2015年(平成27年)の台風に関する情報のまとめ

2015年12月31日

2015年(平成27年)の台風の発生個数は27個と、平年よりも少し多い発生個数でした。台風上陸数は4個と平年値(2.7個)よりは多くなりましたが、2014年と同じでした。まずは日本に影響を与えた代表的な台風をピックアップしてみます。 台風201511号 (NANGKA) 台風の動きが遅かったため、西日本を中心に雨量が増えて各地で影響が出ました。 台風201517号 (KILO)および台風201518号 (ETAU) 2つの台風が絶妙な位置関係を進んだため、湿った暖かい空気が関東地方や東北地方に長時間にわたって帯状に流入するという非常に稀な気象現象が発生しました。この大雨は「関東・東北豪雨」と命名され、鬼怒川などの河川では氾濫、決壊が相次いで、栃木県や茨城県、宮城県を中心に大きな被害となりました。 台風201521号 (DUJUAN) 先島諸島は台風15号でも猛烈な暴風を受けましたが、極めつけだったのがこの台風21号で、与那国では最大瞬間風速が81.1m/sという記録的な暴風となりました。台風が猛烈に発達しながら先島諸島を襲うケースが続いたことが、記録的な暴風が連続した一因かもしれません。
その他にも、記録に残る台風がありました。まず台風201512号 (HALOLA)は、越境台風かつ復活台風というレアな記録を達成しただけでなく、西経域から進んできた台風として観測史上最も西まで進んだ台風にもなりました。従来の記録である東経129.6度を上回り、東経129.1度まで進んで九州西岸に回り込み、西から九州に上陸して一生を終えました。 もう1つの記録は、台風の毎月発生という記録です。台風27号が12月に発生したため、1月から12月までのすべての月で台風が発生するという、観測史上初めての記録を達成しました。今年の前半は発生ペースが記録的に早かったわりには、1年を通してみると平年とそれほど変わらない発生数に落ちつきました。このことは台風が1年を通して万遍なく発生し、集中的に発生する時期は逆に少なかったことを意味しています。

鬼怒川洪水に関する問題

2015年最大のニュースといえば、やはり関東・東北豪雨でしょう。鬼怒川の水が堤防を越えて溢れ、濁流が家や田畑を飲みこんでいく映像は、多くの人々の記憶に残ったことでしょう。治水が進んだ現在においても、数十年から数百年に一度という稀な大雨に対しては、洪水を完全に防ぐことが難しいことを示した災害だったと思います。 鬼怒川は利根川水系の重要な支流であり、国が直轄管理する一級河川です。そして利根川は、日本の治水事業の象徴的な存在の一つと言ってよい最重要河川で、その治水には江戸時代から数百年に及ぶ努力が積み重ねられてきました。利根川がなぜそれほど重要視されるかといえば、もし利根川が上流部で決壊すれば、その水は人口密集地帯を伝って首都東京まで達するからです。そのような災害が実際に発生したのが、1947年のカスリーン台風でした。関東周辺に500mmから600mmの雨が降って利根川が増水し、埼玉県で破堤して溢れた水は5日ほどかけて江戸川区にまで達しました(Wikipediaに浸水範囲の図面あり)。このような災害を二度と繰り返さないというのが、利根川の治水計画の根本にあります。 今回の台風でも、鬼怒川の上流部ではカスリーン台風に匹敵する600mm以上の雨となりました。しかしカスリーン台風以来の治水事業の進展によって、今回は利根川本流を死守することができました。遊水地を作ったり流路を付けかえたり堤防を強化したりといった河川そのものを対象とした治水だけでなく、今回は上流部のダムにおける大量の貯水が、流量を下げることに大きく貢献したことが指摘されています。必死のダム制御によって流量を抑えたにもかかわらず、鬼怒川の流量は観測史上最大に達したわけですから、今回の大雨がいかに稀な大雨だったかがわかります。 常総市付近で鬼怒川と並行して流れる小貝川では、台風198610号による堤防の決壊で大きな被害を出しています。その教訓もあって、鬼怒川も一級河川として重点的な対策を進めていたはずですが、自然堤防となっている部分や旧河道となっている部分にまだ弱点が残っていました。今回は本流を守るために支流を溢れさせたわけではありませんが、本流から支流に至る河川の全体を平等に守ることは一朝一夕に達成できることではありません。特に今回の洪水地域は、古来なんども川が流路を変えながらウネウネと流れていた地域です。コストと土地利用のバランスを取りながら、暴れ川との付き合い方を文化としていく必要があるのではないでしょうか。 今回の水害の問題点は、大別して3点ありました。第一が自然堤防の管理です。一級河川という重要河川でありながら、堤防部分を国がすべて管理できているわけではないというのは、社会にとっては意外な事実でした。特にズームアップされたのが、太陽光発電所の建設に伴って堤防を掘削したことが、水害を引き起こしたのではないかという疑惑です。この太陽光発電所の問題についてはエレクトリカル・ジャパン発電所と災害ページに関連情報をまとめました。結論としては太陽光発電所は水害の主要因ではないということになりましたが、自然堤防が私有地だと行政は手を出せないという状況のままでよいのかというのは、今後考えるべきテーマだと思います。 第二が河川情報の伝達です。マスメディアの報道では、気象情報は頻繁に伝達されるのに対して、河川情報はそれほど目立つ存在ではありません。そのため、大雨が予想されるという気象情報は伝わったかもしれないが、それによって引き起こされる洪水などの防災情報は、十分に周知されていなかったのではないかという懸念が生まれました。この懸念に関連する問題として、気象警報における特別警報の取り扱いの問題があります。2013年のまとめ2014年のまとめでも特別警報の問題をカバーしてきましたが、今回は新たに「洪水警報はあるのに洪水特別警報はない」という問題が浮上してきました。洪水特別警報が存在しないのは、決して忘れたわけではなく意図があってのことではありますが、警報レベルでは大雨警報と洪水警報の両方が存在するのに比べると、特別警報レベルにおける洪水の扱いの軽さが気になります。こうした特別警報の問題やマスメディアの伝え方の問題は、すぐに解決できるものではありませんが、川の防災情報を改良してウェブ経由での情報伝達を改善することには早急に取り組んで欲しいと思います。 第三が洪水イメージの共有です。鬼怒川から水が溢れた常総市では、洪水はゆっくりと下流に移動していき、浸水地域も徐々に広がっていきました。ところが、このような浸水地域の拡大は、必ずしも地元住民や行政の間で共有されていなかったようです。このようにゆっくりと浸水地域が下流に移動していく現象は、先述したカスリーン台風2011年のタイ大洪水でも起こったことで、こうした教訓が共有されていれば被害を減らせたかもしれません。浸水そのものは避けられないとしても、人間や財産を逃す時間はあるからです。とはいえ、時間さえあれば問題が解決できる、というわけでもありません。例えば、カスリーン台風の再来によって東京まで浸水が広がるケースでは、避難すべき人口規模が2桁ほど多くなるため、たとえ逃げる時間が十分あったとしてもすべての人が逃げ切ることは難しいことが指摘されています。このときに問題となるのが、自治体を越えた避難です。常総市でも、同じ自治体の避難場所に移動するより、隣の自治体の避難場所に移動する方が正解だったケースがありました。ところが日本の避難計画では同じ自治体への避難しか想定されておらず、これも今回の水害で明らかになった問題点の一つと言えるでしょう。

ひまわり8号の登場

2015年のもう一つの大きな話題はひまわり8号の登場です。これによって台風の高頻度観測などが可能となって、気象現象に対する新しい知見が得られることが期待されています。ひまわり8号の詳しい内容については、歴代の静止気象衛星:ひまわり・ゴーズ・GMS・MTSAT・Himawariひまわり8号ウォッチングなどにまとめています。 台風の高頻度観測に関する人々の関心も非常に高く、デジタル台風公式Facebookページにアップロードした台風13号の動画は23万回以上の再生を記録しました。これによって、台風がどのように発生するのかを初めて見ることができた人も多いでしょう。私自身にとっても、これまでは1時間おきの動画しかなかったわけですから、2.5分おきの動画のダイナミックさに感動を覚えるとともに、この動画を分析してみたいという気持ちも出てきました。これは来年以降につながる課題として考えていきたいテーマです。

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