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質問135: 温帯低気圧情報の発表方法の改善

台風23号ですが、正午すぎに温帯低気圧に変わったものの勢力を維持しながら北上しました。その結果、道内各地に暴風や浸水被害が幅広く発生しました。ただ、台風から温帯低気圧に変わったため、気象庁では1時間ごとの予想進路や暴風域を示した進路図の発表をやめてしまいました。

気象情報をいつも以上にこまめに出すなどの対応はしていましたが、勢力が衰えていないのであれば、視覚的にわかりやすい情報提供などを続けられなかったのかとも思います。台風から温帯低気圧に変わっても、勢力が衰えていないとき、防災の面からはどんな方法で視覚的に温帯低気圧の情報を伝えていくべきでしょうか。

匿名希望 さん (2015-10-09)

台風201523号の事例も含め、「台風の温帯低気圧化」問題は、気象情報の伝達にかかわる問題の中でも特に注目が高いものの一つです。気象庁でもすでに検討は重ねており、その結果は台風情報の表示方法等の見直し案についてにて公開されています。また本サイトでも、温帯低気圧に関連するページはいろいろとありますが、ここでは改めてこの問題を整理したいと思います。

まずよくある意見として、台風から温帯低気圧に変わっても台風として発表し続けてはどうか、という意見を検討してみましょう。台風と温帯低気圧の違いは、低気圧の構造の違いという気象学的な定義に基づくものであり、風速の強さなど勢力の違いに基づくものではありません。そのため、ある一点への影響に着目するなら、どちらの現象でも強い風が吹く可能性があることになり、両者を区別する必要はないのではないかという意見にもそれなりの根拠があります。

一方、もっと広い地域への影響に着目すると、両者には違いが出てきます。すなわち、両者の構造の違いは、実は影響する範囲の違いに影響するのです。台風のような熱帯低気圧では、最も風雨が強いのは中心付近となりますが、温帯低気圧の構造は非対称的で、中心付近で風雨が強いとは限りません。また、発達した温帯低気圧は台風よりも強風域が大きくなるため、台風よりも広い範囲が強風の影響を受けることになります。つまり、空間的な広がりに着目するなら、台風と温帯低気圧の構造の違いによって強風の分布には大きな違いが生じますし、中心という一点を特別扱いするかどうかにも違いが出てきます。気象庁が発表する気象情報は広い範囲を対象とするものであり、温帯低気圧という情報から強風域など影響範囲の違いをイメージしてもらえないか、というのが気象庁の期待ということになります。

とはいえ、一般の人々にそのレベルの背景知識を持つことを期待するのは、なかなか難しいかもしれません。そもそも「温帯低気圧」という名称自体、温帯ってそもそも何だ?という部分からつまずきますし、学術的すぎる用語でアピール力が足りない面があります。逆になぜ台風は理解しやすいかというと、とにかく風雨が強いというイメージが確立していることもありますが、個別の番号や名前を与えることも、一種の擬人化効果として存在感の増強に役立っていると考えられます。同じような効果を、温帯低気圧についても生み出せないものでしょうか?

第一の方法は、過去の経験との比較を用いて自身の経験を呼び覚ます方法です。北海道ではなんと言っても10年前の台風200418号による被害が大きかったため、この台風を思い起こさせることによって、これから来る温帯低気圧への存在感を与えることにします。ただしこの方法は、実体験がある人には有効ですが、実体験がない人には使えないという問題があります。

第二の方法は、現象の頻度に変換することで実感を与える方法です。例えば「50年ぶりの暴風」と言えばかなり稀な現象という認識ができますし、「これまで経験したことのない大雨」は自分の人生においても稀な現象であることを感じることができます。情報を自分軸で考えられるようにすることは、情報の実感を増すための一つの有力な方法です。ただし「これまで経験がない」というのは主観的な面もありますし、この表現が多用されてしまうと感覚が麻痺するという問題があります。

第三の方法は、新しい言葉を考案することでインパクトを与えるという方法です。インパクトの強い言葉として、例えばどんなものが過去に考えられてきたでしょうか。古い例では「集中豪雨」、最近の例では「ゲリラ豪雨」などがあります。いずれも学術的な言葉ではなく、定義もは明確ではありませんが、「なんとなく」すごそうな雨というインパクトは感じます。最近では「爆弾低気圧」という言葉も普及しつつあります。こちらは学術的な用語ですが、名前のインパクトも大きいという珍しい例です。このような言葉を考案することが一つの解決策になるでしょう。

そこで思い起すのが「冬型の気圧配置」という言葉です。この概念もなぜか広く普及しており、その言葉を聞くことで脳内には大雪の風景が浮かんできます。冬型の気圧配置では、実は発達した温帯低気圧がメインプレイヤーになっており、温帯低気圧が引き起こす暴風としては性質が似ています。その意味では、実は日本の中でも、北海道ほど温帯低気圧の怖さをよく知っている地域はないのです。大雪の原因となる発達した温帯低気圧は、「台風並みの低気圧」と呼ばれることもありますが、実際には台風よりもはるかに巨大な気象現象であり、北海道ではむしろ台風のことを「低気圧並みの台風」と呼ぶ方が実態に合っています。したがって冬の暴風のイメージを、台風から変わった温帯低気圧と共有することが一つの方法ではないかと思います。こうした冬の低気圧も含めて「暴風低気圧1号」のように命名し、それによって擬人化の効果も狙えるとさらに効果的かもしれません。

最後に視覚的情報について考えます。台風情報の優れた所は、情報のフォーマットが確立しているという点です。点と線と円という非常にシンプルな図形で構成されているため、人々にとって理解しやすい情報となっています。情報をより正確にするために、複雑な図形を使ったり分布情報を使ったりする方法が以前から提案されてはいますが、一般向けの情報としては「わかった気になる」シンプルな情報の優位性は大きいと思います。

その観点では、衛星画像雨雲レーダー画像は、情報量が多すぎて一般の人には理解しがたいかもしれません。それに対して天気予報データから特に風の流れを取り出し、アニメーションとして見せる方法がわかりやすいとして流行しています(例えばearth :: 地球の風、天気、海の状況地図など)。ただし広域的な「鳥の眼」視点の情報から、特定地域への影響を正確に読み取ることは難しいという問題が残ります。もっと特定地域にフォーカスした「虫の眼」視点の情報としては、特別警報・警報・注意報を活用するのが本筋だとは思いますが、年中発表されている情報のため、特定の温帯低気圧に対する特別な関心を引き起こすのは難しいのが実情です。

そうなると、やはりネーミングの工夫というのが、費用対効果の最も大きい対策のような気がします。「木枯し1号」のように「暴風低気圧1号」のようなネーミングを行い、積極的に宣伝してはいかがでしょうか。気象庁本体ではやりづらいということであれば、民間気象会社主体で流す情報であってもよいのかなとは思います。

北本 朝展 (2015-11-27)
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