2012年(平成24年)の台風に関する情報のまとめ

2012年12月30日

2012年(平成24年)の台風の発生個数は25個と、ほぼ平年並でした。今年は沖縄・奄美への接近が特に多く、平年値の7.6個に比べて12個に達しました。また伊豆諸島・小笠原諸島への接近数も平年値の5.4個に比べて9個と多い年でした。まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風201204号 (GUCHOL) 6月の台風であるにもかかわらず、秋の台風のようなコースで南西諸島から本州南岸までを縦断した台風。人的被害は少なかったものの、広範囲に影響が生じました。 台風201215号 (BOLAVEN) 猛烈な勢力で沖縄本島に接近することが予想されたため、沖縄気象台が最大級の警戒を呼び掛けた台風。結果的に恐れていたほどの強風とはなりませんでしたが、台風の眼が沖縄本島の中部をゆっくりと横切ったため、観測所のほぼ真上を台風が通過してデータの検証が可能となりました。 台風201216号 (SANBA) 中心気圧では今年最も低い900hPaを記録し、その後に沖縄本島への接近が予想されたため、沖縄気象台が再度の警戒を呼び掛けました。この台風も再び沖縄本島を直撃しましたが、通過後のコースが前の台風よりも奄美寄りだったことから、奄美諸島での被害も拡大しました。 台風201217号 (JELAWAT) 中心気圧では今年2番目に低い905hPaを記録した後、またまた沖縄本島に接近した台風。沖縄気象台は今年3度目となる警戒を呼び掛けましたが、実際には本島で観測した強風はこの台風が最も強くなり、各地で強風による被害が生じただけでなく、奄美諸島でもさらに被害が拡大しました。 以上のように、沖縄本島への台風の3連続直撃と、それによる奄美諸島を含めた地域での大きな被害というのが、今年最大の出来事だったように思います。この3連続直撃のまとめについては台風201217号の記事にありますのでここでは繰り返しません。ただ、気象台が積極的に警戒を呼び掛ける方向に一歩を踏み出したことは、今年に見られた前進の一つだと捉えています。

その他の地域の台風・ハリケーン

日本以外で台風の影響を大きく受けたのはフィリピンです。特に12月にミンダナオ島に上陸した台風201224号は、ミンダナオ島南部という台風が比較的まれな地域において過去数十年で最強の勢力をもつ台風として上陸し、死者1000人、行方不明800人という大災害を引き起こしてしまいました。ミンダナオ島では台風201121号によるミンダナオ島北部の災害に続き、2年連続で犠牲者1000人以上の大規模台風災害が発生したことになります。その大きな要因ともなっている無秩序な開発をどう抑えて災害を減らしていくか、フィリピンが解決すべき大きな課題です。 またこの台風は、赤道近くを発達しながら進んだという意味でも異例の台風となりました。台風は赤道上では渦を維持することができないため、赤道近くでは発生しづらいし発達もしにくいのですが、今回の台風は赤道近くを進みつつ発達したため、ミンダナオ島南部という赤道に近い地域に稀な勢力で接近することになりました。赤道に近い地域は台風が少ないということが一つのウリともなっており、そのために例えばフィリピンのバナナ栽培はミンダナオ島が中心産地となってきました。しかし今回の台風では収穫間際のバナナが壊滅状態となった農園もあり、ミンダナオ島への台風接近が今後も増えるのであれば、こうした産業の前提条件も見直す必要が出てくるかもしれません。昨年以来ミンダナオ島への台風接近が増えていることもあり、これが一時的な現象なのかを見守っていく必要があります。 さらに大西洋ではハリケーン「サンディ」による大きな被害が記憶に残りました。このハリケーンは2005年のハリケーン「カトリーナ」に続く、史上2番目に被害額が大きいハリケーンとなる見通しで、特にニューヨーク周辺における高潮被害と強風被害は世界に衝撃を与えました。ニューヨークでは潮位のピークと高潮のピークが重なったため、潮位偏差で約3メートル、基準低位面よりも4メートル以上高い潮位に達し、大規模な浸水被害を引き起こしました。またこのハリケーンが上陸した時は、ちょうど温帯低気圧に変わりつつ再発達するタイミングであったため、情報の取り扱いについても議論がありました。台風と温帯低気圧の違いは気象学的には意味のある区別ですが、防災上は両者を区別することにあまり意味はありません。また例えばハリケーンに対する保険は温帯低気圧でも下りるのかなど、この概念の区別はそうした金融上の問題にも関わってくるようです。日本でも台風から温帯低気圧に変わるタイミングでの警報については、「台風ではなくなった」という情報を出すと警戒が緩むのではないかという懸念が以前から指摘されています。防災上有用なわかりやすい言葉が必要なのかもしれません。

台風の活動度

今シーズンの台風の活動度ですが、災害情報データベースの台風強度指数データベースを使って、台風シーズンごとの強度指数を調べてみます。すると2012年はほぼ平均的な年となりました。強い台風と弱い台風が適度に混ざっていた年であると言えそうです。

地球温暖化対策は踊り場に

毎年取り上げている地球温暖化の問題にも触れておきましょう。依然として地球温暖化の問題は重要であるものの、政治の場での交渉はややマンネリ化して踊り場に入り、注目度も下ってきたような印象があります。京都議定書から15年を経て温暖化対策は定常状態に入り、政治的に新鮮なテーマとしての価値が徐々に落ちてきているのかもしれません。その要因はいくつかあるでしょう。
  1. これまで枠組みを主導してきたヨーロッパの影響力がユーロ危機でやや心配な状況にあり、他の国も経済があまり好調ではない中で、革新的な取り組みを始めることは難しい。
  2. 温室効果ガスを大量排出する新興国を枠組みに引き込む手段が見当たらずに手詰り感がある。
  3. シェールガスなどの非在来型化石燃料に関する技術革新(シェール革命)によって天然ガスと石油の生産量が増大し、京都議定書当時とはエネルギー勢力分布が様変わりした。
  4. 福島第一原発事故の影響とシェール革命により、原子力ルネッサンス(原子力発電による温室効果ガス削減というストーリー)もやや色褪せてきた。
  5. 再生可能エネルギーの普及(例えば発電のための固定価格買取制度(FIT)等)や省エネルギーの推進などに関する個別の取り組みは当たり前のことになった一方で、その負の側面も見えてきたため、全世界的な規模で共通の枠組みを見出すことが難しくなってきた。
確かに上記のような世界情勢の変化により、京都議定書の枠組みは古びてしまったような感もあります。しかし気候変動の問題自体が消えたわけではなく、温室効果ガスは今日も放出されて大気中に蓄積しています。結局のところ、この問題の本質は文明の持続可能性の問題であって、それを考える上では地政学的な覇権争いの問題と経済的な利益追求の問題も切り離せないわけです。京都議定書等の「地球温暖化対策」は、この3つの問題を同時にかつ自分に有利な形で解決する一つの構想として生まれたものですが、その構想の前提条件が変わればその有効性が問われる状況となるのもやむを得ないでしょう。 ただし、「文明の持続可能性」とそれに影響を与える可能性がある「気候変動(地球温暖化)」の問題が、上記の情勢変化によって消えたわけではありません。あくまで文明・政治・経済への重点の置き方が変化しているだけであり、そのバランスとして構想される地球温暖化対策と、その原因としての地球温暖化問題とは、区別して考えなくてはなりません。例えば、前者を否定するために後者までを否定するというのは、問題の混同だと思います。両方とも多くの要因が絡まる複雑な問題であるため、全体像を理解するのは困難ではありますが、我々に可能なことは現状に甘んじることなく着実に進めていくべきでしょう。 また、今年のフィリピンや米国における熱帯低気圧災害は、これまでは比較的災害が少なかった場所で発生したものです。これが気候変動の影響かどうかは未知であるとしても、こうした場所での災害への備えを新たに始める必要も出てきていると考えられます。北極海での氷の面積が減少することによって日本の気候にも影響が出る可能性が指摘されるなど、世界で発生する種々の現象はつながりを持っています。来年後半あたりから徐々にIPCCの新しい第5次報告書(AR5)の姿が見えてくる予定で、こうした科学的データや知見に基づいた対策をいかに政治と経済の場に結び付けていくかが大きな課題になるでしょう。

台風ニュース・ウェブログの10年

さて、このコーナー台風ニュース・ウェブログも、実は10周年を迎えました。一番最初の記事は台風200226号の記事で、2002年12月10日と今から10年前の日付が入っています。もともとこのコーナーが生まれたきっかけは、当時の「デジタル台風」が過去データしか提供しておらず、リアルタイムデータの提供ができなかったことにありました。プロジェクト10年の歩みにあるように、デジタル台風はもともと研究のデモシステムとして始まったため、当初はリアルタイムデータの提供を対象とはしていなかったのです。しかし、Typhoon Pongsonaによってグアムに大きな被害が出た (Wikipedia)とのニュースや、Cyclone Zoeによってソロモン諸島によって大きな被害が出た (Wikipedia)とのニュースを受けて、Typhoon PONGSONACyclone ZOEに関するデータがせっかく手元にあるのだからまとめてみよう、と考えたのでした。そして、そうしたデータを提供するページはどんな位置付けにするのがいいだろうということで、当時流行りはじめていたブログに着目しました。 ただしブログを完全に真似るのではなく形式を少し変えました。それは、記事ごとに独立したページにするのではなく、台風ごとに独立したページを作るという点です。その理由は、複数の台風が発生したときに記事の順序に混乱が生じるのを防ぐことにあり、同様のコンセプトはこの後に開発した多くの機能にも受け継いでいます。ただし、こうするとブログと全く同じ形式ではなくなるため、ページのネーミングには少し迷いがありました。最初はウェブログという言葉を使うのが気恥ずかしく(?)、単に「ログ」という名前を使いました。しかし「ウェブログ」の流行に負け、2003年の半ばあたりからやっぱり「ウェブログ」という名前を使うことにしました。またその当時は「ブログ」という言葉もメジャーになりつつあったため、いっそのことそちらにすることも考えたのですが、あまりに流行の後追いっぽい感じがしてやめました。こうして台風ニュース・ウェブログという名前が決まり、台風ごとにページを作っていく作業が始まったのでした。 それから10年。最初から長期的なプランがあったわけではありませんが、結果的に今日まで続くページとなりました。デジタル台風は最初に比べるとデータの種類は飛躍的に充実しましたし、ソーシャルメディアからの情報も取り込んでいます。開始当初の状況とは異なり、もしかすると今は他のデータだけでこのブログを代替できるのかもしれません。とは言え、私自身がこのブログに関与していることが、デジタル台風が「生きたデータベース」であり続けることに不可欠の要素になっているという気もします。であれば、私が筆者になるかどうかはともかく、誰かがこうしてテキストを書き続けることが、データベースの一つの重要な側面なのかもしれません。 またこのブログは、従来はウェブページとフィードというルートのみで提供していましたが、今年からの新しい試みとして、一部の記事をフェイスブックと連動させました。そして、ブログと呼びながらも実は双方向性がなかったこのページにも、初めてコメントを寄せられるようになりました。これまでのフィードバックによる方法よりも、さらにリアルタイムで情報共有する可能性が生まれていると思います。従来から活用してきたツイッターも含め、デジタル台風とソーシャルメディアとのよい形での融合を来年以降も考えていく予定です。

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