2016年(平成28年)の台風に関する情報のまとめ

2016年12月30日

2016年(平成28年)の台風の発生個数は26個とほぼ平年並でした。台風上陸数は6個と2004年の10個に次いで、1990年1993年と並んで2番目に多い記録となりました。まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風201607号 (CHANTHU) 北海道太平洋側からの上陸台風としては史上2例目となり、根室半島を通過した台風201606号(CONSON)とともに、今年の北日本への上陸ラッシュの口火を切ることになりました。 台風201609号 (MINDULLE) 千葉県に上陸後に北海道に再上陸し、両地方では大雨となりました。特に北海道では記録的な大雨となり、その後も台風の上陸が続いたことで大規模な災害につながりました。 台風201610号 (LIONROCK) 北日本への前例のない連続台風上陸の中でも、特に象徴的な存在となった台風です。関東地方にいったん接近した後に約10度も南下して勢力を増し(後に一部の経路は熱帯低気圧に格下げ)、そこから再び北上して東北地方太平洋岸に史上初の上陸を果たしました。台風の中心あるいは周囲の雨雲で岩手県や北海道を中心に大規模な豪雨災害が発生し、岩手県ではグループホームを中心に死者20名、北海道では十勝地方を中心に農業や交通が大きな打撃を受けました。
その他の上陸台風としては、台風201611号台風201612号台風201616号があり、上陸数としては史上2位タイの多さとなりました。また上陸はしませんでしたが台風201618号は沖縄で暴風を記録しつつ通過し、九州に接近した後、韓国南部を直撃して大きな被害を引き起こしました。

避難準備情報の問題

大きな災害が発生するたびに、その一因になったとも考えられる防災情報の問題点が指摘され、その改良に向けた議論が進んでいきます。今年の台風シーズンで焦点となったのが「避難準備情報」です。避難準備情報とは、避難に時間がかかる人のために早めに避難を促すきっかけを提供する情報です。岩手県岩泉町ではグループホームで避難が間に合わず、施設を襲った洪水で多くの死者を出してしまいました。こうした施設では避難行動に時間がかかるため、突発的な河川水位の上昇や洪水に対応することは困難です。そのため、危険になってから避難するのではなく、もっと前から時間的に余裕をもって避難を開始することが重要です。しかし今回の災害では、グループホームが存在した地域に「避難準備情報」が発表されていたにもかかわらず、実際に避難行動が始まることはありませんでした。 その一因は、避難準備情報の意味が曖昧であること、そして法律的に位置付けがきちんと定められていないことなどにあると考えられます。例えば「避難勧告」や「避難指示」などは、災害対策基本法で位置付けが明確に定められているため、地方自治体はそれに沿って情報の発表や避難所の開設などを行います。ところが「避難準備情報」にはそうした定めがないため、この情報を受けて何をすべきなのか、多くの人々にはその意味が伝わっていませんでした。そこで12月26日に、内閣府は名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更し、この情報の受け手は誰で何をすべきかを明確化することにしました。また避難行動に時間を要する施設として、高齢者や障害者、乳幼児らが使う施設を対象とし、浸水想定区域に位置する場合は避難計画を義務化する方針を打ち出しました。 このように「避難準備情報」は、地域の人々全員に向けた情報というよりは、特定の人々に向けた情報であることが明確になりました。誰にとってどんな情報が重要なのかという受け手の立場を考慮した情報の発表は、大きく見れば「情報の個別化」というトレンドと一致するものであり、地域の細分化に加えて人の細分化も行った上でよりきめ細かい情報を発表するという将来像につながるものです。誰に向けた情報なのかを肝心の受け手が理解していなければ活用できないという教訓を踏まえ、今後はネーミングや情報表現にも様々な工夫が求められるでしょう。

北日本への連続上陸

北日本への相次ぐ台風上陸は大きな爪あとを残しました。十勝地方や日高地方の交通インフラは寸断され、過疎地をつなぐ鉄道などはこのまま廃線となる危機を迎えているところもあります。災害による壊滅的被害が廃線につながる例は東日本大震災や過去の台風でも見られましたが(廃線でニュースを検索)、そもそも北海道では災害とは無関係に路線網縮小への動きが進んでいます。災害とはすでに存在した社会の脆弱性を可視化するものであり、脆弱性を解消しない限り災害は脆弱性を強化する方向に作用してしまいます。鉄道も道路も含めた北海道交通網の脆弱性をどう解決するかが問われています。 一方、十勝地方という日本有数の農業王国で発生した水害によって、食品産業にも大きな影響が出ました。ポテトチップスは工場が一時生産中止となり、66年も続いたアヲハタブランドのコーン缶は商品自体が消滅することとなりました。そして表土がすべて流れてしまった農地では、元の状態に戻すまでに10年以上の期間を要するとも言われ、復旧と復興には息の長い支援が必要です。 このような北日本への台風上陸が今後も続くのか、という点が気になるところです。今年はモンスーン渦という珍しい大気の流れが特異なコースを生み出したとも考えられるため、例えば地球温暖化が進めば毎年こうなるというような確定的な現象が起きたとは私自身は考えていません。ただ、海水温が上昇すれば台風が北上しても衰えづらくなる可能性はあるため、北日本における台風による雨量の増加については、気候変動の影響に関する想定を再検討する必要はあるかもしれません。 近年は気候変動モデルを用いたシミュレーション研究がより大規模化かつ精緻化しており、よりきめ細かい単位での影響評価も可能となりつつあります。シミュレーションは確定的な情報とは言えませんが、現時点で入手できる最も有力なエビデンスでもありますので、最新結果を参照しながら災害への備えを検証し、計画を更新していくことが望ましい。とはいえ、国や地方自治体の予算制約も年々厳しくなってきている現在、あらゆる場所への備えを完璧にしようとすると、誰も望まない防災インフラへの無駄な投資となる心配もあります。今後はいかに知恵を絞って投資効率を上げていくかが問われることになるでしょう。

大火と気象の関係

台風とは直接の関係はありませんが、年末の12月22日に発生した新潟県糸魚川市の大規模火災にも触れておきたいと思います。消防庁のまとめによると焼損棟数は144棟、市街地での火災(震災を除く)では1976年の酒田大火(1976年10月29日の天気図)以来の大規模火災となりました。この日は最大風速13.9m/s、最大瞬間風速27.2m/s(南南東)の強風が吹いており、この強風によって広範囲に延焼拡大したことが大火の原因となりました。木造建築が密集した市街地はもともと延焼しやすい構造であったため、歴史ある木造建築も焼失するなどの大きな被害につながりました。 今回の糸魚川大火は温帯低気圧に吹き込む強い南風が原因、そして酒田大火は温帯低気圧に吹き込む西風が大火の原因となりました。しかしこうした強風は温帯低気圧だけが原因となるわけではなく、もちろん台風が原因となることもあります。特に強風と地震が重なると、複合災害による大規模火災が発生する場合があり、その代表的な例が関東大震災です。このとき、地震が発生した直後の12時には東京で南南西12.3メートルと、台風に吹き込む南よりの風が強く吹いていました。台風が東に進むに連れて風向きは西風、北風と変わって、夜には最大風速22メートルまで強まりました。このように風が強くその風向きが大きく変化したことで、延焼の方向が次々に変わって焼失域が広範囲になってしまいました。 このように、関東大震災で大火災が発生した時の気象条件は、糸魚川大火の気象条件とよく似ていました。つまり、こうした気象条件と木造住宅が密集する環境が揃えば、こうした大火は他の場所でも起こりうる災害と言えます。大震災と強風の複合災害を防ぐには、そもそも火災が発生しないようにすること、そして火災が延焼しないようにすることが重要で、そのためには個人の注意だけでなく都市のインフラから改善していくことが必要です。これも巨額の投資を必要とする課題ですが、日本のインフラが全般的に老朽化してきた現代、その更新も含めて効率的な投資を進めていくことが望まれます。

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