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要望134: 気象予報士に一言

最近のワイドショー出演の気象予報士はふざけた演出とか態度がすごく気になる。タレント化する職業では無いように思う。

末永 さん (2015-09-13)

テレビの天気予報がどうあるべきかというのは重要な問題です。特に台風18号では大きな水害が発生するなど重大な災害が次々と発生する中で、多くの試聴者にメッセージを伝える最前線に立つ役割を果たすわけですから、どんなメッセージを伝えるかで被害が変わってくる可能性もあるわけです。

ただ天気予報に関しては若干の誤解があるようですので、まずその誤解についてお話したいと思います。実は天気予報を伝える人は、必ずしも気象予報士の資格を持っている必要はないのです。気象庁の予報を伝えるだけならば、気象に関する専門知識は特に必要ないからです。一方、気象庁の予報をそのまま伝えるのではなく、そこに自分なりの分析を交えて伝える(あるいはそういう文章を作成する)場合には、気象予報士の資格が必要になります。ゆえに、テレビの天気予報番組に出ている人には、気象予報士資格を持つ人と持たない人がいるということになります。

そして、この「気象予報士資格を持たない人」の中に、本当のタレントの方々がいます。つまり、「タレント化」しているのではなく、そもそも彼ら/彼女らはタレントなのです。出演ではタレントとしての能力を発揮することが求められている以上、タレントとして振る舞うことに何ら本人の責任はなく、期待される仕事をこなしていると言えます。ただ厳密なことを言えば、気象予報士の資格を持ちつつ、タレント化する人もいないわけではありません。そのような特定の方々を指した質問であればお答えしづらいですが、少なくとも私はそれが悪いこととは思っておりませんし、他人がとやかく言うことではないとも思っています。要するに本当の問題は、番組に出演する人にあるのではなく、番組を企画した人にあるわけです。

では、なぜそのような番組企画が生まれるのでしょうか。これについて、私はテレビ局の内部事情を知らないので確かなことは言えませんが、少なくともテレビ局の上層部はその選択を支持しているのではないでしょうか。そうでなければ、番組内容を変更せよとの指示があるはずだからです。つまり、天気予報には演出が必要であるという考えは、テレビ局内で共有されている意識なのではないかと推測できます。おそらくテレビ局も差別化に苦労しているのでしょう。天気予報というのは、気象庁の情報を伝えるだけなら、基本的に各局とも同じ内容になるという性質があります。「うちの局の番組は他局の番組とどう違うんだ?」と聞かれても、内容では差別化できないのですから、演出で差別化せざるを得ません。とはいえ、天気予報は情報番組では欠かせないコーナーですから、天気予報はやりたい、でも予算はかけたくないとなると、安易な方向に流れがちです。そこに不満をお持ちなのだと思いますが、そういう番組なのでしょうがないですね、という感じはします。視聴者側も見る番組を選ばなくてはなりません。

ただ、すべての番組が安易な方向に流れているわけではなく、気象予報士の側もそれで良しと思っているわけではありません。例えば気象キャスターネットワークなどは、この職業の役割の重要性を認識して様々な活動を展開しています。また予報業務の許可事業者は、専門的知識を活用した付加価値の高い気象情報の提供を目指しており、このような会社から派遣された気象予報士は、真面目に気象情報を伝えることを使命に感じているはずです。ただ、すべての天気予報がそうであるわけではないし、そうである必要もないだろう、ということです。

さらに大きな影響を及ぼす要因は、強力なメディアとしてのインターネットの台頭です。今や、単なる天気予報ならネットでいつでも確認できますし、自分のニーズに合わせて検索や絞り込みもできるという意味で、明らかにネットの方が有利な面も多々あります。そしてその先には、いよいよ人工知能の時代も見え始めています。気象情報の分野でも、「ロボット」(二足歩行するヒト型ロボットに限定しない、コンピュータを用いた自動化プログラムを指す用語)による自動天気予報が視野に入り始めており、ここでも人工知能が職業を奪うという時代が到来する可能性が出てきました。ロボットも演出はするでしょうが、それは人間とは全く異なるものになるかもしれません。では天気予報はすべてロボットで代替できるのでしょうか。それでいいのでは、という人もいるかもしれません。逆に言えば、代替できない部分こそ、これからの気象キャスターが担うべき役割であると言えるでしょう。それは、視覚と聴覚を効果的に刺激する演出であり、臨機応変に重要なメッセージを伝える能力です。ゆえに、視聴者に向けてメッセージをより効果的に伝えるための演出は許容されるべきです。

台風18号による水害でも、大雨について伝えるだけでなく、大雨が引き起こす洪水についても強調すべきだったのではないかとか、いま浸水している地域に関する情報だけではなく、これから浸水する地域に関する情報も強調すべきだったのではないかとか、災害報道に関する様々な問題点が指摘されはじめています。こうした中で、気象キャスターは気象の専門家としての職責を果たすだけでなく、気象の影響としての河川状況などにも目配りしながら、常に適切なメッセージを出していかねばならないわけです。そのようなスーパー気象キャスターに対する需要が民放にもあって欲しいとは願いますが、少なくともNHKでは確実にあるはずです。そしてNHKの近年の災害報道に対する(時に過剰とも思えなくはない)力の入れようは、よい方向への動きであると信じています。

北本 朝展 (2015-09-13)
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