2014年(平成26年)の台風に関する情報のまとめ

2014年12月30日

2014年(平成26年)の台風の発生個数は23個と、平年より少ない発生個数でした。台風上陸数は4個と平年値(2.7個)よりは多くなり、2004年の10個以来の多さになりました。まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風201408号 (NEOGURI) 「7月としては最強クラス」の台風として沖縄に接近し、沖縄地方では大雨特別警報が2回も出るなど、最大級の警戒が呼び掛けられました。しかし、特別警報の出し方やマスメディアの報道などが適切だったか、特にマスメディアの過剰な報道には疑問が残る結果ともなりました。 台風201411号 (HALONG)および台風201412号 (NAKRI) 台風を取り巻く雨雲により、四国や東海で大雨となりました。特に高知県では降り始めからの雨量が2000mmを越え、下流にあたる徳島県では浸水被害などが生じました。 台風201418号 (PHANFONE) 「今年最強」の台風と言われました。死者は5名、そして上陸の1週間前に噴火した御嶽山の捜索活動にも影響を与えました。 台風201419号 (VONGFONG) 台風18号よりもさらに勢力を強めて「特別警報級」の台風とも言われましたが、接近に伴って勢力が衰えてきたのと、事前の呼び掛けに効果があったか、死者3名の被害にとどまりました。また、京阪神地区のJR西日本を中心に、鉄道各社が台風の接近前に運休を告知する方式が初めて採用され、タイムライン的な考え方に基づく新たな防災の試みとして注目を集めました。
その他にも、記録に残る台風がありました。まず、台風201413号 (GENEVIEVE)は、メキシコ沖の東部北太平洋で発生してからはるばる太平洋を横断し、日付変更線を越えてハリケーンから台風に変わりました。中部北太平洋で発生したハリケーンが台風になることはたまにありますが、東部北太平洋からはるばるやってくるハリケーンは少なく、しかもハリケーンから台風に変わった後に最盛期を迎えるという、寿命の長い台風となりました。 次に台風201420号 (NURI)は、台風として中心気圧910hPaまで発達しましたが、勢力のピークを太平洋上で迎えたため、特に陸上で被害が生じることはありませんでした。そして次第に弱まって980hPaで温帯低気圧となり、このまま消えれば特に記録には残らない台風となるところでしたが、この台風が運んできた暖気を吸収した温帯低気圧がベーリング海で猛烈に発達し、最低気圧920hPaまで発達しました。これは、アジア地域における史上最強の温帯低気圧と言える記録ですが、台風本体の再発達とは判定されなかったため、残念ながら公式記録(ベストトラック)には残りませんでした。

特別警報など情報伝達の課題

昨年は特別警報にまつわる問題を取り上げましたが、今年もこの問題は残りました。まず台風ではありませんが、2014年2月の関東甲信での大雪では、数十年に一度の大雪となったにもかかわらず、気象庁は特別警報を出せませんでした。特別警報が出せなかった理由は、台風201326号による大雨に出せなかった理由と同様で、事前にそこで確実に起こるという確信が持てない現象には特別警報が出せない、という理由によるものと考えられます。特別警報相当の重大な現象が発生しつつあることが後でわかったとしても、そのタイミングは本来の意味での特別警報を出すには手遅れです。とはいえ、特別警報相当の現象が発生して実際に被害が生じたという結果論から見ると、気象庁がやるべきことをやっていないようにも見えるため、特別警報の基準を変えるべきではないか、という点が再び議論になりました。 その後も気象庁は特別警報の発表に関して、試行錯誤を繰り返します。台風8号では沖縄地方で特別警報が2回も発表されました。7月8日の最初の特別警報は台風に関するもの、7月9日の2回目の特別警報は大雨に関するものでしたが、最初の特別警報がやや空振り気味だったところに、2回目の特別警報の後には本当の大雨が始まり、特別警報の使い方の難しさがまたもや明らかになりました。さらに、台風11号で三重県などに発表された特別警報は、結果論で言えば大雨がピークを越えた時間帯に出てしまい、事前の警報という意味での役割はあまり果たせませんでした。 特別警報の試行錯誤は秋も続き、2014年9月の北海道での集中豪雨で発表された大雨特別警報は、どちらかというと大雨発生中に最大級の警戒を呼び掛ける手段として使われたという印象があります。このように特別警報が発表された状況を振り返ると、最近の極端な現象はいずれも特別警報の事前想定の裏をかくような形で進行しており、気象庁にとって「想定外」の状況に対応しているうちに、特別警報の役割にブレが生じているようにも思えます。根本的な見直しはいずれ行われるでしょうが、来年も台風と特別警報の関係は、引き続き模索が続いていくことでしょう。 その他にも災害が続発した1年でした。2014年8月の広島での豪雨では、短時間に集中した多量の雨で土砂災害が同時多発し、死者行方不明74名の大災害となりました。これは短時間の集中豪雨という、特別警報などの気象警報による事前の警戒では防ぎづらいタイプの災害です。むしろ、災害リスクがもともと高い地域での防災や避難をどう進めていくか、平常時からの備えを怠らないことも重要だと考えます。一方、2014年9月27日の御嶽山噴火では、死者行方不明が63名に達して戦後最悪の人的被害となりましたが、ここでも情報の伝達方法が問題となりました。9月11日の火山の状況に関する解説情報で、気象庁は火山性地震や火山性微動の増加を発表していましたが、その情報に気付いた登山者が少なかったため、多くの登山者には不意打ちの噴火となって、多くの犠牲者が出ました。 こうした災害を防ぐためには、もっと警報を頻繁に出せばいいのでしょうか。必ずしもそうとは言えないように思います。警報には不確実性があるため、警報を出しても現象が発生しないことは多々あります。しかも、噴火警報で入山禁止となれば観光への「風評被害」は大きく、結果的に警報が当たらなければ地域経済へのマイナス要因にしかなりません。今回の噴火被害が拡大したのは、観光シーズン(紅葉)のピークで好天の土曜日のお昼時という、考えうる最悪のタイミングで噴火が発生したことが最大の原因で、噴火の規模そのものは比較的小さなものでした。現象の規模と被害の規模が比例しないことは気象現象でもよくありますが、警報は基本的に現象の規模に対するものであり、結果的に大きな被害が生じる現象を事前に予測できるとは限りません。そうした不確実性のある警報と、確実に生じる経済への被害の間でバランスをどう取るか?そこが本当の問題と言えます。 これは台風201326号の特別警報に関して述べた問題とも共通性があります。つまり、現象の予測とそれへの対策という異なる役割を、すべて気象庁の警報に一元化して負わせることは、結果として情報の運用を難しくして混乱を招いている可能性があるのではないか、ということです。御嶽山噴火の件で言われたように、気象庁は種々の観測結果を、一般の人にもっと目立つように発表した方がよいのは確かです。そして、気象庁防災情報XMLでも見られる情報のオープン化に向けた流れの中で、せっかく気象庁が発表した情報が外の世界で広く使われるように、外部の人々の協力も得ながら様々な手段を開拓していかねばなりません。とはいえ、こうした情報提供が経済的な被害に関する責任問題とリンクしてしまうと、情報を出す際に「一定の配慮」が必要となってしまい、ストレートな情報提供が難しくなる面があることも否定できません。 そこで必要となるのが責任分担です。気象庁の主な役割は情報提供とし、その情報に対する対策は地元や国の防災機関が責任を負うようにできないでしょうか。広島豪雨でも問題になったハザードマップの公表や危険個所指定にも、同様の問題があることが知られています。リスク評価が土地価格に直結してしまうと、影響を受ける人々への配慮のため、リスクに関する情報公開が及び腰になってしまうのです。日本が災害多発時代に入ったとも言われるいま、情報提供の背景にあるこうした事情も改善していく必要があります。 一方、気象庁が発表した情報を広く伝えるマスメディア側の課題もあります。最近のニュースでは最強などの修飾語が多用されるようになりました(参考)。それによって警戒が高まることはいいのですが、それほどの被害が生じないという結果が続くと、情報が「狼少年化」して信用されない場合も出てきます(参考:気象庁台風情報(実況)とアメダス観測データとの食い違い)。大袈裟なタイトルをつけることで注目度を高めることはできるとしても、そうした「釣り」タイトルの競争は修飾語のインフレを招きます。きちんとデータを証拠とした伝わる表現をもっと工夫していくことが、「デジタル台風」も含めた重要な課題であると考えています。

タイムライン防災

情報伝達に関連する話題として、今年は新たな試みもありました。それが台風19号の際に取り入れられたタイムライン防災と呼ばれる考え方です。台風が接近する前日、京阪神地区のJR西日本を中心とした鉄道各社は、台風の接近時に列車を運休することを事前に告知しました。通常であれば鉄道会社は、雨量計や風速計の状況を実測しながら、規制値を越えたら列車の運休を決定し、規制値を下回って施設にも問題がないことを確認できれば運転を再開します。ところがタイムライン防災では、事態の進展を事前に予測した結果に基づき、あらかじめ運休時間を決定してしまうのです。例えば台風の最接近予測時刻を基準とし、その数時間前から列車を運休する、というような意思決定を行ないます。この方法の利点として言われるのは、あらかじめ運休がわかっていれば、人々は不要の外出をしないだろうから混乱も避けられるというものです。一方、この方法の欠点は、従来の方法なら運転できたかもしれない状況でも運転はできなくなるということです。実測値ではなく予測値に基づく方法であるため、予測が当たれば従来よりも効率的な防災が可能になる一方、予測が外れれば過剰な対策にもなります。また、現象としての予測が当たったとしても時間帯が外れれば、混乱が起こることも考えられます。 このような考え方がタイムラインと言われる所以は、どのような対策をどのような順番で行い、それには何時間かかるか、という計画をあらかじめ立案するとき、現象が発生する時刻をゼロとしてそこから時間軸をさかのぼる「タイムライン」形式で、各種の対策の関係を整理してやるべきことを明確化するためです。米国などではすでに活用されている方法で、ハリケーン接近の何時間前に避難を開始するかといった計画が、行政によって事前に立案されています。こうした形で時間を見積っておくことは必要ですし、また部署ごとの担当を明確化し部署を越えた連携を行う際に参照する基準としても使えます。このような形で各種の対策を事前に整理し可視化しておくことは、担当者の理解を深めるにも有効です。また今回のタイムライン防災に対する一般の人々の反応ですが、事後のアンケート調査によると概ね理解が得られたとのことです。 とはいえ、この結果をもって、日本でもタイムライン防災は成功する、と言えるのでしょうか。今回の台風はたまたま週末の夜間に接近したため、タイムライン防災という大規模な「社会実験」を運よく(?)実施できたという点は無視できません。これが平日の朝だったらどうなるか。あるいは平日の夜だったらどうなるか。夜から鉄道が運休するので、今日は会社を休みにしよう、となるでしょうか。社会的影響は大きく、予測値が外れれば、一転して非難が集まる可能性もあります。現在でもJR東日本など、運休が早過ぎるという批判を浴びることもあります。これは、以前の事故の教訓を基に、運休を決定する規制値を厳しくしているためですが、それを鉄道会社の努力不足と捉える人々もいるわけです。とはいえ、こうした意思決定は実測値を基にしているので、人々も納得しやすい面はあるでしょう。ところが予測値を基準とした意思決定は、実測値基準では明らかに運行できる状況でも運休になってしまう、というのがつらいところです。 日本のような完璧主義的な風土をもつ社会において、こうした防災が無条件で受け入れられるかといえば、やはり米国モデルを日本に導入という単純なやり方ではなく、文化に合わせた改善が必要になるのではないかと考えます。その点で、現在のタイムライン防災の導入の動きには若干の危惧を覚えます。タイムラインは事前のシミュレーションツールとして利用するなら大変に有効なツールだと思いますが、事前予測の時間軸通りに現象が進まなければ、すぐに想定外の事態に突入してしまいます。そうした場合の言い訳ツールに使われるのではないかと、余計な心配もしてしまいます。 日本のように災害の種類が多様で短時間に状況が急変しうる地域では、事態の進展に合わせて時々刻々と意思決定を更新できるような、適応的なタイムラインを扱えるシステムも必要になるでしょう。そして今後は、各地のセンサから集めたデータを解析して今後の推移を予測するビッグデータ・タイムラインを構築し、そこに例えば運休アナウンスが人々に浸透する時間を推定するモデルなども統合した意思決定メカニズムを組み込んでいくことになるでしょう。事前シミュレーションの基準となる紙ベースの単純なタイムラインと、コンピュータによる支援が不可欠な複雑なタイムラインとの組合せにより、事前の十分な備えと納得感のある意思決定を可能とするシステムを作っていく。そうしたことが、社会インフラとしての情報システムに求められる課題ではないかと考えています。

その他の地域の台風・ハリケーン

昨年は歴史に残る台風201330号がフィリピン南部に大災害を引き起こしましたが、今年も台風22号が猛烈に発達してこの台風の再来かとも言われましたが、上陸前に勢力が衰えたため、死者18名にとどまりました。

台風の活動度

今シーズンの台風の活動度ですが、災害情報データベースの台風強度指数データベースを使って台風シーズンごとの強度指数を調べてみると、2014年に特筆すべき状況は見られません。 ただ発生数が少ない中でも、中心気圧920hPa以下まで発達した台風が5個もありました。調べてみると、7個の年が1971年1987年1997年、6個の年が1970年となり、5個はそれに次ぐ多さとなります。発達した台風が多かった年と言えるでしょう。

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