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質問50: 「ひまわり」観測開始当初のデータ保存状況

(回答者注)これは○年○月○日(特定年月日)の「ひまわり」静止気象衛星画像が欲しいに対する追記です。

当時のデジタル資料の多くは、廃棄になっていて現存していないと思われます。

保存期間

気象庁の内規では以下のように定められていました。

ヒストグラムデータ、基本格子点データの保存期間
1988年の段階:10年
1996年の段階:30年
画像累積のCMT (Cartridge Magnetic Tape)
1988年の段階:5年
1996年の段階:10年

1978年以前の資料は飛んでいる可能性が高く、デジタルデータでの復元は厳しいと判断されます。累積データの場合でもCMTの密度が異なるなど違いがあるほか、当時のCMTを読み出すためのハードがあるか分かりません。また基本ヒストグラムデータは、当時1*1度(1988年以後0.25*0.25度)、今は0.125*0.125度で、かなりの違いがあります。

なお、マイクロフィルムに関しては当時はHR-FAX (High Resolution FAX)の画像を撮影していたことから、光源の影響でぶれなどが生じている可能性があります。1995年6月13日06UTCから、フィルムへ直接画像を写し込む方式に変わりました。マイクロフィルムに残す、というのは当時ではごく当然の保存方法で、磁気テープでそのまま残すというのは大変高価であったこと、デジタル特有の問題として磁気データの磁性反転(巻き取ったテープの磁性が、隣接する磁気データの影響で反転すること)が問題になって、長期保存には向かないという判断があり、マイクロフィルムを基本としたようです。

当時の環境

研究機関でも当時は、メーンフレームを導入するだけの余力がなかったことから、放電破壊式のフイルム印画が主流でした。今はありませんが、HR-FAXを使用していた時代ですので、その情報から得ることになろうかと思います。当時、ひまわりから直接受信していた研究機関の一つに電気通信大学があり、早い段階で受信を開始していました。電気通信大学ではHR-FAXの受信を行っていたので、もしかすると当時のデータが残っているかもしれません。

試験運用中の画像について

GOES (Geostationary Operational Environmental Satellites)等でもそうですが、試験運用中の画像はあまり残っていません。試験運用中は、任意の時刻に観測を行うことがありますし、のちの気象衛星センターで使用するメーンフレームやCDAS (Command and Data Acquisition Station)の試験運用も入ります。したがってデータは完全には残っていないと思われますし、たとえ残っていたとしても、気象庁や今のJAXAではなくメーカーではないでしょうか?

なお1978年3月3日以前は、予備運用のため保存されていない画像があるとのことです。

運用期間中の欠落

運用期間中の欠落は、主に以下が原因です。

  1. 衛星蝕による欠測
  2. CDASによる受信障害
  3. 衛星自体の劣化

GMS (Geostarionary Meteorological Satellite)のバッテリーパワーは最大200Wですので、衛星蝕の間は観測には耐えられず、欠測を行っていました。CDASの受信障害は、あまり数はないものの、太陽妨害などによる障害があります(最近では降雪による障害がありました)。GOES-9でも同様の理由(バッテリーのみでは最大400Wで観測に耐えられない)から、観測が止まった経緯があります。

衛星自体の劣化というよりも、VISSR (Visible and Infrared Spin Scan Radiometer)の欠陥による障害がありました。GMS-1やGMS-2が稼働していた1984年頃にありました。NOAAで運用しているGOESもかつてGMS-2と同じ問題で、ヨーロッパのMETEOSAT-3を借りて東海岸側で運用したことがあります。原因はGMS-2と同様、スキャンシステム(正確には、シンクロ開始点を決定するためのランプ)が異常劣化によって輝度低下し、シンクロ開始点をテレスコープで追尾できなくなったのが原因です。GOES-6、GMS-3から、ランプからLEDに変えられた経緯があります。

inoue さん (2010-04-13)

貴重なご意見ありがとうございました。なお、コメントにありました電気通信大学については、UECコミュニケーションミュージアムに当時のひまわり受信設備が残っているそうです。さらに調査してみたいと思います(ミュージアムよりご回答をいただきました)。

なお上のコメントに「磁気テープでそのまま残すのは大変高価だった」とありますが、ここで面白い事実があります。当時あまりに残すのが大変だったというデータは、一体どのくらいの大きさだったのでしょうか?考えてみて下さい。

実を言うと、データの総量は、1年間でたった(!)100ギガバイトなのです。ただしこれは圧縮済みのデータで計算した場合ですので、もし圧縮しなければその数倍程度には膨らみます。とはいえ、いずれにしろ、今なら1テラバイトのハードディスクが1万円以下で買えますので、高々1万円もあれば1本のハードディスクに保存できる程度のデータ量なのです。

では気象庁は1万円をけちったのか、と言えば、もちろんそんなことはありません。現在なら1万円もあれば記憶できるデータが、当時は気が遠くなるほど巨大なデータだったのです。こんなところからも、ここ30年ほどのコンピュータの進化がどれほど巨大なものなのか、実感できるのではないでしょうか。それと同時に、現在は気が遠くなるほど巨大なデータも30年後には大したことのないデータになること、ゆえに巨大なデータは現在が多少大変でも将来の人々のために頑張って残していくべきこと、なども理解できるのではないでしょうか。

今の子供たちからは、「えー、たった100ギガバイトの何が問題なの?」とツッコミが入りそうなことを考えれば、現在の我々も「えー、たった1ペタバイトの何が問題なの?」という意識でやっていかなくてはいけないのかもしれません。

(追記:2010-04-22)

電気通信大学UECコミュニケーションミュージアム学術調査員 石島様より、電気通信大学での初期の受信設備について、データの現状も含めてご教示頂きました。引用の許可を得ましたので、以下にご紹介させて頂きます。

GMS-1に於けるMDUSの送信方式はFM/FM方式によるアナログ伝送方式でありますため、デジタル方式の所謂生データは存在致しません。

本学の受信システムはF3C 1687.1MHzの電波を直径4メートルのパラボラアンテナで受信し、二重のFMを復調して、レーザービームレコーダによってリアルタイムで記録するものであります。このレコーダーは602mm×478mmサイズのフイルムに直接記録するもので、受信有効サイズは580mm×475mmであります。本学に保存されている受信データは、すべてこのサイズの現像済みのネガフイルムであります。

受信保存されている期間は1981年から1988年までで、各年ごとに100枚程度であろうかと思われます。可視光線画像、赤外線画像のほかメルカトール画像などがありますが、どんなに綺麗であってもピクチャーであって、データではありませんから、これをスキャンしてデータ化することは無意味かと存知ます。

念のため、レコーダの規格をお知らせしておきます。協同係数:2000、走査線密度:10.42本/mm、全走査線数:4562本、回転数:400rpm、独立同期方式、フイルムサイズ:上記。

北本 朝展 (2010-04-14)
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