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現在の解析とは方法が異なり、昭和の中ごろまでのいくつかの台風は、最大風速が過大に評価されているのではないかという意見をネット上でみつけました。個人的には、航空機観測を行っていた時代のほうが正確な値が出ているものだと思っていたのですが、どうなのでしょうか?
最大風速の測定方法が時代によって異なるのは確かで、長期間のデータを公平に比較することは難しい問題です。飛行機観測時代の誤差については私も詳しくは知りませんが、少なくとも実際の測器で得られた値は、現代のドボラック法による方法よりは正確なのではないかと想像します。となると、むしろ現在の台風が過小評価されている可能性もあります。
ただ、中心気圧は常に台風の中心付近で観測できるのに比べ、最大風速を中心付近のどこで観測できるかは台風によって異なる、という問題は考えておくべきでしょう。例えばある限られた領域だけで突風(竜巻)のように強い風が観測される場合は、実測値が代表性をもつ値かを検証する必要があるということです。たまたま局所的に強風の場所で測ってしまうと、たとえ実測値であっても全体の勢力から見ると過大評価になる可能性があります。現在の最大風速も、それより強風の場所があることを否定はしません。
また、風速や気圧をある変換式によって計算している場合、その変換式が時代によって変わると計算結果も変わってきます。その場合、元となるデータから新しい変換式で再計算できればいいのですが、元データが失われてしまうと再計算はできず修正もできないということになります。例えば、最大風速は10分間平均風速と定義されていますが、飛行機から測器を落とす方法で10分間も風速を観測し続けることは難しいと思われますので、別の形で測定したものを10分間平均風速に変換していたのではないかと推測します。この時、たとえ元の測定値が正確だとしても、変換式が不正確だと得られる値も不正確になります。もし現在はより良い式が知られているなら再変換したいところですが、元の各種データが失われていると再変換は非常に困難となります。
こうした基準の不統一を解消するために、すべてのデータを現代の基準に統一しようという「再解析」の動きもあります。例えばWikipediaのAtlantic hurricane reanalysis projectには関連する情報がありますので、ここから先のリンクをたどれば現在どんなことが行われているかを知ることができるでしょう。また各国の気象機関によるデータの違いはInternational Best Track Archive for Climate Stewardship (IBTrACS)で調査されており、こうした方向からも過去データの偏りを補正する手がかりが得られるかもしれません。こうした再解析は地球温暖化による台風の長期変動を知るためにも基礎的なデータとなります。ただし日本の気象庁がこのような再解析をやるためには膨大な労力が必要なので、少しずつ進めていくしかないでしょう。
最後に、伊勢湾台風による高潮災害は現実に発生した災害ですし、これは相当に強い台風でないと発生しない災害でもあります。ゆえに伊勢湾台風は、日本列島に接近する台風の中では最強クラスといって間違いはないと思います。
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