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私の[質問111]に対しても、ご丁寧な回答をいただき、ありがとうございました。
本土で生活する者には大きな影響を与えなかった台風201408号ですが、南海上の人々にとっては(仰るように)「死活問題」といえる状況であったことが「鉛直台風」の画像で、一目瞭然であり、まさに目から鱗でした。と同時に、気象庁台風情報の重大な問題点が浮き彫りになってきたように思います。一言でいえば、「この台風では途中から強風域が正しく発表されず、警戒を促すべき人々に重要な情報が伝わりにくかった」ということです。
「鉛直台風」の画像を見て確信したのですが、気象庁の<11日08時の実況>「存在地域 銚子市付近 最大風速23m/s 最大瞬間風速35m/s 15m/s以上の強風域 南東側 600km 北西側 390km」という発表の中の、銚子を基準とした「強風域 北西側 390km」は日本海に及ぶ範囲であり、誰が見てもおかしな数値です。これは、7月10日~11日の間、「15m/s以上の強風域」と称して示された円が、実はそうでなく、(台風の進路として示される)最低気圧の地点を中心とした円(防災上は無意味)のままになっていたことを意味しており、肝心の南海上は円の周辺部になってしまっています。その結果、テレビ報道も東海・関東地方に関する内容が多く、(警報・注意報は当然放送されますが)強風域が南の太平洋上に移ったことを明確に印象づける概況説明はなかったように思います。これでは危険にさらされた海域の人々をあまりにも軽視していると言わざるをえません。気象庁の「海上警報」のサイトには、風に関する警報の発表(または24時間以内の発表予想)を示す「海区別発表状況地図」があり、海区ごとの説明も表示されます。台風201408号の時も南海上には強風警報が発表され、船舶関係者はこれに注目していたと思われますが、このサイトには強風域の位置やその移動を示す図はなく、「台風情報」を見るしかありません。また、八丈島などの陸上生活者の多くはむしろ「台風情報」に注目していたのではないでしょうか。
温帯低気圧に近くなり、強風域が中心からはずれた場合、実際に警戒を必要とする人々が適切に行動できるためには、「はずれた」ことを陸上・海上のすべての人々に強くアナウンスするとともに(低気圧でなく)強風域の位置を示すべきです。また、温帯低気圧化を発表したからといって、最大風速や最大瞬間風速の表示をすぐに消してしまうのは、警戒を緩めてしまう可能性があり、一律にそうすべきでないと考えます。具体的には次のとおりです。
→ この数値からみる限り、警戒を解かないために「台風」のままにしておいたほうがよかったのではないか。「温帯低気圧」とする場合でも、最大風速23m/s 最大瞬間風速35m/s の数値は(該当の位置とともに)表示し続けるべきであった。(陸上生活者には必要ないが、危険にさらされる海運業者や漁業者を重視すべきだから)
<実況>に関する提案ですが、温帯低気圧に近くなり、大雨や強風の領域が台風中心部からはずれた後は、そもそも重要でない(まさに仰るとおりです)中心の位置を発表する必要はありません。無意味な発表が人々の混乱や誤解(「数値を操作している」など)を招いているとも言えます。ただし、上記の時点で必ずしも直ちに「温帯低気圧化」を発表すべきとは思いません。「台風=危険」「温帯低気圧=安全」という多くの人々の固定観念がそう簡単に修正できるとは思えませんので、陸上または海上で生活する人々の警戒が必要な間は「台風」のままにしておき、中心位置は示さず、降水量や風速の分布に関してだけ発表すればよいのです。そうすることにより、警戒を要する地域が紛らわしくなくなり、また([質問110]へのご回答にあった)「認知的不協和」を軽減させることにもなると思います。(当面、強風域を大まかな円で示す従来の方法は続けてもよいでしょうが、「鉛直台風」のような画像をサイト上のリンクで簡単に見れるようにし、テレビ報道でもそれを使用すればさらにわかりやすいでしょう。)
「台風」でありながら、途中からその「中心」が示されなくなると、人々は違和感を覚えるかもしれません。その問題を解決するためには、最初から大雨や暴風・強風の領域の位置だけを発表するという方法があります。そもそも、防災の観点からは「気圧が低いこと」が問題なのでなく、雨・風の強さやその分布が重要なわけですから、中心の位置を示す必要は最初からないはずです。もし、中心の位置にこだわる人が多いとすれば、等圧線を重ねて表示するようにすればよいでしょう。この方法は、「勢力の強い段階では、暴風域・強風域が最低気圧地点を中心とした円とほぼ一致しているが、後に一致しなくなることがある」という認識を一般の人々に浸透させるためにも有効です。
<予想>については、暴風・強風の領域が円形でなくなった後、実際の形に近い予想図を示すのは確かに難しい面があると思います。[質問110]へのご回答の中で触れられた「暴風域に入る確率の面的情報の表示」については、これが誰にでも理解しやすいとは言えず、一般向けとしては改良の余地がありそうです。
当面は、大まかな「予報円」(状況によっては「予報楕円」でも可)でよいと考えますが、重要なのは、あくまで「低気圧の円」ではなく、「暴風域・強風域の円」にすべきだという点です。
ただしその場合、従来の「中心」の進路予想(台風201408号では、完璧といえるほど的中)に比べ、的中率は低くなると考えられ、「予想が当たらなくなった」と感じる人が多いかもしれません。しかし、気象庁には、そのような苦情を恐れず、(とくに温帯低気圧に近くなった段階では)「よく当たるが、防災上役に立たない予報」(中心の進路予想)はやめて、「やや不確実だが、防災上役に立つ予報」(暴風・強風の危険領域の予想)に重点をおいたものに変えていただきたいのです。
この改善は緊急を要します。細かいことはともかく、少なくとも温帯低気圧に近くなってからの<実況>では、「中心の位置や進路」でなく「実際の強風域とその移動」を表示するように、ぜひとも早急に改めていただきたいと思います。台風201408号では幸い南海上で事故が起こらなかったとしても、今年7月~9月に似たような状況がまた生じないとも限りません。人命尊重を最優先するなら、従来の台風情報のあり方を躊躇なく変えるべきです。
もし私の提案に一部でも賛成していただけるなら、情報学の専門家のお立場から、気象庁に対する「緊急提言」のようなものを発していただけませんでしょうか。(もちろん私からも投稿いたします。)
たびたび、まことに恐縮ですが、ご回答いただければ幸いです。
これは気象庁台風情報(実況)とアメダス観測データとの食い違いおよび気象庁台風情報(実況)とアメダス観測データとの食い違いに関する再質問です。
まず「強風域の表示が適切でない」という問題、これには2つの側面があります。すなわち、1)情報量の問題と、2)人間の理解力の問題です。
第一に情報量の問題です。台風の強風域を「中心と半径」で表現するメリットは、少数の数字(情報量)で伝えられる点にあります。これなら、例えばラジオの読み上げでも伝えられますので、メディアの選択肢が少なかった昔は、これが唯一の現実的な解だったと考えられます。現在でも、ラジオに限らず屋外の情報端末(デジタルサイネージ)等、扱える情報量が限られているメディア向けに、文字情報や音声情報のみで伝えられる表現は必要です。一方、ウェブのように情報量に制限がないメディアでは、もっと豊かな情報を伝えられるのも確かですし、屋外でもスマートフォンが充実した情報を届けられる時代となりました。こうしたビッグデータの時代に合わせて、台風情報を再考してみることも必要だと考えています(参考:2012年度NII市民講座「クライシス情報学」)。
文字よりも画像の方がパッと見て大まかな理解が得やすいことを考えれば、情報の地図化という観点から、台風の強風域を地図情報としてより正確なものに改善することは一つの解決策です。とはいえ、人々が求めているのは本当に精細な地図表現なのか、ということも再考しておく必要はあります。私が思うに、人々が本当に必要としているのは、正確な情報というよりは自分が内容を理解でき、自分の今後の行動に反映できる情報(actionable information)です。そう考えたとき、強風域という地図情報を自分の行動に結び付けるには画像の適切な解釈が必要であり、それは多くの人にとって簡単ではないという問題も見えてきます。このことは特にビッグデータの時代に重要な点となります。ビッグデータの時代の利点は、大量かつ複雑なデータにアクセス可能となる点にあるとは言え、生のままのデータがゴロンと転がっているだけでは解釈できず、行動に反映できる情報とはならないからです。
ここで第二の問題である「人間の理解力」の問題が浮上してきます。人間の理解力にはスピードや知識の面で限界があるため、ビッグデータのような大量かつ複雑なデータは、むしろ「人間が扱えない」情報にもなり得ます。それを限られた時間で理解できるようにするには、どのように情報を加工・要約して出せばいいのか。それを考えるための一つの軸として、台風情報をグローバルな情報とローカルな情報に分類して考えてみましょう。
グローバルな情報とは、気象衛星ひまわり画像や台風の強風域のように、俯瞰的な第三者的視点による情報です。一方、ローカルな情報とは自分の周囲の天気といった、自分主体の視点による情報です。この2つの区別で思い出すのが、台風情報についてよく言われる批判である、「沖縄に強い台風が来ても報道されないのに、東京に弱い台風でも来れば大騒ぎになる」という批判です。大多数の人間は、遠くのことより近くのことが気になるものなので、人口も報道も関東地方に偏っている現状では、マスメディア情報が関東地方に偏るのも仕方のない現象です。そのことを批判するよりも、どうしたら東京以外の人にもローカル情報を届けられるのか、という点こそ考えるべきでしょう。これまでローカル情報を担っていたのは、主に地域色の強いマスメディアでした。しかし、ウェブメディアを個別化すれば、「あなたのための情報」を配信することも可能になるはずで、それはビッグデータ関連技術が解決すべき問題です。
こうしたアイデアに基いて作ったのが、台風なう!(@TyphoonNow)というサービスです。これは、自分のいる場所を問合せると、そこから見て台風がどこにあって、そこが強風域等に含まれているかを返信するサービスです。「地球上での台風の位置」という3人称的なグローバル視点でなく、「あなたから見た台風の位置」という2人称的なローカル視点で、個人化された台風情報を返信できるようにしています。このように台風情報の改善には、情報をより精細化するという道だけでなく、情報をより個人化するという道もあり得ます。そして私は、ビッグデータ時代の気象情報では、こちらの方が重要ではないかと考えています。ですので、強風域をより正確に(=複雑に)表現して人々がそこから読み取るという方法だけではなく、自分のいる場所が強風域に含まれるかどうかを端的に示すメディアを作るという方法も、今後は追究してみたいと考えています。もしこれが実現できれば、強風域の形がどうあるべきかという問題はかなり解消できるからです。
次に、温帯低気圧になると強風域が中心付近から外れる、という点について考えてみましょう。このことは以前から認識はされていたのですが、マスメディアでは台風情報の複雑化を避けるため、あまり強調されてこなかった面はあるかもしれません。理解を広めるためには引続き周知する必要があるというのは同感です。また、温帯低気圧になったら台風情報がなくなるのではないか、という点については、発達する温帯低気圧については台風情報として発表して警戒を促すように改善が計られています。ただし今回の温帯低気圧は、発達中ではなかったため、この対策は必要ありませんでした。
台風は気象現象として象徴的なので注目を集めますが、台風の状態変化(温帯低気圧への変化など)が必要以上に注目されるために、それが引き起こすハザード(大雨や強風)に対する注目が低下してしまうという状況は好ましくはありません。おそらく、個別の気象情報がバラバラで意味も理解しづらいことが、シンプルな台風情報に注目が集まる原因となっているのかもしれません。これらの多種多様な気象情報を台風情報とうまく統合し、全体像を表示(マッシュアップ)できれば、より的確な状況の理解につながることも考えられます。そうした点も今後の研究で解決していきたいと考えています。
なお個別の情報としては、以下のものがありますので参考にして下さい。まず台風が接近すれば、特別警報・警報・注意報データベースは各地で警戒すべき情報を伝えますし、気象庁防災情報XMLデータベースはその他にも多くの種類の情報を集約しています。また、降水量については雨雲レーダーやアメダス降水量から得られますし、風速についてもアメダス風向・風速から得られます。
最後に、台風情報を改善することはなかなか難しい、という点を指摘しておきましょう。台風情報を改善するには、以下のような手順を踏まなければなりません。1) 気象庁のシステムが新しい情報に対応できるよう改修する。2) 台風情報を伝達するためのフォーマットを更新する。3) 気象情報会社やマスメディアなどのシステムを新しいフォーマットに対応させる。4) 新しい情報を人々(特に防災担当者)が理解できるよう普及啓発活動を展開する。どの手順にもコストがかかるため、こうした正式ルートで台風情報を改善するのはなかなか大変なのです。このことを考えると、デジタル台風のような小回りの効くサイトやサービスで新しい試みを実験してみて、ソーシャルメディアやマスメディアの非公式なルートを通して展開していくというのが、影響力を強めていくための一つの方法と言えるでしょう。このようなボトムアップの試みから、新しい改善策を出していきたいと考えています。
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