2016年08月17日 18:00 JST
台風7号(CHANTHU)は、銚子沖をかすめて東北地方太平洋沖を北上する間に、それまで消えていた暴風域が復活しました。これを再発達と言うべきかは微妙なところですが、台風のスピードが早まることによって中心の東側で風速が大きくなる効果(参考:台風の右側が強い理由)などが効いているのかもしれません。ただし少なくとも、台風の勢力が衰えている気配がないことは確かで、進行方向前面にあたる北海道では各地で大雨となっています。なかなかしぶとく勢力が衰えない台風と言えます。
そして勢力を保ちながら北上した台風は、ついに17時半頃には襟裳岬付近に上陸しました(参考:気象庁防災情報XML(全般台風情報))。北海道への台風の上陸は過去にも多くの例がありますが、そのほとんどは以前に別の場所に上陸した後の再上陸であり、再上陸でない上陸に限定するとかなりレアな出来事となります。このことを台風上陸・通過データベース(完全版)で調べてみましょう。
ここで検索条件に「北海道」と入れてエンターキーを押すと、北海道に上陸または再上陸または通過(参考:台風の上陸・接近・通過の定義)した台風のリストを表示できます。これによるとほとんどが再上陸であり、1950年代や1960年代のような古い時代の記録を除けば、釧路市付近に上陸した台風199311号の例しかありません。この台風の本土接近後のコースは今回の台風7号と非常によく似ており、銚子沖をかすめた後に北上して北海道に上陸しています。通常この緯度に達すると台風は北東に流されてしまうため、本州をよほどギリギリでかすめないと北海道には上陸できないことになります。また北海道に達する前に勢力を落としたり、温帯低気圧に変わったりしてもダメで、これらの条件が満たされる季節は非常に限られています(例えば8月)。
実は先の台風6号も、速報レベルの情報では根室半島付近を通過したことになっています(参考:気象庁防災情報XML(全般台風情報))。これもかなりレアな出来事で、台風上陸・通過データベース(完全版)で調べてみても過去には台風199011号の一回しかありません。この台風の経路はかなり珍しいものですが、北海道に接近する前に本州に一度上陸しているため、これは再上陸に相当する通過であり、根室半島において上陸に相当する通過を記録している例は過去にありません。
このように今年の台風シーズンは、北海道に「初」上陸する台風が2個続くという、ここ数十年になかった状況が発生しています。その原因はおそらく2016年春に終息したエルニーニョ現象で、台風が発生してから北上する位置が東に寄っていることが原因ではないかと考えられます。
2016年08月15日 19:30 JST
台風7号(CHANTHU)は小笠原諸島に接近中ですが、その後は北上して関東から東北、北海道にかけての東日本の太平洋岸に接近または上陸するというように、予報が変わりました。ただし接近までは現状の勢力を保つ見込みで、これから発達する見込みはなさそうです。
さて、上の段落では何気なく「予報が変わりました」と書きましたが、台風予報についてどんな時に「予報が変わった」と言えるのかは、実はそう簡単な話ではありません。台風予報は予報円という形式で発表されますが、これは予報時間においてこの中に70%の確率で台風の中心が入ることを意味する表現であり、円の中心に向かって台風が進むことを意味する表現ではありません。予報円を通過するコースであればどんなコースでもよく、予報円の東側を進もうが西側を進もうが「想定内」です。つまり、中心を外れるコースになったから「予報が変わった」というは不適切であり、かえって誤解を招くことにもなりかねません。
今回の台風でも、発生直後の14日朝の予報は予報円が相当に大きく、96時間予報では四国から関東まで、120時間予報では日本海から太平洋まで予報円が広がっていました。これを見て日本縦断コースかなと「早とちり」すれば、確かに予報が変わったようにも思えてしまいますが、東日本沖の太平洋を進む可能性だってちゃんと予報円に含まれていたのだから、予報が変わったわけではないとも言えるのです。では今回の台風で「予報が変わった」と言うのは不適切なのでしょうか。私は以下の理由から、「予報が変わった」と言うことは妥当だと考えています。
では、「予報が変わった」と言ってもよいのは、どんな場合なのでしょうか。基本的には、予報円が大きく動いた場合、すなわち当初の予報円から外れるような場所に予報円が移動した場合は、予報が変わったと言ってよいと考えます。これは予報の定義から考えてあまり問題ないとは思いますが、ここで重要なのはなぜそんなことが起こるのかという点です。その理由について、シナリオと時間という2つの側面からさらに深く考えてみましょう。
まずシナリオの問題です。今回の台風の場合、最初の予報では西日本にも影響が出る可能性がありましたが、その後の予報でその可能性は消え、西日本では備えが不要になりました。これは、地域に関係する鉄道や農家などの事業者にとって、台風に備えるシナリオが大きく変わることを意味します。このように、時間とともに徐々に可能性が減少するのではなく、ある時点でいきなり可能性が消滅するというケースは、「予報が変わった」と言ってよいケースだと考えます。このようなケースは、複数の可能性の中から1つが選ばれるような時点で発生します。その代表的な例が、台風は転向する/しないという2つのシナリオが存在する場合で、二択シナリオのうち一つが選ばれた段階で、予報円の大きさは一気に縮まります。つまりシナリオが選ばれる瞬間とは、予報円の大きさが一気に縮まる瞬間とも言え、これは「予報が変わった」というべきタイミングを知る一つの根拠となります。
次に時間の問題です。これは上記のようにシナリオが変わるわけではなく、速度の予報が大幅に変わる場合です。速度が変わっても台風によって影響を受ける地域は変わりませんが、台風が接近する日が大幅に早まったり遅まったりするため、台風への備えについては対策を前倒しにするなどの変更が必要となります。このことへの注意を喚起するためにも、これは「予報が変わった」と言うべきケースでしょう。そして、このようなケースで注意すべきことは「速度の変化は見逃しやすい」という点です。シナリオには変化がないため、速度が変わっても変化に気付きにくいのです。このことを、今回の台風について具体的に見てみましょう。
まずシナリオの変化を見てみます。台風予報履歴/発表時刻固定(Google Maps版)の白いマーカーは長時間予報に対応しており、これをクリックすると長時間予報の変化を見ることができます。最初の予報では四国から関東まですべてを含むシナリオでしたが、8月14日21時の予報で西日本方面に進む可能性が消えるとともに、予報円のサイズも一気に小さくなりました。これはシナリオの変化がこの時点で発生したことを示します。とはいえ、当初の予報円も東日本に進む可能性を指摘していたわけですから、これだけでは予報円が大幅に動いたとは言えないと思うでしょう。
次に速度の変化を見てみます。台風予報履歴/予報時刻固定(Google Maps版)では、予報時刻が同一の予報円がどのように変化してきたかを見ることができます。そこで予報円の動きを確認してみると、予報円の動きはどれも北向きとなっており、しかも当初の予報円を大きく逸脱しているものもあることがわかります。つまり、一見すると台風の進路は東寄りに変わったように見えますが、実際には台風の進路は北向き(より正確には北東向き)に変わったのです。この変化が意味するのは、台風が接近する時刻が大幅に早まるということです。これは災害への備えに非常に重要な情報であるにもかかわらず、日々の予報円を見ているだけでは認識しづらい盲点のような情報でもあります。今回の台風で「予報が変わった」ことを喚起すべきと考えた最大の理由はこの点にあります。
このような予報円のトリックはなぜ発生するのでしょうか。その理由を解明するには、予報円が実は2種類の情報を混ぜた表現であることを理解せねばなりません。その2種類とは、方向と速度です。今回の場合、東側のコースを進めば早くなり、西側のコースを進めば遅くなるという、方向と速度が絡みあった予報になっていました。そしてある時点で東側のコースが選ばれたことから、当初の予報円から受ける印象よりも大幅に速いスピードとなって、関東地方への接近日が最初に予想された日よりも1日早まることになりました。このように、進行方向に複数の可能性があり、しかもそれぞれで速度が異なる場合、予報円から受ける第一印象はあまり信用できないことがあり、日々最新の情報を確認する必要があります。
さて、このように問題を抱える予報円という表現ではありますが、さりとてこれに代わるよい表現があるわけでもありません。予報円の問題や、それに関連するアンサンブル予報の問題は、過去に何回か取り上げましたのでここでは繰り返しません。本サイトを予報円で検索してみて下さい。
以上、最初の予報円が大きい場合には、このような予報円のトリックに惑わされることがあります。予報円がどのように縮小していくのかを注意深く見守るとともに、当初に受けた印象から「予報が変わって」いないか、常に最新情報を確認することが重要です。
2016年08月14日 06:00 JST
台風7号(CHANTHU)がマリアナ諸島で発生しました。予報によると、明後日には小笠原諸島付近を通過し、その後は本州に接近する可能性があります。ただ、 気象庁の5日予報の予報円はまだ大きいですし、 米軍予報は気象庁よりもやや東寄りのコースを予想しており、実際にどこに接近するのかについては、今後も予報が変わる可能性があります。
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