2007年(平成19年)の台風に関する情報のまとめ

2007年12月30日

2007年(平成19年)の台風は、24個と平年よりもやや少ない発生個数で、それほど活発な年ではありませんでした。今年の大きな特徴は、沖縄や本州に勢力のピークで接近する台風が多かったことでしょう。これは発生位置が北に寄っていたのが一つの原因ですが、逆に言えば発達期間の短い小粒な台風が多く、太平洋のはるか南東の熱帯域で猛烈に発達して数日かけて日本に接近するような「本格派」の大型台風は一つもありませんでした。このような状況には、2007年春から継続しているラニーニャ現象も関係していると考えられます。また、台風から熱帯低気圧や温帯低気圧に姿を変えた後に影響を与えるというケースもありました。 まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風200704号 (MAN-YI) 沖縄本島付近を通過したあと鹿児島に上陸し、本州南岸沿いを関東沖まで進みました。7月に本土に上陸する台風としては過去最強クラスということで警戒されましたが、上陸時に台風が衰弱しつつあり、その後も台風の中心が海上を進んだことから、被害が大きくなったのは九州南部地方が中心で、むしろ選挙や連休の時期と重なって社会的な影響も広がりました。 台風200709号 (FITOW) 関東に東方からゆっくり接近して、関東南方で北に向きを変えるという、やや珍しい経路で関東に上陸した台風です。勢力としてはそれほど強いものではありませんでしたが、関東平野周辺の山間部で降水量が観測史上最大を記録する地点が続出するなど、群馬や栃木などの山沿いで特に被害が拡大しました。また山間部の記録的な降水量により、多摩川など関東各地の川が増水したことも大きく報じられました。 台風200711号 (NARI) / 台風200712号 (WIPHA) / 台風200715号 (KROSA) いずれも沖縄の離島を直撃した台風です。台風200711号は久米島、台風200712号は西表島、台風200715号は与那国島のほぼ真上を中心が通過しました。沖縄地方に台風が接近すること自体はいつものことですが、かなり強い台風が続々と島に「上陸」するというのは珍しいのではないでしょうか。各地では歴代上位の最大瞬間風速を記録し、強風による被害が発生しました。
台風から変わった熱帯低気圧や温帯低気圧が災害を引き起こしたケースもありました。台風200707号(WUTIP)は、台風としては消滅した後に熱帯低気圧として復活し、沖縄に大雨を降らせました。また台風200711号(NARI)は、韓国に上陸して温帯低気圧に変わった後に日本海を横断して東北地方に接近し、東北北部の各地では記録的な大雨による被害が拡大しました。これらのケースは、台風ではなくなっても大雨の危険性が低下するわけではない、ということを改めて示しています。

その他の地域の台風

昨年とは異なり、今年は東アジア・東南アジア地域でも比較的おだやかな年となりました。台湾には台風200708号(SEPAT)台風200715号(KROSA)という二つの強い台風が上陸しました。中国には、上記2つの台風が台湾を越えて中国本土にも上陸したほか、台風200712号(WIPHA)も上陸しましたが、住民の事前避難がおこなわれたこともあって、人的被害は比較的少なく抑えられました。ベトナムでは台風200714号(LEKIMA)による大雨の洪水被害が拡大しました。

ハリケーン

北大西洋のハリケーンは、平均よりやや多い発生個数と2個のカテゴリー5ハリケーンの発生という観点ではやや活発な状態とも言えますが、北西太平洋の台風と同様に小粒のものが多かったことまで含めると、それほど顕著な年ではなかったようです。大きな影響を受けた地域はカリブ海と中米が中心で、Hurricane Deanではハイチやメキシコ、Hurricane Felixではニカラグアで大きな被害が発生しました。

サイクロン

今年、世界で最も注目を集めたエリアといえば、北インド洋のサイクロンかもしれません。今年は強いサイクロンが2つ発生しました。 第一にCyclone GONUがアラビア海で発達してオマーンに上陸し、アラビア半島に上陸したサイクロンとしては過去最強のサイクロンとなりました。この海域でこれだけ強いサイクロンが発達すること自体が少ないですし、オマーンだけでなくパキスタンやイランなどの国がサイクロンの影響を受けるというのもかなり珍しいことです。 第二にCyclone SIDRがベンガル湾で発達してバングラデシュに上陸し、バングラデシュでは大規模な災害が発生しました。このサイクロンはバングラデシュに上陸したサイクロンとしては歴代上位に入るもので、ベンガル湾沿い低地における大規模災害の発生は上陸前から懸念されていました。そして結果的には、今回も死者数千人に達する大規模災害となってしまいましたが、ただしその規模は過去の同様のサイクロンに比べれば小さいことも確かで、それにはサイクロンシェルター等の防災インフラの整備が大きく貢献したとも言われています。

地球温暖化問題に関する動き

今年は気候変動に関する政府間パネル(IPCC : Intergovernmental Panel on Climate Change)とアル・ゴアが、ノーベル平和賞を共同受賞した年でもあります。そして、遠い将来からいまを振り返ってみると、2007年は地球温暖化問題における分水嶺の年と認識されるのではないでしょうか。これまで地球温暖化問題への対策はずっと「上り坂」だったのが、2007年に峠を越えて「下り坂」に入り、今後は次第にスピードが増してくるのではないかと思います。
地球温暖化問題の一つの重要な起点は、奇しくも今から50年前の1957年にあります。この年は国際地球観測年(IGY : International Geophysical Year)として、世界各地で各種の地球観測プロジェクトがスタートしましたが、その一つに「大気の二酸化炭素濃度を計測する」という、地味でささやかなプロジェクトがありました。カリフォルニア州スクリプス海洋研究所の海洋研究者だったロジャー・レヴェルは、工業化によって大気中に二酸化炭素が蓄積しているのではないかという問題に関心を持ち、チャールズ・キーリングを研究員として雇って二酸化炭素を測定するプロジェクトを開始しました。 キーリングは二酸化炭素濃度の測定という問題に情熱を燃やし、当時としては非常に高精度な測定器を開発して、1958年からハワイのマウナ・ロア山と南極で二酸化炭素濃度の測定を開始しました。キーリングは生涯をかけて、毎日ひたすら二酸化炭素濃度を測定し続けました。この長期間の連続的な測定によって、二酸化炭素濃度が季節変動すること、そして長期的に上昇を続けていることが初めて明らかになりました。特に後者の上昇トレンドは人間の活動が地球の大気を実際に変えていることの決定的証拠となり、測定データを表現した「キーリング・グラフ」は地球温暖化問題のシンボルとなったのです。 レヴェルはその後ハーバード大学に移りましたが、キーリングの測定データが二酸化炭素濃度の上昇を明瞭に示していたため、二酸化炭素濃度の問題と地球温暖化の可能性を世に訴えていきました。そんな1960年代末のハーバード大学で、ある一人の学生がレヴェルの講義を受けることになります。そしてその学生は、レヴェルが示したキーリング・グラフとそれが示唆する地球温暖化の問題に衝撃を受け、この問題に一生取り組んでいこうと決意します。その学生、すなわちアル・ゴアは、その後も地球温暖化問題に政治家という立場から関与していきました。 そして2007年、アル・ゴアは地球温暖化問題の啓発への取り組みが評価されてノーベル平和賞を受賞しました。地球温暖化への対策に否定的な意見が多かった米国でも、ハリケーン「カトリーナ」大災害やエネルギー価格高騰などをきっかけに、もはや地球温暖化対策は避けられないもの、積極的に取り組むべきものとの認識が強まりつつあるようです。地球温暖化問題はレヴェルとキーリングがささやかな測定を始めてから50年の歳月をかけて、ついに人類の命運を左右する問題として世界を動かすことになったのです。
アル・ゴアとノーベル平和賞を共同受賞したIPCCは、こうした地球温暖化問題を科学的に議論するための組織ですが、今年はIPCCから第4次評価報告書が発行された年でもあります。最新の報告書はすべて無料でIPCCのウェブサイトにて閲覧できます。数千ページに達する膨大な報告書ですが、興味のある方はぜひお読みください。ただし英語です。 日本語については気象庁が、IPCC 第4次評価報告書として概要を公開しています。その中から、まずIPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約(2007,確定版)を選び、熱帯低気圧について述べている部分を以下に抜粋してみます。なお原文は2007年2月2日に公表されたものです。また以下で「可能性が高い」は66%以上の発生確率を意味し、「熱帯低気圧 (Tropical Cyclone)」はハリケーンや台風を含む用語です。 近年の気候変化に関する直接的な観測結果
1970年頃以降、熱帯の海面水温の上昇と関連して、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきたことを示す観測事実がある。この他、強い熱帯低気圧の活動度に増加傾向が示唆される地域がいくつかあるが、データの品質にはより大きな懸念がある。数十年周期の変動があることや、1970年頃に開始された定常的衛星観測以前の熱帯低気圧データの品質は、熱帯低気圧の活動度の長期変化傾向の検出を難しいものにしている。熱帯低気圧の年間発生数に明確な傾向はない。
将来の気候変化に関する予測
広範なモデル予測によれば、熱帯域の海面水温上昇に伴って、将来の熱帯低気圧(台風及びハリケーン)の強度は増大し、最大風速や降水強度は増加する可能性が高い。それと比べて世界的に熱帯低気圧の発生数が減少するとの予測については信頼性が低い。1970年以降、いくつかの地域で非常に強い熱帯低気圧の割合が増加しているように見えるが、この増加は、現在のモデルによる同期間を対象としたシミュレーション結果よりかなり大きい。
次に、より最近の2007年11月17日に承認された、IPCC第4次評価報告書統合報告書政策決定者向け要約(2007,仮訳,文部科学省・経済産業省・気象庁・環境省)(リンク先は環境省)から、熱帯低気圧に関する記述を抜粋してみます。 気候変化とその影響に関する観測結果
1970年頃以降、北大西洋の強い熱帯低気圧の強度が増してきたことを示す観測事実があるが、その他の地域については、増加についての証拠は限られている。熱帯低気圧の年間発生数に明確な傾向はない。熱帯低気圧の活動に関する長期的傾向、特に1970年以前の傾向を確かめることは困難である。
予測される気候変化とその影響
熱帯低気圧の強度が増大する可能性は高い。世界的に熱帯低気圧の発生数が減少することの確信度は低い。

以上、熱帯低気圧と地球温暖化に関係する記述をIPCC報告書から抜粋してみました。このような科学的な記述は、客観的で正確でなくてはならないために表現が固くなっていますが、これをもっと主観的にざっくばらんに表現してみると、以下のようになるでしょうか。 観測結果 熱帯低気圧は1970年以来強くなってきたようにも見えるんだけど、そもそも解析に使ったデータはどのくらい信用できるの、というのも実は心配なんだよね。とりあえず大西洋のハリケーンに関しては、どうも強くなってきたような感じがする。けれども、その他の地域、例えば台風については、年ごとの変動が大きくて長期の傾向があまりはっきり見えてこない。いや実は、熱帯低気圧が「地球温暖化のため」に強くなったというのも、まだ確実なこととは言えないんだ。というのも、理論やシミュレーションからはそこまで強くなったという状況を説明・再現できてないし、そもそも強さは自然に変動するものだから。本当はもっと長期のデータで変動を調べたいんだけど、1970年以前のデータにはいろいろ問題があってね。。。 将来予測 熱帯低気圧は強くなるという予測はそれなりに信用できそうだけど、熱帯低気圧の個数が減るという予測は本当かどうかよくわからないな。個数が減るという説にもそれらしい説明がつけられるんだけど、なんとなく後付けっぽさもあるんだよね。それに現状のシミュレーションモデルでは熱帯低気圧をきちんと再現できてないという限界もある。まあ個数については、とりあえず今はそんな結果が出てますよ、ってあたりでまとめとくか。。。
IPCC報告書では、これまでに公表された膨大な科学的知見ができるだけ公平な視点から取り入れられているはずですが、報告書にまとめる以上は特定の視点が相対的に強まることも避けられません。しかし熱帯低気圧に関しては、観測結果および将来予測ともども研究者ごとに様々な意見があり、IPCC報告書が出た後も議論が続いています。少なくとも、観測結果に関する議論を解決するカギとなるのは、熱帯低気圧関連データを網羅したデータベースの構築でしょう。世界でもいくつか、そうした方向性で過去のデータの洗い直し(再解析)が進んでいます。次のIPCC報告書が取りまとめられる頃には、熱帯低気圧に関する理解はさらに深まっていることでしょう。

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