台風201518号 (ETAU) 台風の名前 = アータウ (ETAU) : 嵐雲 [米国]

2015年09月12日 12:00 JST

台風18号(ETAU)から変わった温帯低気圧と台風17号とのコンビが作り出した線状降水帯は、11日には東北地方に移動して宮城県では11日の3:20に大雨特別警報が発表され、宮城県を中心に記録的な大雨となって、宮城県大崎市付近では大規模な水害が発生しました。10日に関東地方にかかった線状降水帯と11日に東北地方にかかった線状降水帯は地域的に連続しておらず、最初の線状降水帯の東側に別の線状降水帯が生じたようにも見えます。そして11日午後になってようやく雨は小康状態となりました。 各地で発生した洪水災害のうち、特に鬼怒川で発生した洪水の規模が大きく、茨城県常総市では広い地域が水没する事態となっています。堤防から溢れた水はゆっくりと下流に流れていき、浸水地域は時間とともに下流に広がり、10km以上も下流まで浸水地域が拡大しています。決壊したり越流したりした地点のすぐ近くにいた人々は、それを知ってから後は行動するための時間がなく、緊急的な救助に頼ってしまうのも致し方ないところです(もちろん、手遅れになる前に避難するのが最善です)。一方、そうした地点のはるか下流では、決壊や越流から浸水まで十分に対策を立てる時間があったのにもかかわらず、対策が後手に回って被害が生じてしまったことは残念です。例えば2011年のタイ大洪水では、上流部で発生した大洪水は数か月をかけて下流にゆっくり到達し、水が引くまでに長い時間かかりました。日本では洪水は一瞬で溢れてすぐに引いていくというイメージが強く、それは日本の川が「滝のような」急な勾配を流れる場合が多いからですが、平らな土地では洪水はゆっくり広がるものであるという点は、(私自身も含めて)再認識する必要があるなと感じました。今回の災害が発生した鬼怒川を含む利根川水系の下流域にはこうした場所が多く、歴史的にはカスリーン台風などで大水害がたびたび発生しています。いくら治水が進んだとはいえ、洪水を完全になくすことはできないため、その教訓を伝えていくことも重要な課題ではないかと思いました。 また今回の災害を受けて改めて感じたのは、指定河川洪水予報の改善の必要性です。先日も書きましたが、洪水警報はありますが、洪水特別警報はありません。その理由は気象庁の説明によれば以下の通りです。指定河川洪水予報には予報と警報があり、水位情報とその予測に基づきはん濫の危険性をきちんと伝えている。特別警報を作るとこれと重複するから洪水特別警報は行わない(参照:特別警報について)。確かに、ただでさえ多過ぎる情報を、さらに増やして重複する情報を出すことは避けるべきです。また洪水予報の特殊性として、気象庁単独で行うものではなく国土交通省や都道府県と共同して行うものという点があり、気象庁単独で行える気象予報とは同列に扱いづらいという事情もあるでしょう。とはいえ、洪水警報の上のレベルに洪水特別警報があるのでは、と一般の人々が期待するのも無理はありません。上記の理由はいわば内部事情のようなものですから、その複雑性を表に出してしまうだけでいいのかという疑問も湧いてきます。 もちろん、特別警報を作れば何もかも解決する、というわけではありません。私は以前から、特別警報という制度に必ずしも賛成はしてきませんでした(台風201326号のブログ)。ただ、最近になって、特別警報にも価値はあるのではないか、とやや考えが変わってきた面もあります。その理由は、各種メディアが特別警報を大々的に取り上げてくれるようになったという点にあります。NHKのニュースなどでも特別警報の情報は常時表示されるようになり、少なくとも大雨に関する異常な事態が発生していることは人々にも伝わるようになりました。これは、特別警報という「情報のパッケージ」が、各種メディアにとって使いやすいことが大きな理由でしょう。ならば指定河川洪水予報もパッケージに載せてもらえばよいではないかと思うかもしれませんが、そもそも「指定河川洪水予報」という名前自体、意味的に正確ではあるのでしょうが一般の人々には理解しづらいですし、情報の「フォーマット」も異なるため、そのままでは使いづらいでしょう。それがもし「洪水特別警報」となっていれば、もっとメディアに載せやすいのではないかとも思うわけです。 この問題をより広く考えれば、「特別警報とはどんな情報であるべきか」という問いにつながります。私は特別警報を、気象庁から各種メディアおよび国民への特別なメッセージと定義できないかと考えています。つまりテレビニュースやウェブサイトにおいて、特別に重要なメッセージを伝える枠をもらうという発想です。そして、その枠に洪水を入れるには、フォーマットを合わせるという意味で「洪水特別警報」が必要ということになります。それは実質的には指定河川洪水予報におけるレベル4やレベル5と同等かもしれませんが、さらに現象の影響範囲などを考慮して発表する方法もありうると思います。さらに言えば、洪水の発生は「鬼怒川流域のどこか」のように府県(予報区)単位では捉えづらい面もあるので、府県(予報区)単位という枠も取り払ってよいのかもしれません。 特別警報は、当初は客観的な予測情報を基に十分なリードタイムをもって発表するという目論見があったと思いますが、これまでの実績を見る限りではそうした典型的な成功例は少なく、むしろ現象の発生を(ほぼ)確認してから発表する運用が増えてきたように思います。これはこれで意味があることですし、現実に合わせて運用を変えていくのは大事なことです。重要なのは、当初の目論見にこだわらず、常に改良を続けていくことではないでしょうか。そして、一般の人々には関係のない事情から制度を決めていくのではなく、むしろ一般の人々に最適化した情報をデザインするために、既存の情報を再パッケージするぐらいの大胆な発想があってもよいと考えます。せっかく普及してきた特別警報という「ブランド」をどう有効活用していくか、そこが今後の課題になるでしょう。

2015年09月10日 20:00 JST

台風18号(ETAU)は9日10時過ぎに愛知県知多半島に上陸し、日本海に抜けました。台風上陸・通過データベース(完全版)によると、知多半島に台風が上陸したのは2009年の台風18号以来となります。台風の勢力自体はそれほど強くはなかったのですが、台風17号との絶妙な位置関係が関東地方に停滞する線状降水帯を生み出し、むしろ台風通過後に雨が強まっていきました。そして関東北部を中心に記録的な大雨となって、鬼怒川水系やその周辺の河川の流域に位置する栃木県や茨城県西部において、河川の破堤や大規模な浸水被害が発生してしまいました。 今回の大雨は、2つの台風に吹き込む湿った暖かい風がぶつかって、次々に雨雲が生み出されたために発生したもので、2つの台風の位置関係がこうでないと発生しないというほど、稀な気象条件が重なって生じたものと言えます。これほど長く南北に延びた線状降水帯が形成されること自体が稀ですし、それがこれほど長い時間にわたって東西方向に動かずに停滞することも稀な現象です。さらに不運なことに、南北に延びた線状降水帯は、南北に延びる鬼怒川の流域上でちょうど停滞しました。そして、栃木県今市の北側に位置する鬼怒川上流部で最も雨量が多くなったため、今回の大雨はまさに鬼怒川水系およびその周辺を狙い撃ちしたかのような大雨となってしまいました。このように様々な悪条件が重なることで、想定外に近いほどの稀な大雨と洪水が発生したのではないかと考えられます。 なお、今回の大雨は稀な現象ではありますが、予測に関しては比較的正確な予測が出ていたことは付け加えておきたいです。つまり、発生した現象としては想定外な点が多いものの、天気予報としては想定内の現象であったということです。降水量予測に関しては、例えば福島第一原発周辺の雨量マップなどでも提供していますが、前日にこの雨量予測を見たとき、なんだか奇妙な形の雨雲だなと思いました。本当にこんな奇妙な形で南北に延びる雨雲が発生するのだろうかと半信半疑で眺めていたのですが(Facebook記事)、実際に南北に延びる雲が発生して大雨となったのを目の当たりにして、気象予測の進歩はすごいなと改めて感じたのも確かです。 とはいえ、せっかく予測できていたのなら、なぜ被害が防げなかったのか、という疑問も残るところでしょう。例えば特別警報などを有効に使えなかったのか。今回の大雨で特別警報が発表されたのは、栃木県が9/10の0:20茨城県が9/10の7:45でした。特別警報の発表は、一般の人々やメディアの関心を引き付ける意味でそれなりにインパクトがあったとは思いますが、洪水から逃げ遅れた人を大量に生み出してしまったという点では、効果は限定的だったとも言えます。 今回の大雨のような細長い雲の場合、東西に少しずれるだけで大雨の発生地域が変わりますし、雨量の予測にも不確実性が高いことを考えると、事前の予測に基づき特別警報を発表してかなり前から警戒を呼び掛けることは、なかなか難しかったのではないかというのが私の考えです。また、洪水警報はあるのに洪水特別警報はないので、洪水への注意を高めるには大雨特別警報を使わざるを得ないのですが、それで洪水の危険性を伝えるのに十分だったかという点は、今後の検討課題にもなりそうです。 いずれにしろ、上流部に降った記録的な大雨の水がまだ下流に流れきっていない段階であり、上流部のダムもすでに満杯で洪水調節の役割は果たせないでしょうから、水位はそうすぐには下がらず、浸水地域から水が引くにも長い時間を要することが考えられます。復旧には時間がかかることを前提に、現地の支援を進めていく必要があります。

2015年09月07日 04:30 JST

台風18号(ETAU)が日本の南で発生しました。それほど強い台風とはならない見込みですが、日本列島に向かって一直線に北上するコースが予報されており、各地で風雨や高波の影響が出そうです。

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