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台風の中心からの風速分布は、地形の影響と台風自身の速度を除いた場合では、きれいな同心円状になりますか?
ご質問ありがとうございます。風速の分布は基本的には等圧線の形状とその間隔によりますので、等圧線が同心円状なら風速分布も同心円状になるとは言えます。しかし様々な原因によって等圧線は同心円状にはなりません。
まず台風の外側では、周囲の低気圧や高気圧の分布によって等圧線の形状は影響を受けます。例えば台風の周囲に高気圧と低気圧があれば、高気圧側の方が気圧差が大きくなって風速が大きくなります。実際にこのような理由で台風の中心から遠いのに強風が生じることがあり、その影響を考慮して強風域がその方向には大きめに描かれていることがあります。
次に台風の中心付近でも、等圧線の形状は複雑な形状となることがあります。天気図では台風の中心付近の等圧線は非常に密になってしまい、同心円の等圧線でないと描きにくいので円にしていますが、実際の気圧分布がその通りになっている保証はありません。例えば台風の中心付近に直径数キロメートル程度の小さな低気圧(メソサイクロン)が存在する場合があり、そこでは竜巻などが発生することもあるように、風速が局所的に強くなっています。台風の眼の周囲を取り囲む壁雲では激しい上昇気流と下降気流が生じていますので、気圧の分布は非常に複雑です。そもそも台風の眼さえ、いつも円形とは限らず、五角形などの多角形になることがあります。
またその他にも、台風の発生状況にはさまざまなパターンがあって中にはバランスが悪い台風もあり、このような台風では風速の分布も偏っている可能性があります。またどの台風であっても、台風が温帯低気圧化する直前は風速の分布が同心円から大きく外れます。以上のように、台風の風速分布は非常に複雑なので、天気図に描かれたきれいな同心円はあくまで近似で、実際の風速の分布が同心円状に近いと言い切るのは難しいかなと感じます。
なお台風の周囲の風速分布の観測データとしては、米国大気海洋庁NOAAが提供するOcean Surface Winds Data Product Descriptionなどが参考になります。これは宇宙の衛星から海上の風速を観測したデータですので、台風の周囲の風速分布が実際にどうなっているのかを確認できます。また鉛直台風 Vertical Typhoonでは、気象庁の数値予報モデルGPVのデータに基づく台風の風速分布を可視化しています。こちらは実測ではなくシミュレーションなのですが、風速分布の参考になると思います。
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