2010年(平成22年)の台風に関する情報のまとめ

2010年12月31日

2010年(平成22年)の台風の発生個数は14個と、従来の最小記録である1998年の16個を破り、1951年以来最小の発生個数を記録しました。日本への上陸台風は2個ありましたが、いずれも日本海側からの上陸だった点が特徴的で、台風201009号の北陸地方上陸はもう一つの「1951年以来初」の記録となりました。沖縄への接近数は6個と平年(7.0個)より少なめ、伊豆諸島・小笠原諸島への接近数も2個と平年(5.0個)よりかなり少なめでした。全体的に台風の経路は西に偏っており、東経150度より東側の領域には台風の通過がありませんでした。 まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風201009号 (MALOU) この台風は1951年以来初めて福井県に上陸し、北陸地方としても初の台風上陸という記録を残ることになりました。勢力としては決して強いものではなく、上陸直後に熱帯低気圧に変わりましたが、強い雨雲を伴っていたために、静岡県(小山町)から神奈川県(山北町)にまたがる地域で記録的な大雨となりました。また東京や千葉などでも一時的に強い雨が降り、各地で氾濫が発生しました。 台風201014号 (CHABA) 沖縄方面から本州南岸に接近し伊豆諸島を抜けるコースを取りました。台風予報では本州が予報円に含まれていたために注目度は高く、多くのイベント開催などにも影響が波及したため、結局のところ各地への直接的な影響は限定的だったものの今年のアクセスランキングでは首位となりました。

その他の地域の台風

昨年に比べると、アジア各地での台風による災害の規模は小さくなりました。その中でも大きな被害を引き起こしたものを挙げれば、台風201002号によりフィリピンで死者約100人の被害、台風201011号により中国を中心に死者約100名の被害、そして台風201013号によりフィリピンや台湾で死者約70名の被害、などとなります。 この中でも特に注目を集めたのは台風201013号です。この台風は26年ぶりに中心気圧885hPaを記録するなど近年では最強の台風となりました(気圧・経路図)。近年は中心気圧が900hPaを切るような猛烈な台風が少なかったのですが、この台風については信頼できる航空機観測データが得られたようで、ドボラック法だけでは推定困難な(?)非常に低い中心気圧を発表できたのかもしれませんん。ただし事前の警戒が行き届いていたことと、人口があまり多くはない地域を通過したためか、フィリピンでの人的被害はそれほど拡大せずに済みました。

台風の活動度

今シーズンの台風の活動度ですが、災害情報データベースの台風強度指数データベースを使って、台風シーズンごとの強度指数を調べてみます。すると2010年は、1998年1999年などと並んで、もっとも台風の活動が低調な年の一つとなりました。もちろん、そもそも発生個数が少ないので当然の結果とは言えますが、1999年が1998年と並んで2年連続で活動が低調であったことは注目すべきかもしれません。エルニーニョ/ラニーニャ現象のような大規模な変動は1年〜2年単位でゆっくり変化しますので、前回と同様の経過をたどるとすれば、2011年も低調な年になるのかもしれません。

ハリケーンとサイクロン

中央太平洋と東太平洋のハリケーンも記録的に少ない発生数となり、太平洋全域で異常に静かなシーズンとなりました。一方で北大西洋のハリケーンは発生個数が多く、2005年の記録(ギリシャ文字ハリケーンの年)に次ぐ発生個数となりました。中米などで被害がありましたが、米国本土にハリケーン勢力で上陸した熱帯低気圧は1個もなかったため、発生個数が多い割には米国本土での被害は極小にとどまりました。 一方、インド洋のサイクロンですが、Cyclone Phetが上陸したオマーンで死者44人、Cyclone Giriが上陸したミャンマーで死者157人、Cyclone Jalが上陸したインドで死者117人など、各地で被害が相次ぎました。ここ数年、静穏な太平洋と、活発な大西洋・インド洋という傾向が定着しているような印象があります。これは数年〜数十年単位にまたがる大気の振動の現れなのかもしれません。

台風の減少と地球温暖化

なんと言っても今年最大の話題は「台風がたった14個しか発生しなかった」ことでしょう。台風の発生個数が少ないことは、すでに夏ごろからは話題になっていました。8月の2010年の台風はなぜ、少ないのですか?という質問の時点では、もしかして最小記録達成?という程度の状況でした。しかし11月の2010年の台風の発生数という質問の時点では、最小記録達成の可能性がかなり強まりました。そして11月から12月にかけて、最小記録達成を確実とするかのように北西太平洋は強い太平洋高気圧の支配下に入り、見事に晴れ渡る状態がずっと続きました。それに対して南シナ海からインド洋に至るエリアには積乱雲も湧き、いくつかは台風の卵も発生しましたが、実際に台風に至るまで発達することはありませんでした。そしてついには史上初の「11月〜12月に台風がゼロ」という記録もオマケにつく形で、1951年以来史上最小の発生個数が記録されることとなりました。 今年がこのような状況になった最大の原因は、2010年の台風はなぜ、少ないのですか?にも記した通り、エルニーニョからラニーニャへの急激な転換にあったと思います。気象庁のエルニーニョ/ラニーニャ現象のページによると、現在はラニーニャのピークに達しており、その影響で対流活動が活発な領域は南シナ海からインド洋に移っています。一方でフィリピン東方から太平洋にかけては大気の下降域となっているのか、活発な雨雲はほとんど見られません。このような状態では、ふとした拍子に台風が発生することはあっても、連続的にいくつも発生するような状態は起きにくいでしょう。 さてこのような台風の減少は今年だけなのでしょうか。ラニーニャは今年の冬がピークで徐々に消えていくとの予想が出ていますが、そもそもエルニーニョ/ラニーニャ現象は年単位でゆっくり変動する現象ですので、1998年の翌年の1999年も活動が低調だったような状況が再現する可能性はあると思います。また地球温暖化については、これよりもさらにゆっくりした傾向で進む気候変動ですので、今年の台風減少の主な原因がこれである可能性は低いと考えます。とはいえ、これとは別の意味で、地球温暖化の影響を感じた年でもありました。 気象庁による2010年(平成22年)の世界と日本の年平均気温について(速報) によると、2010年の世界の年平均気温の平年差は+0.36度で、1891年以降では1998年に次いで2番目に高い値になるそうです(ちなみに陸域のみでは+0.68度と史上1位)。あれ、この1998年、これまでにも度々登場した年ですよね。そうです。今年と台風発生の最小記録を争った年です。となると、このように考えることはできないでしょうか。すなわち今年は、地球温暖化後の世界を垣間見せてくれた年なのではないかと。 地球温暖化シミュレーションによると、温暖化した地球では台風の発生数は減るけれども、時々これまでよりもさらに強力な台風が発生するというのです。まさに今年はそんな年でもありました。もちろんこれはかなり大雑把な類推ですし、シミュレーションが正しいという保証もないので、本当のところは私にもよくわかりません。また熱帯低気圧全体で見れば、大西洋で多く太平洋で少ない状況が続いていますので、今年の状況は地球全体の傾向というよりは地域的な傾向を示すものである点も忘れてはなりません。地球温暖化シミュレーションについては、2013年〜2014年頃のIPCC第5次評価報告書(AR5)に向けて地域性をより考慮したシミュレーションが進んでいますので、北西太平洋の台風の将来についてもより詳細な姿が見えてくることを期待します。 一方で地球温暖化に関係する政治の世界は混乱を極めているように見えます。地球温暖化問題は、もはや単に環境を守るための運動ではなく、大きな経済的影響をもたらす問題となっているため、各国の利害は激しく対立しています。その中で自国の利害がいまいち不明瞭な(?)日本は各国の思惑に振り回されてしまっているような感じで、メキシコで12月に開催されたCOP16で京都議定書の単純延長に反対した日本は、ついに悪者扱いを受ける事態にまで至りました。それにもかかわらず、日本国内の関心は以前に比べると薄れているようにも思えます。また夏の記録的な猛暑に気勢を削がれてしまったか、地球温暖化に対する懐疑論も一部にとどまって広がりを見せず、なんとなく尻すぼみのような感があります。とはいえ、二酸化炭素などの温室効果ガスは今日も大気中で増加を続けています。たとえ関心が薄まったとしても、その増加を抑えるための対策が不必要になったわけではありません。 地球の高温化と台風の減少。今年の状況でいえば、それらの間に直接の関係があったというよりは、エルニーニョ/ラニーニャという大気と海洋の変動が両者に影響を与えたと見るのが適切でしょう。しかし、このような大気と海洋の状態が地球温暖化の影響で将来はより頻発するのだとしたら、あるいは台風減少社会(?)も現実のものとなるのかもしれません。

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