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追記42: 米軍合同台風警報センター(JTWC)の情報に関する注意点

(回答者注)米軍台風情報をお探しの方は台風情報 - 気象庁と米軍(アメリカ海軍)JTWCをご覧下さい。以下は米軍台風情報に関する議論です。

注意事項と理由

JTWC (Joint Typhoon Warning Center)の警報は軍事作戦の一環です。従ってこの警報が突然非公開になる場合もあることは、想定しておいて下さい。

日本ではこれまでJTWCの台風警報を外部へは出していませんでした。これは日米地位協定と関係する協定によって、その使用用途が限定されていたことによります。JTWCの台風警報の存在は、航空の世界では早くから知られていたものの、上記協定等の理由で公表していませんでした。90年代後半になってアメリカ政府の対外政策が変わったことで、広く公開されるようになりました。

現在でも、日本以外では政府間協定により台風警報の扱いについて明示があるようで、協定の範囲内で使用する国があるとのことです(特にシンガポールやミクロネシア地域)。

解析と予報判断

2007年夏から静止気象衛星の他に、極軌道衛星(POES, DMSP, QuikSCAT)も取り入れた新たな方法で解析が行われています。既にADT (Advanced Dvorak Technique)が採用され、2009年からはNOAAでも使用を開始しています。ADTでの解析は3時間/回です。

その情報を基に、米軍自身の持つ数値計算モデル(NOGAPS)のほかに、NOAAのGFS、UKモデル、日本のGSMやTYM、ECMWFを取り込んだ形で、進路予報を行っています。NOAAがJTWCの情報を使うのは、グアムなどの地域にある航空管制空域(オークランドFIR : Flight Information Region)に起因するものです。

進路予報について

対外的には文字データのみで提供とされており、図面情報は公表されていません。Webにある進路予想図は、米軍従事者向けに出される情報で一般向けを対象にはしていません。ただ影響範囲が航空や船舶などにも波及することから、ある程度は開放された情報です。

しかしこの公開がWMO (World Meteorological Organization)で問題視され、2000年には「当該国の出す情報を使用し、他国が当該国の予報権限に影響させないようにすること。そして、熱帯低気圧にあっては熱帯低気圧を扱う中枢組織(北西太平洋にあっては、日本)の支援を受けること。」ということになりました。したがってJTWCのWebにも、「本Webの情報はアメリカ政府が意図した情報であること、正確さを期する場合は当該国の警報や予報、当該地域のRSMC (Regional Specialized Meteorological Center)に支援やアドバイスを受けること。」と明示されています。

このように、JTWCの情報を使う分には問題ありませんが、その情報の信頼性や利用による影響については一切保証しないというスタンスですので、この情報については受け手側の判断も必要となります。

利用頻度

JTWCの進路予報は、かなり古い時代から72時間予報をやっていました。日本がおこなう台風予報でも、JTWCの進路予報を重要視した時代があります。重要視した理由は、観測・衛星で解析した情報が掲示されていることや、当時は24時間先までの予報が限界だった日本にとって、その先の進路傾向を占う上では貴重な情報源だったというのも理由です。

もう一つは、気象偵察機で観測した結果に基づく分析・評価情報があったことです。現在もこれらの情報は、予報等の評価をする上で問題となる箇所を明示したPrognostic Reasoningに含まれています。

また、フィリピンなどの小さな国が予報する台風警報の確度はがあまり高くはなく、予報に対する国民からの信頼を失っていることから、これらの地域ではそれを補完する意味でJTWCの情報が使用されているのが実態です。

更新頻度

JTWCの台風警報の更新頻度は日本よりは少なく、熱帯低気圧のうち33ktに達していない事案は12時間/回、33ktを超えた場合は6時間/回です。GTS (Global Telecommunication System)を通じた国際交換を含め、この頻度は変わりありません。日本などと違う箇所は、警報の発表日時が観測根拠の日時ではなく警報の発効日時になっている点です。ここは、日本・韓国・中国・フィリピンや、香港・タイと違うところです。

対して日本ですが、台風が日本の航空管制圏(正確には福岡FIR)に入ってくると、6時間/回から3時間/回に増えます。国内向けは、沿岸から300km程度に接近すると1時間/回となり、JTWCよりも明らかに多くなります。

国外向けに熱帯低気圧警報を出している中国は、大陸接近300km付近になると1時間/回、600kmになると3時間/回、それ以外では6時間/回です。

これらの状況から考えても、JTWCの台風警報の更新頻度は決して高くはありません。ただしNRL (Naval Research Laboratory)による自動解析ATCF (Auto Tropical Cyclone Forecast)が動くため、見かけ上は解析が増えることもありますが、ATCFの情報は自動解析ですので誤認もあります。また国際回線では、ATCFの情報がそのまま流れることはありません。

予報精度

JTWCが公表する中心位置の予測精度は、気象庁(JMA)と大差ありません。2007年現在で公表された全台風の予報エラーはほぼ同じぐらいという感じですが、JTWCはモデルがばらけると途端に精度が悪化し、その影響が強いようです。2008年は2つの台風で大きなエラーが出ましたので数字は悪化しました。気象庁からは2008年の年次報告はまだ出ていません。

注意すべきはJTWCの精度がNM単位で計測されている点で、kmに直すために1.85倍すると日本と大差ありません。インド洋や南半球を含んでいるので、北西太平洋だけで判断できないところはありますが。

予報期間 JTWC JMA
24h 129km 122km
48h 203km 196km
72h 296km 247km

以上はJMAの年次報告JTWCの年次報告を参考にしました。JMAは実数値ですが、JTWCは実数がないのでグラフから拾った値です。

予報期間

日本では、対外的な(国外向けの)熱帯低気圧警報は、今年は72時間までとなっています。延長するに当たり5月に気象庁へ確認した結果、国内向けには120時間予報を重要度に応じて実施するが、国外向けには2009年度中は現行通り72時間とし、2010年の早い段階で120時間予報へ切り替えるとのことです。ただし予算の関係で実施が変更となる可能性はあります。

予測進路の問題

日本とJTWCには、決定的な違いがあります。警報へ反映させるため、06UTCや18UTCで妙に、進路予測がおかしくなることがあります。数値計算のタイムスケジュールによると、計算結果の反映は、遅くとも6時間後、早くとも3時間後になります。熱帯低気圧の警報は解析根拠の時刻から50分程度で発信されますので、数値計算による進路予報は古い情報を補正しながらとなり、高層観測を含む全般の初期値から考えると12時間前の情報に基づくことになります。

JTWCでは、正時から2時間後に発信されます(早い場合で1.5時間程度)。1980年代に比べると30分ほど早くなっています。

琉球地域におけるAFNの存在

沖縄本島では米軍のテレビ放送AFN (American Forces Network)がスクランブルなしで視聴できます。本来は米軍従事者向けの放送ですが、これはスクランブルがないため誰でも視聴でき、ここでは台風情報もダイレクトに放送されています。

沖縄の放送では、最も接近するのは何時頃で、その際に予想される風速や気温なども含めて、日本の放送では扱わない詳細な情報も明示します。極端にいえば、何時までには暴風対策を講じること、塩害の危険性があるからこの時間までには電源などに対策を講じなさい、といった内容も含まれます。JTWC自体でここまでの情報を扱っているわけではなく、JTWCの情報を受けて従事者向け放送で注意喚起をしているのですが、これを日本の放送と比較するとかなり情報が詳細にわたっているため、これによってJTWCの情報がある種の信頼性を帯びる傾向があります。

xtkinoue さん (2009-09-11)

これはアメリカ軍台風進路予想図についての追記に関するさらに詳細な解説です。ありがとうございました。

北本 朝展 (2009-09-16)
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