2019年の台風に関する情報のまとめ

2019年12月31日

2019年の台風の発生個数は29個、台風上陸数は5個と、いずれも2018年と同数となりました。特に台風被害が大きかったのは、台風15号による暴風、台風第19号による大雨、暴風でした。

台風15号

台風15号は、大型の台風ではなく小さくまとまったタイプの台風でしたが、日本列島に接近するにつれて発達を開始し、ほぼ勢力のピークに達したところで関東地方に接近・上陸しました。進行方向の右側に入った房総半島では、千葉市で最大瞬間風速57.5m/s(歴代1位)を記録するなど、暴風による大きな被害が発生しました。台風被害データベースを見ると、速報段階で住家被害が7万軒を越えており、関西地方で大きな被害となった昨年の台風201821号の9万軒に迫る規模に達しています。さらに房総半島の森林には暴風に弱い木があったため、各地で多数の倒木が発生して、交通および停電の復旧に対する障害となりました。 千葉県はこの後にも、10月前半には台風19号の直撃を受け、さらに10月後半には台風21号低気圧等による大雨で想定以上の大雨被害が生じるなど、今年は台風によるトリプルパンチを受ける形となりました。

台風19号

台風19号は当初から大型で勢力が強かったため、接近するかなり前から警戒が呼び掛けられ、気象庁は狩野川台風の再来として警戒を呼び掛けました。しかし、台風による雨量が記録的となったため、被害は関東から東北までの東日本全域に広がり、東日本大震災以来の広域災害となりました。 例えば箱根では12時間降水量が729.5mmに達し、従来のアメダス日本記録である高知の695mm(1998年09月24日)を大きく越える記録的な大雨となりました。そして台風からの暖かく湿った風が長時間にわたって吹き付けた関東西部の山沿いで雨量が増加し、関東各地の河川では水位が上昇、堤防からの越水や内水氾濫などによって各地で浸水害が発生しました。 一方、長野や福島などでも、台風の前面に発生した前線によって雨量が増加することになりました。気象庁が公表した「令和元年台風第19号に伴う大雨の要因について」によると、台風の北側で大陸の高気圧と台風との気温差が大きくなり、台風周辺の暖かく湿った空気の先端にあたる領域で前線が形成されたことが、大雨の要因の一つとして考えれるとのことです。このような前線が形成されるのは秋の大型台風の怖いところで、例えば台風200423号でも同様の現象により大きな災害となりました。台風が接近する前から降り続いた大雨により、各地の河川は同時多発的に氾濫して行政の対応能力を越え、死傷者も100人に迫る規模に拡大してしまいました。

台風19号による社会へのインパクト

台風19号が社会に与えたインパクトの大きさはニュース記事の数にも現れています。デジタル台風では2003年以来、Yahoo!ニュースの台風関連記事を収集しており、記事が言及する台風を自動認識(固有表現認識)して台風ごとのニュース記事数ランキングを作成しています。これによると、台風19号の記事数は14,000件を越えて今も増えつづけており、2ヶ月あまりで圧倒的な1位となっています。 水害などの災害報道にとどまらず、北陸新幹線車両基地の水没による交通への影響や、ラグビーワールドカップに関するスポーツへの影響、そして文化財の水没など、社会への影響は多面的に拡大しました。地震については東日本大震災のニュース記事が膨大な数に達していますが、台風については最近20年ほどで最大のインパクトを社会に与えたのが台風19号であると言えます。一方、災害の続発に対する社会の変化も生じつつあります。台風の接近に合わせた計画運休や計画閉店などは社会的な合意を得るようになり、ハザードマップなどを含めた災害への事前の備えへの注目も高まりました。リスクから目を背けることは良くないと考える人々が増えてきているように感じます。 個人的には、河川情報やハザードマップへの注目が高まったことが印象に残りました。首都圏を中心に河川水位が上昇するにつれて、国土交通省の川の防災情報にはアクセスが殺到してダウン、そしてハザードマップや避難所情報を提供する地方自治体のウェブサイトもアクセス不能となるところが相次ぎました。デジタル台風も、以前から指定河川洪水予報データベースを提供していましたが、いざ自分で使おうとすると欲しい情報を入手するのに手間取ることがわかりました。昨年の平成30年7月豪雨でも河川情報とハザードマップが必要とされたはずですが、その際に自分のこととして使い倒せていなかったことを反省し、それ以来データベースの改良に着手しています。

気候変動への関心の高まり

ここ数年、大規模な気象災害が続発する状況を見て、気候変動(地球温暖化)に対する人々の懸念も高まってきました。日本国内を見る限りでは気候変動に対する関心もどこか盛り上がりに欠ける感がありますが、世界規模で見れば今年は若者を中心に気候変動に対する運動が大きく広がりました。特にスウェーデン出身のグレタ・トゥーンベリさんは、まだ16歳ながら世界の運動のシンボル的存在となって、気候変動に対する人々の関心を高める役割を果たしています。 このように世界では大きなムーブメントが起こっているのに対し、なぜ日本国内では気候変動に関する議論が盛り上がらないのでしょうか。その一つの原因に、「脱炭素」と「脱原発」のねじれ現象があるような気がしています。気候変動に対する中心的なメッセージは「脱炭素」です。温暖化対策を進めるには炭素を放出する化石燃料の消費を減らすことが重要であり、特に二酸化炭素の排出が多く環境にも悪影響を与える「石炭火力発電」が目の敵にされています。石炭火力発電プロジェクトに融資する金融機関が非難されるようになり、企業はSDGs (Sustainable Development Goals)を旗印に新しい時代の波に乗ろうとしています。 そんな中、日本で環境に関心がある層は、福島第一原発事故を契機に「脱原発」へと向かいました。そもそも原子力発電が福島第一原発事故の前まで「ルネサンス」と呼ばれるほど注目されたのは、それが「脱炭素」に有効であると考えられたからでした。そうした注目はさすがに福島第一原発事故で終わりを迎え、原子力発電が脱炭素の切り札であるという論調は消えました。とはいえ、気候変動には脱炭素が必須であり、それを実現するには化石燃料の消費を減らす必要がある、という原則に変化はありません。脱炭素と脱原発の両方を見据えなければ世界と共有できるメッセージとはなりづらく、それが歯切れの悪さにつながっている気がしています。 では再生可能エネルギーはどうでしょうか。長期的に再生可能エネルギーの割合が高まれば、脱炭素と脱原発は両立しますので、そこに期待をかける人も多いでしょう。ところが再生可能エネルギーには一般的にコストが高いという問題があるため、導入を促進するには政策的なインセンティブによって価格を下げる制度設計が不可欠となります。しかし望ましい結果を得るための制度設計が難しいという課題があります。 例えば日本の制度設計では、太陽光発電の買取価格を高く、規制を緩くし過ぎたために、太陽光発電所が無秩序に爆発的に増加し、自然を破壊する危険な太陽光発電所に対する反対運動が各地で始まる事態となりました。またバイオマス発電所についても、海外からパーム油やパーム椰子殻を輸入する事業が増え、それが熱帯雨林の破壊につながるとの反対意見が出ています。様々な利害関係が複雑に絡み合う気候変動とエネルギーの問題は、あるイデオロギーを信じればすべて解決するというシングルイシューの図式に頼ることなく、理論やモデルを学び、実際のデータを分析し、単純化しすぎずに問題を考え抜く力が求められます。

情報の面から何ができるか?

今すぐに気候変動への対策を始めても、今後もしばらくは現在の変化が続きます。その過程では、気象災害が激甚化することもあるでしょう。とはいえ、このような激甚災害は今に始まったわけではなく、過去にも巨大な気象災害があったことは覚えておくべきでしょう。今年の台風19号は確かに強力だったかもしれませんが、昭和の三大台風と呼ばれる室戸台風、枕崎台風、伊勢湾台風などの「化物級」台風の勢力に匹敵するとは言えないように思います。地球が温暖化するしないにかかわらず、現在よりも強い台風が日本にやってくる可能性は常に残っているのです。 そんな時代における私の課題は、情報の面から何ができるかという点にあります。デジタル台風プロジェクトを開始して今年で20周年を迎えましたが、この間に防災や気候変動の面で具体的に何か貢献できたのかと問われれば、ほとんどないでしょうと言わざるを得ません。デジタル台風はそうした問題に対する答えを提供することはほとんどありません。むしろデジタル台風の役割は、そうした問題に対する正確な認識を高めるためのデータやツールを提供する点にあります。問題への答えを提供するよりも、問題を考える能力を提供すること、そこに力を注ぎつつ、激甚化する気象災害に立ち向かうためのデータとツールを今後も提供していきたいと考えています。これを使って人々がよりよい認識を得られるようになれば、デジタル台風はその役割を果たせたと言えるでしょう。

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