2009年(平成21年)の台風に関する情報のまとめ

2009年12月30日

2009年(平成21年)の台風は、22個と平年よりも少ない発生個数で、2008年と同じ発生個数となりました。今年は2年ぶりに日本への上陸台風がありましたが、全体的に日本への接近するは平年よりも少なく、特に沖縄・奄美への接近数が3個(平年7.2個)と本土への接近数よりも少ないのが特徴的です。その一方で、伊豆諸島・小笠原諸島への接近は7個と、平年の5.0個を上回りました。全体的に見て台風の経路は南方に偏っていたようです。 まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風200909号 (ETAU) この台風の周辺の湿った空気が南から西日本中心に入り込み、各地で大雨となりました。特に兵庫県には強い雨雲がかかって、佐用郡佐用町では死者18名、行方不明者2名の豪雨災害が発生しました。この台風では、急激な大雨による河川の水位上昇に対して、避難情報の発令と伝達が追い付かず、避難途中に多くの方が亡くなるという痛ましい事故がありました。犠牲者の中には家にとどまっていた方が結果的に安全だったと思われる場合もあったことから、災害時における避難方法について再考する気運が高まる契機ともなりました。 台風200918号 (MELOR) 台風200709号以来、2年ぶりの本土上陸台風となりました。発生以来のコースがちょうど50年前の伊勢湾台風を想起させたことから、特に紀伊半島から伊勢湾沿岸にかけて警戒が高まりました。三河湾では当時の伊勢湾台風を上回るような高潮も観測されましたが、台風の勢力とコースから伊勢湾ではそれほどの高潮とはなりませんでした。愛知県では人的被害は小さかったものの被害額としては過去20年で最大、また茨城県では竜巻も発生しました。

その他の地域の台風

今シーズンもアジア各地で台風による大きな被害が発生しましたが、最大のインパクトを与えたのは台湾を直撃した台風200908号(MORAKOT)でしょう。台湾南部では2800mmにも達する記録的な大雨となって、山岳部の各地で土砂災害が発生し、特に小林村では村がほぼ丸ごと土砂に飲み込まれてしまいました。台湾での死者は619名、行方不明者は76名となっています。このような大きな災害に対して政府の対応が後手に回ったことから、政府への批判が高まって閣僚が辞任するなど、政治の面でも大きな影響を与えました。 2009年の後半にはフィリピンでも大きな災害が発生しました。台風200916号(KETSANA)から台風200917号(PARMA)台風200921号(MIRINAE)と、1ヶ月の間に3個の台風がフィリピンを襲いました。その中でも台風200916号によるマニラ首都圏の水害と台風200917号によるルソン島北部の災害が大きく、フィリピンでの死者は両方とも450人超、合計で1000人近い犠牲者に達しました。いずれの台風も勢力としてはそれほど強いものではありませんでしたが、最初の台風ではマニラ首都圏における短時間の集中豪雨、そして次の台風ではルソン島北部付近における台風の停滞による長時間の大雨と、いずれも雨量の増大が被害拡大の最大の原因となりました。 台湾、フィリピン以外でも、ベトナムやカンボジアなどで台風による大きな被害が発生しました。今年は台風の経路が南に偏っていたため、全般的に南方の国や南シナ海での被害が大きくなったようです。

台風の活動度

さて今シーズンの台風の活動は活発だったのでしょうか。この疑問を解決するために、台風の活動度を評価する指数の代表的なものとしてAccumulated Cyclone Energy (ACE)を使って、1977年以降の33年間の各シーズンごとのACEを計算してみましょう。ACEが小さいシーズン順に並べてみると2009年の台風シーズンの活動度は15番目で、ほぼ平均的な年であったと言えます。発生個数としては少なめでしたが、今年は強い台風もそれなりにあり、中には台風200922号のように急発達する台風もあったため、全体的には平均的な活動度となったようです。

ハリケーンとサイクロン

北大西洋のハリケーンは今年はエルニーニョの影響のためか活発ではなく、平均的な活動度を下回りました。命名された熱帯暴風(日本の台風に相当)は9個、ハリケーンは3個と、いずれも平均を下回りました。 一方、ここ2年ほど甚大な被害を出してきたインド洋のサイクロンですが、今年もCyclone AILAによりインドとバングラデシュで死者300人を越える災害がありました。ただし昨年のミャンマーサイクロン等と比べれば被害規模は小さく、落ち着いた年になったと言えるのではないでしょうか。ただしインド洋のサイクロンについてはまだ未知の部分が多いようで、今後も引き続き注目していく必要があるでしょう。

その他の話題

今年は台風200909号台風200918号のいずれにおいても、防災情報のあり方が話題になった点も特徴的です。台風200909号では、避難途中の犠牲者が発生したことから避難情報の出し方とそのタイミングが問題になり、防災情報のより有効な活用についての具体的な検討が始まりました。一方で台風200918号では、ウェザーニューズが独自の台風上陸情報を出したことから、気象庁への情報の一元化が問題となりましたが、こちらは何となくあいまいなままに終わりそうです。いずれの問題も、現代のインターネット時代における防災情報に関して重要な課題を提起しています。個人が必要とする情報を必要なタイミングで届けるための情報ネットワークはどうあるべきなのか、それは一元的に実現できるのか、各機関や人々の協力はどこまで必要になるのか。今後の情報ネットワークの設計が重要になると考えています。 今年のもう一つの出来事は、伊勢湾台風の上陸50周年です。私も今年はブログ等で何度か伊勢湾台風災害について触れてきましたし、伊勢湾台風メモリーズ2009などのイベントを通して、伊勢湾台風の高潮被害について多くの方々に知っていただく活動をしました。またテレビドラマが放映されたり、追悼式や講演会が多数開催されたりするなど、伊勢湾台風に再び注目が集まった年でもありました。とはいえ、今年は伊勢湾台風に大きな注目が集まる「最後の」年でもあります。被災者の方々が高齢化するにつれて、伊勢湾台風の記憶も社会からどんどん薄れつつあり、その記憶をどう後世に伝えていくかが重要な課題となってきました。それと同時に、伊勢湾台風を決して「過去の話」とは考えず、伊勢湾台風に匹敵する台風が本土には最近50年間上陸していないことも意識しておく必要があるでしょう。

地球温暖化問題に関係する動き

最後に毎年取り上げている台風と地球温暖化の問題です。全世界的に見ても今年は台風やハリケーンが目立って活発ということはなく、台風やハリケーンの脅威と地球温暖化問題とを結び付けて論じる機会は減りました。もともと、「たまたま」発生した特定の台風やハリケーンを、地球温暖化と結び付けて論じることには無理がありました。ましてや台風200917号のところでも述べたように、台風災害が起こると「災害の原因は温暖化で台風が強くなったせい」などと短絡的に考えてしまう傾向は困ったものです(実際には台風の勢力は弱かった)。個別の現象にいちいち反応するのではなく、もっと長期的なトレンドに目を向けていくことが重要だと思います。 このような地球温暖化論の押し付け(?)への感情的な反発もあってか、今年は人為的地球温暖化論に対する懐疑論も話題になりました。その代表的な事例が、いわゆるクライメートゲート事件です。これはIPCCの報告書にも関わった研究者が、人為的な温暖化の証拠として利用したデータに対して、温暖化を強調する操作を加えたかのような表現をメールに残していたことが暴露された事件です。この事件は、今年の12月にデンマークで開催されたCOP15の直前に明らかになったことから、COP15への影響を狙ったものではないかとの見方もあります。この事件に対する私の印象ですが、「一部の研究者の一部の結論には問題があったかもしれないが、全体の結論には影響はない」、という科学者の見解がまっとうな見方であると思います。 そして、このような懐疑論は時々は盛り上がるものの、長期的なトレンドとしては次第に注目を失っていくとも考えています。なぜなら、世界の国々や企業、そして世界の人々は、地球温暖化が自分の将来をどう左右するかという視点から、取るべき行動を考え始めたような印象を受けるのです。もはや地球温暖化が本当かどうかを考える局面から、地球温暖化を前提として自分はどのように行動すべきかを考える局面に移行しつつあるのではないでしょうか。もちろんこの動きを単なる流行と見ることもできるでしょうし、このこと自体は人為的地球温暖化論の「正しさ」とは関係ありません。しかし人々の意識の変化は着実に進んでいるようです。そしてCOP15での激しい対立は、まさに地球温暖化時代に向けてのウォーミングアップが終わっていよいよ本番がスタートした直後の、激しい位置取り競争のように見えるのです。 もともと地球温暖化問題の根底には「現代文明は持続可能(サステイナブル)ではない」という問題意識があるように思います。持続可能性(サステイナビリティ)に関する問題の現れの一つが地球温暖化という関係です。このところ太陽活動が100年ぶりの低いレベルに低下しており、それが最近の温暖化の進行を抑えているという説もありますが、もし今後も太陽活動が低下し続けて地球温暖化が「幸運にも」抑えられたとしても、エネルギー問題や食糧問題など他の問題が持続可能でない状況は変わりません。この持続可能でない状況をどのように解消するべきか。そう考えたとき、温室効果ガスの削減というのは、個別の問題に対して横断的に関係する要の位置にあるという意味で重要性が高いと言えます。ただし、温室効果ガスさえ減らせばすべての問題が解決するというわけでもありませんので、そこだけ非現実的な目標を掲げてもあまり意味はないかもしれません。ここでの位置取り競争では、「地球益」というような漠然とした目標を掲げるだけではなく、自分たちの将来を持続可能にしていくという視点から冷静に行動を進めていくべきような気がします。 このような政治的な動きとは別に、科学的知見を積み重ねていくことも必要です。まだ地球温暖化に関してはわかっていないことがたくさんあります。特に地域ごとの影響の大きさの違い、そして台風や集中豪雨のような小さなスケールでの現象の変化については、まさに研究が積み重ねられているところです。このような地球温暖化の解明には、民主党による事業仕分けでも話題になったスーパーコンピュータが役立っていますが、今後はスーパーコンピュータが地球温暖化への適応策にも役立つ結果を出していくことが期待されます。

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