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質問52: 気象庁の予報精度と防災行政

防災行政の関係者ですが、純粋な技術予報でなく、国民に警戒心を持たせるために意図的な加工を加えている気がします。

例えば、台風が「本土に上陸」するような進路情報を加えたり。また、日常的には、少し降っただけで大雨・洪水注意報(警報)を乱発したり。はずれが多いので、発令を聞いた市町村行政担当・住民は、「またか」となります。

以前、隣の予報区で雨雲が発達した際に、まだ降ってもいない予報区に「いずれ雨雲が流れるから」と警報を発令したこともあります。実際には雨は降りませんでした。発令が遅れた等の批判を恐れて、余計な発令を増やしているようにさえ見えます。

データを正確に評価した情報を望みます。

休日夜間に出勤する男 さん (2010-08-30)

回答が遅くなりまして申し訳ありません。防災行政という立場から見た場合、一般国民とは違った視点が見えてくるのではないかと思います。現状の防災体制では誰に負担がかかっているのか、警報の空振りは果してタダなのか?そうした観点からの議論は少なく、高まる一方の負担に対して不満が強まる現場、という構図が浮かんできます。

警報の空振りに関する国民の意見

気象警報に関するアンケート結果では、「空振りが多くなってもいいから警報をきちんと出してほしい」というような結果を目にします。また昨年の台風200909号では、佐用町が出した避難勧告が結果的に水害に間に合わなかったことが、訴訟問題にまで発展しています。これらの状況を見るかぎりでは、とにかく安全側に見て警報を多めに出す方が責任問題を回避できてよいのではないかとも思えます。

一方で警報を出しすぎると「オオカミ少年」化するというか、警報に人々が反応しにくくなるという副作用もあります。同じく昨年の台風200918号にまつわる台風情報公表問題では、台風の温帯低気圧化に関する発表が気象庁によって意図的に遅らされているのではないかとの疑問が提起されました。この疑問に対しては、「台風」ではなく「温帯低気圧」だと発表すると人々の注目が集められないからだというような説明もありました。また、台風情報に関するマスメディアのニュースが大袈裟すぎるという問題も、特にネット上では繰り返し復活する話題です。警戒を呼び掛けるために過大に表現されると、結果として不信を招くという構図もここから見えてきます。このように「台風情報はどうあるべきなのか」という問題は、特にインターネットの台頭とともに再考すべき問題となってきたと思います。

台風201014号の場合

そんな中、先週には台風201014号が日本列島に接近してきました。この台風も当初は本州への上陸も視野に入っており、マスメディアでも繰り返し台風への警戒が呼び掛けられました。しかし台風の進路は次第に東寄りに変わり、本州への上陸の可能性はどんどん下がっていきました。それでも長期間にわたって関東は予報円の内部に入っていましたが、最終的に台風は本州からは離れた経路を通って伊豆諸島を通過しました。そのため、接近前に呼び掛けられた警戒にもかかわらず、実際に台風が接近してみると各地では大した影響もなかったという拍子抜け(?)の結果となりました。そして、こうした例は実際にも珍しくないので、そのような体験を繰り返すたびに、気象庁の情報は正確なのか、あえて陸地寄りの予報を流しているのではないか、との疑いを持つ人が増えてくるのも理解できます。果してそのような可能性はあるのでしょうか?

では台風201014号に関して、気象庁の予報がどのくらい正しかったのかを簡単に検証してみましょう。それには現在仮オープン中の台風空想を利用します。台風空想を起動して台風201014号の経路を表示すると、オレンジの点が経路上に表示されます。このオレンジの点をクリックすると一つの円が表示されて、他のオレンジの点の色が変わります。これが、クリックした点に対する24時間後の予報円と、実際に実現した経路の比較となります。画面左側の24h、48h、72hを切り換えると、予報円の予報時間を切り換えることができます。もし経路点が予報円に入っていれば、予報が当たっていたということになります。

これを使って日本付近での予報と(速報)経路を比較してみます。まず24hについては、実際の経路は東に大きくずれていますが、かろうじて予報円内に入っています。次に48hについては、実際の経路は大きく北東に外れており、予報円の外側に出てしまっています。最後に72hについても、同様に予報円から北東方向に大きく外れています。72hが外れ始めるのは沖縄南方の転向点直前付近あたりからですが、これは台風の進行速度が予報よりもずっと速かったことが原因でしょう。予報円と経路を1対1で比較してみると、沖縄付近から台風が東に流されつつスピードを上げたために、結局のところ本州に近付くまで北上する前に本州を通過してしまったような感じです。

今回の台風に限って言えば、台風の予報を「意図的に本州寄りにした」から外れたというような印象はあまりなく(おそらくそれなら台風の経路は南にずれるはず)、むしろ速度を読み違えたために結果的に陸地から離れてしまったという印象を受けます。また、そういう傾向が一般に天気予報モデルに存在するのであれば、同じ間違いを繰り返すこともありえます。もし予報が陸地寄りになる傾向があったとしても、それが人為的なものとは一概には言えず、予報官が意図しなくても予報に偏りが生じることはあるのです。本当に意図的な情報変更なのか、それともシステムによる避け難い偏りなのか、そこの判断は大変難しいところです。

解決策

一つの解決策は、確率的な予報の導入です。現在の台風予報はアンサンブル数値予報という方法で行われていますが、このページの図にもあるように、台風の予想経路は実際に何本もの線で表されているのです。ひとまずこのようなアンサンブル情報そのものを公表すれば、人為的な情報の変更があると考える人はこの情報を使って影響を回避することができます。もちろん普通の人にとってアンサンブル数値予報を読み解くのは難しすぎるので、従来の予報円方式も続けます。このように、自主判断も可能にする高度な気象情報の提供によって、この問題はある程度は解決できるかもしれません。

しかし最初に戻りますが、防災行政の立場から見た場合、このような気象予報の精度向上で根本的に問題が解決するかといえば、そんなことはないでしょう。なぜでしょうか。私が考えるに、問題の本質はおそらく気象予報の精度ではなく、災害に対して誰が責任を取るかという責任問題だからです。近年の傾向として顕著なのは、多くの識者が指摘するように「天災から人災へ」の流れです。科学の発達によって、避けようのない天災などというものはなくなった。にもかかわらず災害が起こったというのは、対策がどこか悪かったはずだ。そうだ、これは人災だ、責任者、出てこい!というわけです。

極端なことを言えば、たとえ気象庁の警報が出たとしても、防災担当者が自ら高度な気象情報を入手し、独自の判断を下して様子を見るという選択も、理論的には可能かもしれません。でもそれは実際には困難でしょう。防災担当者の判断が外れた場合の責任が取れないからです。防災計画として判断ミスのリスクを回避するためには、気象庁の判断に機械的にしたがうという形にしておくのが最も無難です。その気象庁も予報が外れた際のリスクを考えると、多少は余裕をもって警報を出すこともありえます(*1)。こうして連鎖的にリスク回避行動が進んでいく。

個人的には、この件で気象庁を責めるのはやや酷ではないか、と考えています。むしろ予算・人員削減の中にもかかわらず、防災担当者に過剰な責任が生じる「天災から人災へ」の風潮が強まることで、現場の負担が高まりつつあることが本当の原因ではないでしょうか。私にはこの問題をどう解決すべきか、よいアイデアはありません。月並な考えですが、予報が完璧に当たることはあり得ないので過剰な期待を持つべきではないこと、防災担当者を充実させるように粘り強く働きかけていくこと、ぐらいしか思い付きません。一般の方々も、見えないところで努力を続けている防災行政の方々への感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。

(*1) この問題に対する一つの対応策が警報・注意報の細分化です。空間的により細かい情報が出せれば、時間的に余裕をもったとしても、全体としては空振りが減ることが期待できます。

北本 朝展 (2010-10-31)
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