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2016年は台風1号の発生が7月3日に遅れたため、メディアでは「7~9月に集中的に発生するかもしれない」という指摘がありました。結果的に8月に7個、9月も現時点で5個発生したので、年間の発生数は平年並みになってきていますが、1998年や2010年など、7月までの発生ペースが遅く、その後もそれほど発生しなかった年もありました。
そこで質問なのですが、「7月までにあまり台風が発生しなかった年は、8月以降に集中的に発生し、年間の発生数は平年並み以上になる」という論理は正しいのでしょうか?8月以降の大量発生は、7月以前の少ない発生数とは関係ないと思われますが…。
また、これまでの台風が少なかった年の特徴として、エルニーニョ現象からラニーニャ現象に転換した年であったということが挙げられていたかと思います。今年もエルニーニョ現象が終わり、秋ごろからラニーニャ現象が発生すると見込まれていますが、今年はこの傾向にあてはまったとは言えない気がします。今年は過去の同じような年とどのような点で違っていたのでしょうか?
そして、「海水温が高いと台風がよく発生する」という話もよく聞きますが、海水温が高くても、発生しやすい地域が高気圧に覆われ続けるなど、気圧配置の関係で必ずしもそうならない場合もあるのではないでしょうか?
おっしゃるように、前半に少なかったら、後半に増えるという言い方は、それだけ聞くと変な感じがします。前半に少なかったことを「地球が」記憶しており、その記憶に基づいて後半に増やす操作を行っているように聞こえるからです。そうしたメカニズムがあるわけではありませんが、前半と後半が全く無関係というわけではありません。それが統計学的に平均への回帰と呼ばれる現象です。前半に少ないと後半に多くなるというのは、この現象に対応するとも言えるのです。
台風の発生は、毎日平均的に起こるというよりは、ある時期に集中的に発生し、その他の時期はあまり発生しない平穏な時期が続くというパターンとなる場合が多いです。そのため、たとえ一時的に発生が増えたとしても、その後に発生しない時期が確実にやってくるため、平均としては毎年同じぐらいになるわけです。逆に、一時的に発生が少なかったとしても、その後に多発する時期が確実にやってきますので、いずれペースが上がると予想できることにもなります。このような意味で、前半にたとえ少なくても後半は増えるでしょうというのは、それなりに根拠のある言い方でもあるのです。
ただしこれはあくまで統計学的な現象であり、これだけでは特定の年のパターンを説明することはできません。では2016年の特徴的な現象は何かといえば、何といっても台風201610号でも言及した「モンスーン渦」でしょう。この周囲で量産された台風が、シーズンの台風発生数を一気に押し上げることになりました。この特殊要因がなければ、今シーズンはまだ台風発生数が少ないままだったかもしれません。また、海水温は確かに台風発生の要因ですが、シーズンごとの差は小さいため、毎年の台風発生数というよりはもっと長期的な変動に効いてくる要因です。ゆえに、より大きな影響を与えるのは毎年の気圧配置であり、中でも2016年の台風シーズンに大きな影響を与えたのが強力なモンスーン渦の発生だったと言えるでしょう。
モンスーン渦の発生要因はまだよくわかっていませんが、この発生自体がエルニーニョ/ラニーニャに影響を受けているとの説もありますので、間接的にはエルニーニョ/ラニーニャの影響もあるように思います。ただし通常のシーズンと異なるのは何かといえば、平均への回帰にモンスーン渦による量産が重なったという点で、この両方の要因によって台風発生数が一気に平年並みに回復したのではないか、というのが私の解釈です。
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