません。しかし一方で、災害報道を減らしてしまうと、公共放送なのになぜ災害を報道しないのかというクレームが増えることも容易に想像できます。そのようなクレームも踏まえ、現在のようなバランスになっているのではないかと考えられます。
同様に気象庁も情報を積極的に出すように変わってきました。プレスリリースや記者会見も、以前に比べると回数が多くなっているという印象がありますが、こちらにもマスメディアと同様の3つの力が働いていると思います。ただ、災害情報は可能性に関する情報を含んでいるため、これ以上は過敏すぎると事前に判断することは原理的に難しいです。今後も情報が増えこそすれ減ることはないわけですから、同じ傾向が今後も進んでいくと考えられます。
ただし、過敏すぎると感じさせないための工夫は、していくべきだと思います。第一に、地方の問題があります。特に、東京に台風が接近すると、東京ローカルニュースが全国ニュースになって関係のないニュースを見させられるという不満は、特に東京以外の地域からよく聞かれます。東京だから大げさに取り上げるという傾向は是正していくべきでしょう。同時に、地方ごとの状況に合わせて番組を切り換えたり自動的に生成したりするなど、より細かい単位で情報を伝えていくための新しい技術を研究開発していくことも、今後は重要な課題になると考えられます。
第二に心理学的な問題があります。気象庁台風情報(実況)とアメダス観測データとの食い違いでも議論した「認知的不協和」のように、予報と実況とのずれが不快な感情を生み出し、それが報道への批判に転化するメカニズムがあるでしょう。これは予報の精度だけではなく、情報の出し方にも関わる問題です。こうした心理学的な面にも配慮した災害報道とはどんなものか、難しい課題ですが取り組んでいくべきことの一つでしょう。
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