2006年10月14日 19:00 JST
今回の温帯低気圧に関する気象庁の速報によると、北海道えりも岬で38m/s、宮城県江ノ島で30m/sの最大風速を記録、また北海道根室で42.2m/s、岩手県大船渡で40.2m/sの最大瞬間風速を記録したとのことです。また毎日新聞の記事によると、死者は24人以上、まだ21人が行方不明のままということで、今回の温帯低気圧による被害は、台風以外の低気圧による気象災害としては異例の規模に拡大しています。
このような温帯低気圧の危険性をどう伝えればよいのか、これはリスクコミュニケーションの問題として考えるとよいのかもしれません。情報発表方法を変えるというアプローチについては前のエントリでも述べましたが、こうした現象をうまく表現する言葉を作り出すというのも一つの方法です。中でも「爆弾低気圧」という用語は急速な発達の程度を表現する用語としてなかなか有効ではありますが、秋から冬や春に急速に発達する低気圧にも使われることが多い言葉であるため、適用範囲が広くなり過ぎるのが難点です。春の爆弾低気圧には「メイストーム」などの特別な用語もありますが、台風の影響で急発達する低気圧にも、何か適当な用語はないものでしょうか。
また上記の毎日新聞記事低気圧:「台風並に発達」はなぜ?その仕組みと怖さですが、ぜひ他の新聞もこうしたテーマを継続的に取り上げてほしいものです。ただこの記事に限ったことではないのですが、やや気になる点もあります。例えば「台風並みの低気圧」という言葉、これはよく使われる言葉です。しかし気象現象:2004年1月北海道豪雪にもあるように、実は発達した温帯低気圧の方が台風よりもずっと巨大で影響も広く、台風を上回る脅威となることがあります。つまり「台風並に発達」という言葉自体が、「台風は強く低気圧は弱い」という誤解を招く元になる恐れがあります。
また同じ新聞記事には「低気圧の中心移動の軌跡」という図がありますが、この図にもやや気になる点があります。新聞記事の軌跡は、あたかも台風16号が発達して低気圧になったかのように描かれていますが、むしろ台風とは別の普通の低気圧が台風の影響で急速に発達した、というのが今回の惨事のポイントではないでしょうか。最初に紹介した気象庁の速報に概要と天気図がありますが、今回の低気圧は本州南岸に停滞していた前線上で、四国沖に生まれた低気圧が発達したもので、台風16号がそのまま発達したものではありません。台風としては消滅したのにその影響が別の形で現れたということですから、台風情報だけではその危険性を伝え切れないのが問題です。
10月5日の天気図を見ても、低気圧が発生しつつある前線と弱まりつつある台風が表現されているだけで、これだけを見るとあまり危険が感じられない状況かもしれません。しかし気象庁が発表する予報には低気圧の発達に関する警戒情報が盛り込まれており、そのリスクを的確に判断して受け入れることができれば多くの事故は防げたのだと思います。まずは「台風は強くて低気圧は弱い」という一般的な先入観を崩して、「発達した低気圧も怖いよ」ということ、そして台風と温帯低気圧の違いは強さではなく構造の違いであること、などを伝えていくことが重要でしょうか。
2006年10月08日 12:30 JST
台風を吸収して発達した温帯低気圧によって、海上は大荒れ、山岳は猛吹雪が続いており、各地で海難事故や山岳遭難が相次いでいます。このような事故を防ぐためにも、「台風は温帯低気圧に弱まりました」というのは間違いということを、再度確認しておきたいところです。今回のケースでも台風が温帯低気圧に吸収されて消滅した後に、かえって各地では風雨が強まって天候が悪化しています。
気象庁の新しい台風予報の図表示方法等についてにあるとおり、来年度(*1)からは「台風から変わった温帯低気圧」に関する情報の発表方法が変わる予定ですので、それによってこうした事故が減少してほしいものだと思います。
(*1) 追記:ページの内容をよく読むと、温帯低気圧情報に関しては「準備が整い次第実施」と書かれています。これは前倒しで今年度でも実施可能という意味なのか、それともまだ検討中でいつ実施できるか不明という意味なのか、よく考えてみると後者の意味なのかもしれません。したがって「来年度から新しくなる」という記述は不正確でした。また今回のような「台風を吸収した温帯低気圧」に対してこのルールが適用されるのかも厳密にはよくわかりませんが、まあ常識的に考えればこの種の温帯低気圧も新ルールに含めるべきでしょう。今回のような遭難事故の続発という事態を重く見るならば、こちらの改善も前倒しで実施する必要があるように思います。
2006年10月07日 12:30 JST
台風16号を吸収した温帯低気圧は、その後台風17号も吸収して本州の東海上でさらに発達を続けており、現在は東北地方および北海道で風雨が強まっています。成田空港では開港以来最多の78便が着陸できなかったそうで、関東地方でも昨日は強風と大雨がかなり長時間にわたって続きました。このように台風を吸収した温帯低気圧が急速に発達した例としては、他にも2004年の台風27号などの例があります。
それにしても台風ニュース・トピックスには、今回の台風16号と台風17号に関する記事が不思議と登場してきません。今回の温帯低気圧は、台風の暖気の北上に伴って急速に発達する危険な低気圧でしたが、このような台風と低気圧との関係について触れた記事は、残念ながらほとんどなかったということになります(*1)。ただしこの関係については、例えば気象庁発表の「低気圧に関する全般気象情報」をチェックしてみてもほとんど記述が見当たらないため、結局のところあえて触れるまでもない話題だと判断されたのでしょうか。
(*1) もちろん、気象庁が発表する情報に独自の判断で付加価値を加え、台風と低気圧との関係について取り上げているメディアもあります。たまたま台風ニュース・トピックスが対象とする範囲には、そのようなメディアが少なかったということになります。
2006年10月06日 12:30 JST
台風16号(BEBINCA)は最後まで中心が定まらないまま、本日の午前9時に熱帯低気圧へと変わりました。現在は、この台風を吸収しつつある温帯低気圧が本州の南を発達しながら進んでおり、低気圧を含む秋雨前線が伊豆諸島や関東地方などに強い雨を降らせています。
それにしても台風16号は、構造も進路もよくわからないという変わり者の台風でした。発生当初は二つの大きな雲の塊で構成されており、その間に台風の中心があると思われていました。ところがその後、南西側にあった雲の塊はまるで蒸発するように消滅してしまい、北側にあった雲の塊だけが爆発的に成長するという、ちょっと意外な展開となりました。最初に台風の中心とみなしていた場所は、実はやや違っていたのかもしれません。途中から台風の構造に関する解釈が変わったために、見かけとしては台風の中心が飛び移るような場面もありました。台風が不規則な形状の場合は、(特に夜間の)解析が難しいことを示すよい例で、おそらく事後解析によるベストトラックでは、台風の経路(と勢力)は見直しとなるのではないかと思います。
2006年10月05日 07:45 JST
台風16号(BEBINCA)は極めていびつな形をしており、中心の北側だけに雲があるような状況です。この状態のままではそれほど発達しませんが、中心から遠く離れた場所で大雨になる可能性もあります。
2006年10月03日 23:15 JST
台風16号(BEBINCA)は、発生当初から中心付近には雲がなく、中心をはさんで北と南西に二つの大きな雲の塊があるといういびつな形をしていました。そのために中心がハッキリ定まらず、なかなか発達しないという状況が続いていました。そして今夜の 台風17号の発生によって、今後の動向はさらに混沌としてきたようです。
2006年10月03日 10:15 JST
台風16号(BEBINCA)がフィリピンの東で発生しました。これは日本の南の太平洋にある巨大な渦の西の端で発生した台風で、同じ渦の東の端にも別の熱帯低気圧があります。発生時から992hPaと中心気圧は低いのですが、台風の領域が広がりすぎてそれほど組織化されていないため、気象庁などによると現在のところ急速な発達は予想されていません。
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