このような質問を受けるたび、米軍台風情報を信頼する人は多いのだなと思います。この信頼感はどこから生まれているのか、というのは興味深い問題です。まず軍隊が発表するのだから、軍人というプロ相手に正確な情報を出すだろうという漠然とした信頼感はあるような気がします。その点、気象庁は一般人に呼び掛ける必要があるため、どうしても強めの表現になってしまうことは避けがたい。そこにメディアが乗っかって、気象庁の情報をさらに大袈裟にしてしまうため、あたかも気象庁がそのように言っているかのように誤解されることもしばしばあります。これが気象庁に対する印象を悪化させ、その代替となる米軍情報の印象を高めているという面がありそうです。
もう一つ、気象庁の円形表示に言及している点も重要です。実はこの前の質問台風の予報円と台風の中心の関係も同じ点が問題となっています。日本の気象庁あるいは専門家は、予報円を結ぶ線をがんばって消そうとしているのですが、これが一部の人々には極めて評判が悪く、その結果として中心線とその周囲を囲む米軍台風情報の表現に対する評価を高めています。中心線は確かにわかりやすく、台風がどのように動いていくかをイメージしやすい利点があります。一方、円形表示(中心線なし)は、円と円の間をどのように台風が動いていくかをイメージしづらいという欠点があります。
とはいえ中心線がない方が、実は情報の意味の表現方法としてはより正しい、というのが悩ましいところです。中心線は確かに「わかりやすい」のですが、中心線から外れると「予報が外れた」という理解をされやすく、それが気象庁への批判につながりやすいという問題があります。予報円の中はどこを通っても予報は当たりですので、中心線はむしろ情報の理解を妨げる余計な図形要素とも言えるのです。だから気象庁や専門家は頑張ってこの中心線を消そうとしており、その努力を「わかりにくい」という安易な批判だけで退けてしまうのも違うような気がします。
ではどうすべきかということですが、将来的にはアンサンブル予報の表示を工夫するという方向で解決するしかないと思われます。そもそも予報円の表現力の限界がこうした批判を招いている面もあります。また、アンサンブル予報を経路の束(バンドル)として表現するならば、実は米軍情報の表現に近づいてくる可能性さえあります。万人にわかりやすいというのは無理だとすれば、誰をターゲットにするのか、あるいはターゲットごとに表現を変える方がよいのか、今後の大きな課題でしょう。